2-3. やっぱり見てた

 しばらくすると、ユリアが大きく手を振りながらビーチに上がってくる。

 ジェイドは最初ほほえましくユリアを見ていたが、何かに気がついて手のひらで目を覆った。


「ジェイドどうしたの?」

 ユリアは目を合わせようとしないジェイドを不審に思った。

 ジェイドはアイテムバッグから麻のベストを出し、

「これを着て」

 と、そっぽを向きながら渡す。

「え……?」

 何のことか分からなかったユリアは自分の身体を見て驚いた。白いシャツは身体にピッタリと張り付き、濡れて透け透けになっていたのだ。

「きゃぁ!」

 ユリアは両手で胸を隠し、

「み、見たわね!?」

 と、真っ赤な顔で言いながら、ベストをサッと受け取った。

「遠目だったから見えてない……」

 そう言って、ジェイドはそっぽを向きながらちょっと頬を赤らめる。

 ユリアは急いでベストを羽織り、

「ウソばっかり……」

 そう言って体育座りをしてひざに真っ赤な顔をうずめた。

「レ、レモネードでも飲んで……」

 ジェイドはグラスにレモネードを満たすと、ちゃぶ台に置いた。

 ユリアはしばらくむくれて動かない。

「裸じゃないんだから大丈夫だよ」

 ジェイドはそう言ってなだめるが、ユリアは微動だにしない……。

 やがて小声で言った。

「ひ、貧弱で恥ずかしいの……」

 ジェイドは首をかしげて言う。

「貧弱? 綺麗だったぞ?」

 するとユリアはガバっと起き上がり、

「やっぱり見てたんじゃないのよぉ――――!!」

 と、叫んでジェイドの二の腕をパシパシと叩いた。

「ごめん、ごめん……」

 ジェイドは渋い顔で目をつぶる。

「……。でも……、ジェイドが悪い訳じゃないもんね……。ごめんなさい……」

 そう言ってユリアはまた体育座りをして小さくなった。

「レモネード、美味しいよ」

 ジェイドは優しく勧めた。

 すると、ユリアは大きく深呼吸を繰り返し、チラッとジェイドを見ると、

「ありがと……」

 と言って、レモネードをゴクッと飲み、水平線を眺めた。

 コバルトブルーに見えるまっすぐな水平線、ぽっかりと浮かぶ南国の雲、燦燦さんさんと照り付ける太陽……、そこは楽園だった。

 ユリアはふぅ、と息をつくと、

「美味しい!」

 と、言って、まだ少し恥ずかしそうな笑顔でジェイドを見る。

 ジェイドはうんうんとうなずき、優しい目で微笑んだ。


       ◇


「では、潜りに行くか……」

 そう言うとジェイドは指輪を見せた。

「ゆ……指輪?」

 困惑するユリア。

「この指輪をしておくと水中でも息ができる」

「そ、そうなの……? じゃ、つけて!」

 そう言うとユリアは両手の指を広げてジェイドに差し出し、赤くなってうつむいた。

 ジェイドは微笑むと、聞いた。

「どの指がいい?」

「ジェ、ジェイドが決めて!」

「そうか……」

 ジェイドはそう言うと、右手の薬指にスッとはめた。

「えっ!?」

 ユリアは真っ赤になっておずおずとジェイドを見上げる。

「嫌か?」

 ニコッと笑うジェイド。

「こ、これって……」

 とまどうユリアにジェイドは、

「さぁ行くぞ」

 と、言ってユリアの手を優しく引いて海へといざなった。

「えっ!? ちょ、ちょっと……」

 ユリアは困惑しながら手を引かれるままに真っ白なビーチを歩き、透明な水の浅瀬をバチャバチャと進んだ。

 腰の深さまで来ると、ジェイドは魔法のシールドをユリアの頭の周りに張って言った。

「では、海の世界にご招待だ。のぞいてごらん」

 ユリアが恐る恐る海の中に顔をつけると、そこには美しいキラキラとした南国の海の世界が広がっていた。白い砂には陽の光が網目状の模様となって揺れ動き、小魚たちが群れ泳いでいる。

「うわぁ……」

 ユリアは満面に笑みを浮かべ、クリアに見える海の世界に魅せられていた。

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