4-7. 目標、来ます!

 ユリアたちは会議室に集まった。

「アルシェ、見事だったわ!」

 ユリアはうれしそうにアルシェの肩を叩く。

「あぁ、もう後戻りできないよ、どうしよう……」

 十五歳になったばかりの少年、アルシェはうなだれる。

「アルシェ様、今さらそんなことおっしゃられても困りますぞ。さいは投げられたのです」

 宰相はそう言って渋い顔をする。

「わ、分かってます。ちゃんとやりますよ……。はぁ……」

「では、計画通り、次は宣戦布告よ! 国王様、サインして!」

 ユリアはそう言って宣戦布告の書面をアルシェに渡した。

 アルシェは嫌そうに書面を眺め、目をつぶって大きく息をついた。


         ◇


 オザッカの宮殿で御前会議が開かれる日、タイミングを計ってユリアとジェイドは空間を跳んで乗り込んだ。

 着くやいなや「絶対結界エクストリームバリア!」

 と、叫ぶユリア。

 驚き固まる王侯貴族たちは瞬時に強固な結界に閉じ込められる。当然宮殿には、魔法での侵入などできないような防御機能が厳重に張り巡らされているのだが、この世界の構成データを直接書き換えるユリアの神の力の前には全てが無意味だった。

「ハーイ、皆様こんにちは!」

 ユリアは楽しげに挨拶する。

「き、貴様は王都の大聖女! 面妖な技を使いおって!」

 オザッカの君主は短剣で結界を破ろうとしたが、全く歯が立たず怒りの声を上げる。

「あなた達全部捕まえたからこの戦争、王国の勝ちね!」

 ニコニコしながら言うユリア。

「な、何を言う! こんなの認めんぞ!」

 頬に大きな傷を持つ筋骨隆々とした男が机をガン! と拳で叩きつけて叫ぶ。見覚えのあるあの将軍だった。

 ユリアはジェイドを前に出し、うれしそうに言う。

「じゃあ、この男があなた達の軍、全てと戦いましょう。勝てたらあなたたちの勝ちでいいわよ」

 

「えっ!? 一人を……倒せばいいだけ?」

 ポカンとする将軍。

「えぇ、でもきっと彼の勝ちですよ。ふふっ」

 ユリアはニヤッと笑った。


        ◇


 二万人のオザッカ軍とジェイドは草原で対峙した。

 将軍とユリアは脇の方で戦況を見守る。

「本当にあの男を倒すだけでいいんですな?」

 将軍は念を押した。

「そうよ! せいぜい頑張ってね」

 ユリアはうれしそうに言う。

 将軍は見くびられたものだと内心憤慨した。あんなシャツを着ただけのヒョロッとした男一人に、二万人を数える自らが育て上げた精鋭たちが敵わない訳がない。怒りのこもった声で将軍は叫んだ。

「戦闘開始! ぶっ殺せ!」

 兵士たちはフォーメーションを整えていく。ジェイドは軽く準備体操をするとスタスタと無造作に兵士たちに近寄っていった。

 先頭の兵士たちは盾を構え、しゃがんで一列に並ぶ。しかし、あんな無防備な男一人にやり過ぎではないかと内心いぶかしく思っていた。

 

 ジェイドは構わずにスタスタとさらに距離を詰める。

 直後、魔術師が二十人ほど宙に浮きあがると、一斉に攻撃魔法を放った。炎の槍が飛び、風の刃が舞い、氷のつぶてが流れ、全てがジェイド一人に降り注ぎ、ジェイドはシールドも張らずそれらをすべて全身に浴びた。

 ズズーン!

 激しい衝撃音が響き、もうもうと煙が上がっていく。

「よしっ!」

 将軍はガッツポーズを見せ、誰もが勝利を確信した。

「ワシらの勝ちですな!」

 喜び勇んでユリアの方を見た将軍だったが、ユリアは平然として言う。

「ふふっ、こんなのはいいから早く本気を出してくださいね」

 将軍はムッとした。自慢の魔法部隊の攻撃を『こんなの』とはどういう事だろうか?

 すると、補佐官が叫んだ。

「ダメです! 目標、来ます!」

「へっ!?」

 将軍が目を凝らすと、熱気に揺らめく陽炎の向こう、煙の中に赤く光る瞳が揺れるのが見えた。

「ひぇっ!」

 将軍は背筋に冷たい物が流れるのを感じた。あれだけの攻撃を受けてなお健在……。その不気味な赤い光に心の底から恐怖が巻き起こってくるのを止められなかった。


 煙の中からジェイドは何事もなかったかのように現れ、さらに足を進める。

 兵士たちは唖然としてその様子を眺めていた。

 あの攻撃を浴びて無傷、それもシャツに汚れ一つついていないという現実をどう受け入れたらいいか困惑していたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る