39話英雄たちの帰還
先頭を駆けるあの騎士は、紛れもなく父であった。
「北門は開けない事を伝えてこっちまで先導してきたんですよ!」
タリオはしたり顔をしてそう胸を張る。
一万の軍勢は、この間見たファリア三千とは比べ物にもならないほど大きく見えた。それは父という男の偉大さか。それとも母という安心感の大きさか。
「すぐに軍楽隊にファンファーレの用意をさせろ!あとシズネさんらにも伝えて来てくれ!街の中心で帰還式を執り行う!」
「分かりました!」
あまりの突然の出来事で、何も歓迎する準備が出来ていない。私はタリオに命じて屋敷の方へ向かわせた。
私の姿に気がついたのであろう。父が単騎で離脱し私の方へ向かってきた。
「父上!!!」
私は手を掲げる。
父は遂にその顔がはっきり分かる距離まで近づいてきた。
「レオ!!!」
私たちは馬から降りて、強く抱き合った。
「無事で良かった!良く援軍が来るまで持ちこたえたな!流石は俺の息子だ!」
そう言い、父は私の頭をガシガシと撫でる。私の目には自然と涙が浮かび上がってきた。
「生きて会うことが出来て良かったです・・・!父上もご無事で何より!」
「うむ!また皆一緒だ!」
「それでは母上は?」
「ルイースは後続の補給部隊の方だ。なに、母にもすぐに会える!」
街のすぐ側まで軍勢が迫り、住民たちも彼らの帰還に気がついたようだ。ざわざわと西門前の広場に集まってきている。
「皆の者!我々は見事、任務を果たしウィルフリードに戻って来た!よくぞファリアからの攻撃に耐え忍んだ!もう大丈夫だ!」
「うぉぉぉ!」
「ウルツ様バンザイ!!!」
父の言葉に辺りは湧き上がった。
続々と本隊の兵たちも街の中へ入ってくる。彼らの顔には安堵と達成感の色が伺えた。
「それでは父上、街の中心で凱旋をしましょう!きっと領民たちも父の顔を見たいと思っています!」
「うむ!そうしようか!」
父は長旅の疲れも感じさせず、兵士たちに的確な指示を飛ばし隊列を整える。
「それではゆっくり行きましょう!」
「それじゃあレオが先導してくれ!」
「はい!」
私はなるべく人通りが多そうな道を選んで街の中心へ向かった。すれ違う人々は一瞬戸惑っていたが、それが父たちだと分かるとすぐに歓声へ変わった。
もし事前に今日帰ってくると知らされていれば、シズネたちはまたビラを手書きで作ってくれただろう。街の人を集めて大々的に彼らを祝えたのに。
それでも、遠征隊の帰還を知った人々は声を上げ喜び、その音に気がついた人が家の中から顔を覗かせる。そうやって人から人へ、そしてウィルフリード全体へと英雄たちの帰還は伝わっていった。
「レオ、後で我が息子の武勇伝を聞かせてくれ」
父はそう笑ってみせた。
「えぇ!父上の英雄譚もぜひ!」
私の牛歩戦術(馬)により、中心部へ着く頃には軍楽隊やらパレードの準備が進んでいた。タリオも遠くで手を振っているのが見えた。
「旦那様お帰りなさいませですぅ!」
「おぉ、シズネ殿!留守の間レオの面倒を見て貰って感謝する!ルイースもシズネ殿に会いたがっていたぞ!後ろの方にいるから会いに行ってくれ!」
「奥様が!」
シズネは耳をピクピクさせ、尻尾はぶんぶん横に振っている。
「シズネさん、後は私の方でなんとかやっておくので、母にも顔を見せてあげてください」
「ごめんねレオくん!行って来るね!」
巫女服は走りにくそうだったが、盛大にふさふさの尻尾を揺らしながらシズネは列の後方へは駆けていった。
私は先頭が中心の広場を抜けたその瞬間、軍楽隊の隊長らしき指揮者に手で合図を出した。彼は私の意図を察したのか、大通りの左右に展開した軍楽隊が一斉にファンファーレを吹く。
それと同時に辺りからは一層の歓声が湧き上がった。
「英雄たちのお帰りだー!!!」
「ウルツ様よくぞご無事で!」
「ウィルフリードはもう安心だ!」
馬の上の父は民に向かって手を振る。その後ろに続く兵士たちも手を掲げて歓声に応じたりと、問題なく凱旋は続いた。
「父上、この後はどうしますか?」
「一度軍として任務終了を宣言する必要がある。兵舎の広場で解散にしようか」
「分かりました」
私は馬を左に手繰り、中心から少し南にある兵舎と屋敷の方へ向かった。
私が方向転換すると、後ろの総勢一万の兵も私に合わせて動く。それはまるで自分がこの軍の総大将となったかのようで、どこか気分が良かった。
その一方で、いつかは父の跡を継ぎ、常に一万の重責を背負っていかなければならないのだと、覚悟を強めた。
───────────────
「よし!それではここで隊列を整えよ!」
「は!」
兵舎に着くと、父の掛け声により、兵たちは整然と広場を埋めつくしていった。ウィルフリードに残っていた兵士も兵舎から出てきて彼らを迎え入れる。
「よう、ウルツ。お互い死に損なっちまったみてェだな!」
「歳三か!お前の働きはタリオから聞いたぞ!よくぞ最後まで戦い抜いた!」
「・・・そう素直に褒められると照れるな」
歳三はポリポリと頭を搔く。お互い戦いを終えた男たちにそれ以上の言葉は不要に思えた。
「レオ様!よくぞご無事で!」
「アルガー!」
隊の中腹にいたのであろうアルガーは私の元へ駆け寄ってきた。
「私の愚息を遣いに出すなどの配慮、痛み入ります・・・」
「いいんだアルガー。タリオは良くやってくれた!彼がいなければ私は今ここに立っていなかったかもしれない。それぐらい助けられた」
「父として誇りに思います・・・!」
「その言葉はタリオに聞かせてやってくれ。タリオにとっても、アルガーは誇りの父なのだから」
「はい・・・!」
アルガーは目頭に涙を浮かべながらうなずく。私の心配事もこれで一つ解決だ。
十数分後には後続の補給部隊も到着した。
その間、私たちは馬を担当の兵士に引渡した。兵たちも装備を武器庫へしまうなど、着々と任務は終わりの時へ向かっていた。
「───レオ!」
ある馬車から一人の女性が飛び降りた。
「母上!」
長い戦いのせいだろうか、髪は少し傷んでいるように見えた。しかし、その柔らかな体と甘い匂いは確かに母のものだった。
「ずっと母上に会いたかった・・・!」
「私もよレオ!」
父に頭を撫でられ、母にも抱きしめられる。それが今の私にとっては最大の幸せであり、平和の象徴に思えた。
こうして家族が揃って笑顔で言葉を交わす。そんな日々がいつまでも続けばいいと、強く願った。
「よいしょっと・・・」
後から母と同じ馬車に乗っていたシズネもやって来た。
あとは・・・・・・
「奥様!旦那様!お帰りなさいませ!」
「マリエッタ!お前も無事だったか!」
マリエッタら家の者も、早く父たちに会おうと勢揃いだ。
やがて広場には全ての兵が並んだ。
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