25話 勝利宣言
「うぉぉぉ!!!英雄王万歳!!!」
「新しい英雄に乾杯!」
「レオ様こそこのウィルフリードの救世主だ!!!」
その場にいる人々の声で大地は震えた。家や壁に反響する声が、まるで街全体が勝利を祝っているかのようだった。
誰がどこから持ってきたのか、家から花が撒かれた。散った花びらは風に舞う。
酒を掛け合い肉にかじりつく。辺りはどんちゃん騒ぎで、いつの間にかそのまま宴が始まっているようだった。
「レオ様、改めておめでとうございます!」
「やめてくれタリオ。私は何もしていない。私なんかよりも歳三やゲオルグ達こそ称えられなければいけない」
そう言えば傭兵団を率いてたナリスは結局どうしたのだろう。ここにはいないが、ゲオルグ達と負傷者の収容をしているのだろうか。
「どうしますか?このまま宴に参加しますか?」
「いや、そういう訳にもいかないだろう。歳三も心配だ、一度屋敷に戻ろう」
「分かりました」
今夜、最後の会議もとい軍議をもって私の戦いに区切りを付けよう。明日からは戦後処理の会議を文官たちと行う必要が出てくる。
「シズネさん!先に戻ってますね!」
「はぁい!配り終わったら帰るねぇ!」
そう言うシズネの前にはまだ百枚近くあるだろうチラシが山積みになっていた。もちろん活版技術などない。全て手書きだ。その努力が手についているインクから察せられた。
帝国は戦争国家であるため、武官の地位が高く、文官が蔑ろにされがちだ。しかし、文官の協力なくして国家は成り立たない。
シズネのような優秀な人材を育てるためにも、教育制度の改革もいつか手をつけたいと思っている。
他にも街の復興ついでに色々やりたいことがある。それは明日からにして今日は早く肩の荷を降ろしたい。
───────────────
タリオと屋敷に着いた時、既にいつもの会議を始める時間は過ぎていた。
その場には歳三、ゲオルグ、ナリスだけがいた。
「他のみんなは?」
「セリルとベンはお祭り気分らしいな。まァ、今日ぐらいいいんじゃねェか?」
歳三が笑いながら答える。
歳三は服こそ破れ髪も乱れていたが、あの怪我は傷一つなく治っていた。
「歳三は本当に大丈夫そうだな」
「あァ、マリエッタがな……」
歳三の視線の先にいるマリエッタは恥ずかしそうに俯いている。
「ゲオルグも負傷者の収容ご苦労だった」
「犠牲者や負傷者の数はこっちでまとめてある。後で確認してくれ」
ゲオルグはボロボロになった鎧は脱いできたようで、腕や頭には包帯が巻かれていた。だが特に大きな怪我は見られなくて安心した。
「ナリス、どこに居たんだ?心配したんだぞ」
「……・・」
ナリスは私の呼びかけを無視して目をつぶったままだ。
「どうしたんだ一体」
「こいつはなレオ様。西門を突破した後に突然戦線を離脱したんだ」
「それは本当かナリス!?」
やはり傭兵は……
「おいレオ、恐らくだがお前の考えてることは間違ってると思うぜ。ナリスは逃げ出した敵の傭兵を味方に付けられないかと交渉に行ってたんだ」
歳三が割って入る。
「結果としては……、交渉は決裂しちまったみたいで、結局ナリスは最後の北門の戦いに間に合わなかったってワケだ」
「申し訳ない!」
ナリスが机に頭を打ち付けて謝る。
「私の独断専行で傭兵団の作戦に乱れが生じた!これも全て私の責任だ!処罰するなら私だけを頼む!あいつらはこれからもこのウィルフリードで働かせてやってくれ!」
「やめろナリス。顔を上げるんだ」
ナリスは苦しそうな顔で私をじっと見つめる。それはどんな処罰も受けると言わんばかりの表情だった。
「謝るのは私の方だ。私が頼りないが為にナリス達に無理をさせてしまった。申し訳ない」
私は頭を下げた。
「そんな……」
「その中でナリスは最善の道を探そうとしてくれたのは分かっている。処罰など出来るわけないよ」
「ありがとうございます……、レオ様……!」
ナリスの目には涙が浮かんでいた。
「それよりもだ、歳三は無理をし過ぎだ。少しは自重してくれ」
「そんなこと言ったら、レオだって死ぬつもりだったじゃねェか!じゃあ、みんな死ぬ気で頑張ったってことでいいだろ?」
「それもそうだな」
久しぶりに、この屋敷に笑い声が響いた。
「じゃあそろそろ終わりにしようか」
既に日は沈み、月と星が夜空を彩っていた。
街の中心部だけはオレンジに照らされていて、恐らくはあの広場で大きな焚き火でも囲んで宴をしているのだろう。
「これにて対ファウル防衛戦を終結とする!皆の者御苦労だった!」
その場にいる全員が拍手をした。これでこの会議も終わりだ。
「そんな名前だったのか?」
「いや、今つけた」
「おいおい」
「後世に残す資料にはそう書いておいてくれ」
「なんだ、レオも歴史書に名を残すつもりか?」
私たちは少しばかりの談笑を楽しんだ後、各々の家や部屋に戻った。
いつ食べられるか分からないからと、ちょくちょく時間のある時に口に詰め込んでいたため腹は空いておらず、夕飯は断った。それよりも早くゆっくり寝たい気持ちが勝っていたというのもある。
───────────────
ベットの上でこの五日間を振り返っていた。
突如として始まった、私の人生で初めての戦争。
初めは犠牲を恐れ、攻撃という最善の選択が出来なかった。
逆に最後は望みを捨て、自らの命を戦場に捨ててしまおうとまでしてしまった。
私はまだまだ未熟であると思い知った。父のように立派な戦士には遥かに及ばない。
私は初めて人を殺した。
敵だというだけの、名前も知らない一人の人間をこの手で殺したのだ。今もあの時に見た、彼の最後の顔が忘れられない。剣から伝わったあの感触は今も手に残っている。
多くの犠牲を出しながらも、皇都からの援軍のおかげで何とか勝つことが出来た。この辛勝は私の今後の人生で忘れられない出来事になるに違いない。
戦場を駆け回り、心も体も疲れ果てた私は次第に意識を失い、泥のように深い眠りについた。
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