31話 次の英雄
歳三は具体的な人物名や土地の名前は出さずとも、自分が経験した戦いの内容を団長に伝えた。
「ところで、その「じゅう」と言うのは一体どのようなものなのでしょうか・・・?」
「そうだな・・・」
新撰組と言えば、剣豪揃いであるというのはあまりにも有名だ。それであるが故に、彼らは銃も用いたということを知らない人も多い。
戊辰戦争では多数の銃や大砲が使われた。
歳三も銃を使いこなし、陣頭に立ったという記録がある。
「こう、鉄の筒があってだな、そこから火薬の爆発の勢いで鉛玉を打ち出すって仕組みなんだが・・・」
当時使われていたのはスペンサー銃やウィンチェスターなどの単発式の銃だ。
当然、私も銃を作り軍に配備することを考えた。しかし、その計画はすぐに頓挫した。
まず、近代で最も有名なAK-47のような、連発式の銃は複雑すぎて再現が不可能だ。
なら、歳三が使っていたような単発式の銃ならとも考えた。だが、せいぜい剣を打つくらいの製鉄加工技術のこの世界では、銃なような繊細な武器の製造は極めて難しい事が分かった。
仮に火縄銃レベルの武器が作れたとする。しかし、この世界では火薬が一般的ではない。
硝石やらが取れる鉱山がほとんどなく、私個人の趣味では軍に配る量を確保できそうにもなかった。
もし本格的に火薬を使用する兵器の開発に注力するなら、それは国を挙げての一大プロジェクトになるだろう。
「見たこともない私には想像を絶するものだということしか分かりませんね・・・」
「すまねェな。色々と難しいところが多くてよ」
「いえ。・・・この世界で言う所の魔法がない分、そちらの世界ではそのような技術が発展したのかも知れませんね」
確かに、TNTのような強力な爆薬がないなら、手軽な爆発魔法で十分なのかもしれない。
事実、帝国の宮廷魔道士は、盾を構える騎士を吹き飛ばす程の威力の魔法が使えると聞く。それはさながらロケットランチャーに匹敵するだろう。
この戦い、そしてここでの会話はウィルフリードの軍事面に於いていい経験になった。
食事会も終盤に差し掛かり、テーブルにはデザートの果物が並べられた。
「そういえば、ファリアでは果物がよく採れるらしいですね」
「えぇ。それで儲けた金で今回のことを・・・」
「おっと・・・。これは失礼しました」
「いえ・・・」
元々、ファリアは穀倉地帯として有名で、帝国の食料を賄う農業中心の街だった。
それを商品作物や単価の高い果物に作替えし、田園都市として発展を遂げた。
その一方で、かつて大量の小麦が生産されていた土地で食えない作物を育て始めたことにより、帝国は重大な食料不足に陥った。
基本的にはウィルフリードのように、街ごとに農民と田畑を持っており、それぞれが自給自足できるようになっている。
しかし、大規模な軍を組織する皇都では、その巨大な人口と兵士を支えるために、各地域からの輸入に頼らざるを得ない。
「まぁ、貯め込んだ金が賠償金になってくれればいいんですけどね」
「ファリアは農作物で儲けた金で領地の大規模調査を行っていたらしいです。そこで判明したことには、農地に水を引く程度にしか利用されていなかった山が、実は豊富な資源を持つ鉱山だったとか」
「ほう・・・?」
さすが団長。今回の戦いに際して敵であるファリアについての事前情報をしっかりと叩き込んでいたようだ。
皇都の情報収集能力は我々の比ではないらしく、隣接するウィルフリードでさえも知らない情報を掴んでいた。
確かに、農作物だけであの大軍の武器を揃えるまでの稼ぎがあったとは考えにくい。何か別の金策があったと考える方が自然だ。
「まさかあの一面畑の、地方領土の典型のようなファリアが資源産出地域になるとは・・・。それには、あのバルン=ファリアという男の器は小さすぎた」
「身の丈に合わぬ力は、時に自分自身すら滅ぼしますね」
雑談もとい情報交換を行っていると、いつの間にかメインディッシュまで料理は進んでいた。
肉は貴族にとっても高級品だ。特に内陸のウィルフリードは魚類を得ることが出来ないため、家畜化した魔獣の肉は貴重なタンパク源だ。
「こんなにご馳走になって、なにもお返しができずに申し訳ない」
「いえ、これは私たちから団長への個人的なお礼です。あなたの突飛な作戦はウィルフリードを救った」
「では、遠慮なく・・・」
団長は肉にナイフを下ろす。
一口サイズに切り分けた肉をフォークで口に運ぶ。
「・・・・・!これは美味い!このちょっと刺激的な風味が肉によく合っている!」
「ありがとうございます。うちのシェフも喜びます」
私は貴重な肉をより楽しむため、香辛料を探し求めた。
そこでやっとアキードからの行商人経由で、胡椒に似たスパイスを手に入れることができた。料理文化の発展していない帝国に、香辛料を用いた料理は革命的だ。
私も肉を口いっぱいに頬張る。
最初の頃は、魔獣の肉を口にすることに抵抗感があった。
しかし、家畜化され長いことたった魔獣は大人しく、味もいい。元の世界で言うイノシシとブタのような関係だ。
ジューシーな肉汁が脳に幸せな気持ちを充満させた。
「そういえば、レオ殿の左手につけていらっしゃる素敵なブレスレットはどんなものなのでしょう。会議の時から、どこか神々しいぼんやりとした輝きを放っていて気になっていたのです」
「あぁ、これですか」
私は腕を机の上に出し、袖を捲って見せた。
団長に言われるまで気が付かなかったが、確かにブレスレットはもやもやとした光を放っていた。自分ではずっと身につけているので変化に気付きにくいのかもしれない。
「これは私が六歳の時に母から貰ったプレゼントなのです。魔力の無い私はこのブレスレットに魔力を溜めて・・・。、あ!」
まるで目のような模様の魔石を覗き込んで思い出した。
「ということは『英雄召喚』が使える・・・?」
「おぉ!もしかして、人間を本当に召喚するところを見られるんですか!?」
団長はまた興奮気味に話す。
「レオ、今スキルを使っちまうのか?」
反面、歳三は冷静に諭す。
「お前のそのスキルは、・・・俺が言うのもなんだが、強力なものだ。その一方で数年単位で魔力の蓄積が必要な制限もある。ここは冷静に考えて使ったほうがいいんじゃねェか?」
その通りだ。
何故このタイミングで魔力が溜まったのかは分からない。だが、四年ぶりに『英雄召喚』が使えるようになった。
次にいつ発動できるかも分からない以上、熟考の末に次の英雄を決める必要がある。
もちろん、歳三や、可能であれば父や母にも相談すべきことだ。
だが、私には一人、心に決めていた人がいる。
ファリアのように暴走しないよう私を諫め、好機には後押しをするような、冷静かつ聡明である補佐。
今回の戦いで嫌というほど見せつけられた戦いの素人さ。そんな私の頭脳として、このウィルフリードを任せても良いと思える歴史上最高の軍師。
私は逸る気持ちを抑えきれず、彼の名前を呟く。
「諸葛孔明・・・!」
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