4-20. 空飛ぶオープンカー
チャペルを出ると、オープンカーが二人を待っていた。
「えっ!? 何これ?」
驚くユリア。
「何って、これからパレードですよ」
ネオ・シアンはニコッと笑って言う。
うわぁぁぁぁぁぁぁ! うぉぉぉぉぉぉ!
まるでサッカースタジアムでゴールが決まった時の様な、怒涛の歓声が高層ビル群に響き渡った。
「えっ!?」
驚いて見回すと、なんと、周り一面人人人……。高層ビル間の道も公園の中も周りの道も全部人で埋め尽くされていた。そして、みんなユリアとジェイドの描かれた小さな国旗を手に振っている。
「ど、どういうこと?」
唖然としていると、パリッとしたスーツを着た青年がやってきて言う。
「第三十一代大統領のアルシェ・リヴァルタ三世です。今日はご結婚おめでとうございます。国民が皆お祝いしたいと今日は詰めかけております。ぜひ、一周して手を振っていただけませんか?」
「だ、大統領……。あ、そ、そう? まぁ、手を振るだけなら……」
「ありがとうございます。光栄です。では、お願いします」
そう言って大統領はうやうやしくオープンカーのドアを開ける。
ユリアたちは困惑しながらオープンカーに乗り込んだ。
パァ――――!
クラクションが鳴らされ、オープンカーは浮かび上がる。
うぉぉぉぉぉぉ!
ひときわ高い歓声が上がった。
オープンカーはゆっくりと高層ビル群の周囲を飛び、ユリアは戸惑いながら手を振って観衆に応えていく。
思えば数カ月前、追放された時は群衆に襲われ石を投げられ、ケガまでしたのだった。でも、今は伝説の存在としてこんなに多くの人たちに祝われている。それは複雑な気分だった。
次々とそびえたつ巨大な高層ビルの脇をゆっくりと飛びながら、ふとユリアは思った。違いがあるとすれば自分の頭と足で行動したかどうかなのではないだろうか?
数カ月前までは言われたことを淡々とこなしているだけだった。朝早く起きてお祈り、勉強、礼儀作法の研修、神聖魔法の練習、それは自分が決めたことではなかった。大変ではあったが言われたことをやっていただけだった。結果、利用され追放された。
でも、追放後は道なき道を自分で考え、必死に行動してきた。その主体性、自分の人生を自分で切り開く覚悟と信念、そして、頼れる理解者……。
「そうか……」
その瞬間、この宇宙の意味も全て分かってしまった。
宇宙とは、誰しも自分を中心に展開していくものなのだ。世界は自分が認識するから存在し、自分の思い描いたように成長していく。自分の心と調和しながら正しく認識し、真っ直ぐに生きること、それが自分を、自分の世界を豊かにしていくのだ。
ユリアは目をつぶり、この数カ月の苦闘を思い出しながら感慨にふける。
そして、ジェイドの手を取ると立ち上がった。
「ジェイド、ドラゴンになって」
「えっ!?」
どういうことか分からず困惑するジェイド。
「来てくれた人に本当のあなたを見せつけてやるのよ」
ユリアはニヤッと笑い、居心地悪そうに縮こまって手を振っていたジェイドは、少し思案すると、
「うちの奥さんはさすがだな」
そう言ってうれしそうに笑って、ツーっと上空へと飛ぶ。
そして、ボン! と爆発すると巨大なドラゴンの姿となる。厳ついウロコに覆われ、雄大な翼を揺らし、巨大な赤い瞳でギョロリと辺りを睥睨した。
うわぁぁぁぁぁぁぁ!
数十万人は初めて見る本物のドラゴンに歓喜する。
ユリアはピョンと跳びあがるとドラゴンの後頭部に乗り、
「さぁ、レッツゴー!」
と、こぶしを高く突き上げた。
ジェイドは、
ギュアァァァ!
と、咆哮を放つ。
その地響きのような重低音は摩天楼群にこだまし、観衆は圧倒された。
そしてバッサバッサと翼をはばたかせながら摩天楼群を一周すると、上空に向けて巨大な口をパカッと開き、直後、超ド級の火魔法を放った。
上空で激しい閃光を伴いながら大爆発を起こした魔法はズン! という衝撃音で摩天楼を揺らす。
その、けた外れの迫力に観衆はどよめく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます