177話 死屍累々

「レオ様、お知らせします。空と陸の両方からの偵察が完了しました。敵兵は北に展開する野戦二万、都市防衛に五千、西の森に伏兵三千です」


 一夜を明かし互いに布陣は整った。私たちがトーアを目指し進軍している間に完全に馬防柵などを用意されてしまった分の出遅れはある。

 しかしこちらにも三万相手なら何とかなるだけの用意はあるのだ。


「後に来る二十万の国有軍は北から、エアネストからの援軍は東からだな。私たちは南から北にある皇都を目指して戦っている訳だが……、これを南北戦争とでも呼ぼうか? ……いや、それでは縁起が悪いな」


 リンカーンなどいないが私たち南軍が勝たねばならないのだから。


「…………? よ、よく分かりませんが、とにかくここは地形的にあまり良くありません」


「ああ。だから我々も南から東にかけて展開し、トーアの街を半包囲する」


 防衛兵器を南にだけ向けられてはかなわない。今回ばかりは真正面からぶつかり合うのは部が悪すぎる。


「レオ様は本当にこんな前線に立って戦うのですか……? やはり下がってエルシャ様の傍にいた方が……」


「タリオ、私を誰の息子だと思っている? ……ふっ、まぁ父の背中に追いつけるとは思っていない。だが最前線で戦い英雄と呼ばれるだけの活躍をした父の背中を追いかけ続けなければ、いつまでも私は“英雄の息子”でしかない」


 これは私が“王”になるための戦いだ。勇者や英雄と呼ばれるような行いではないかもしれない。善か悪かは分からない。

 しかし、この世界を変えるため、まずは国を統べる。それだけの覚悟を背負い、戦わなければならない。


「プライド……とも違うが、責任や義務、最低限の務めだ。それに最悪私が死んでもエルシャが生きているならさしたる問題はない。私の思いを引き継ぐ者が現れればそれでいい。……最後に一目、エルシャに会えばよかったと少し後悔はしているがな」


「おいレオ、強気になったと思ったら急に弱気な言葉にすり変わっちまってるぜ」


 鎧の上に陣羽織を羽織った完全武装の歳三がそう笑いかける。

 物々しい雰囲気の中でも私の緊張をほぐそうとしてくれているのだろう。


『……さてレオ、機は熟しました。レオの号令で始めるのです』


「……了解だ孔明。──タリオ、剣を」


 私は腰にある自分の刀ではなく、タリオから別の剣を受け取りそれを掲げた。亡き先帝から賜った宝剣である。

 この戦いの正当性を示すが如く、剣の柄に散りばめられた宝石が太陽の光に燦然と輝く。


 私はふっと息を大きく吸い込み、魔導拡声器を使い高らかに宣言した。


「これより雌雄を決する戦いを始める! これは腐った帝国を救うための聖戦だ! 正義は我らにあり! 必ずや彼の逆賊とそれに与する者どもを討ち取るのだ! ──全軍攻撃開始!!!」


「うぉぉぉぉ!!!」

「帝国に栄光を取り戻せ!」

「進めェェェ!!!」


 二万の兵が一斉に走り出す。大地が揺れ、土煙が辺りを覆った。


「陸空からの同時攻撃だ! ハオラン! まずは全体攻撃!」


『分かっておるわッ!!!』


 我が軍の前衛が敵弓兵の射程に入る直前に、竜人による絨毯爆撃が行われた。

 爆炎と煌めく魔石の爆発が敵軍を襲う。


「ぐぁぁぁ!!!」

「ふ、伏せろ──! あああ!」

「あ、足が……!」


「進め! この隙に柵を壊し堀を埋めるのだ!」


 被害を出しながらも強引にここを突破しなければ攻撃もままならない。


「炎魔法で柵を焼き払え!」


 敵が混乱している内に接近し、魔導師の射程範囲に収めた。


「ファイヤーボール!」

「フレイムスピア!」


 ただでさえ貴重な魔導師。それに炎魔法が使える人材となるとそれはかなり限られてくる。

 爆撃と炎魔法で多少は壊せたとはいえまだ半分以上の柵が残っている。


「退いてろ! ──『魔剣召喚』! エクスプロージオ!!!」


 獣人との戦いでも見せた父の焔の魔剣による例の必殺技により更に柵は吹き飛ばされた。しかしそれでもまだ完全ではない。


「後は剣で叩き壊せ! 弓兵は援護を!」


「了解だ!」

「了解しました!」


 タリオたちファリア弓兵は連弩を使い近距離から手数で、敵軍を牽制する。


「うわぁぁぁ!」

「くそっ! おらァ!!」

「大丈──ぐぉっ……!」


「クソッ……!」


 しかし地の利があるのは向こうに変わりない。柵の隙間から槍で一方的にやられ倒れていく兵士たちを見るのは胸が痛む。

 私は兵に死ねと命令するしかないのだ。屍の山で堀を埋め、それを乗り越えるしか。


「レオ様! 敵の壁上兵器に動きが!」


「ルーデル!全て黙らせろ!」


『──了解。攻撃開始する』


 今までルーデルは上空で待機させていた。大量の爆弾を抱えた状態では昇れる高度が大きく下がり、壁上に攻撃するのには反撃のリスクが大きく上がるからだ。

 そのため、敵の注意が私たちへの攻撃に向いた瞬間を狙っていた。


「おいなんでここに攻撃が──」

「ぐあァァァ!」

「バ、バリスタを向こうにむけろ!」


 壁上の混乱がここからでも分かった。

 次々に投下される爆弾は的確に敵の壁上兵器を破壊。街の防衛は丸裸になり、地上の敵軍も後方支援という頼みの綱を失った。


「お、おい! マズイぞこれ!」

「街の方が危険だ! 俺の家族がいるんだぞ!」


 不安は一瞬にして敵軍全体に広まる。


「今だ! 一気に畳み掛けるぞ!」


『任せろ……!』


「ハオラン! ……グッドストライクだ!」


 補給を終えた竜人部隊による第二波の爆撃。これにより敵軍の最前線が崩壊。柵もあらかた破壊された。


『レオ、勝機です! 一気に畳み掛けましょう!』


「よし行くぞ! ──全軍突撃!!!」


「ウォォォ!!!」

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