1-21. スタンピード
階段を下りていくと、ロビーが騒然としていた。
「ダンジョンがクリアされたらしいぞ!」
「えっ!? 一体誰が!?」
「クリアした人、きっとまだこの街にいるわよね?」
「そもそも、さっきダンジョンから帰ってきたパーティって誰?」
冒険者たちは興奮気味に口々に言葉を交わす。
「ちょっとすみません……」
ユリアが声をかけながら、ザワザワしている人ごみの間を抜けていく。
「さっき帰ってきたのは……」
禿げた中年の男がユリアを目で追う。
しかし、ユリアは若い男と二人パーティである。たった二人でダンジョンをクリアできるはずがないのだ。
「まさか……なぁ……」
男は腕を組んで首をかしげた。
ギルドを出ると、ユリアはクスッと笑ってジェイドを見る。
ジェイドは涼しい顔でそれでも口元には笑みがあった。
◇
「この後どうする?」
ジェイドは優しい目でユリアを見る。
「あー、ちょっと買い物したいんだけどいいかな? あのお金……使っていい?」
ユリアは手を合わせておねだりする。
「もちろん……」
ジェイドはニコッと笑ってそう言うと、アイテムバッグの中に手を入れて、金貨をひとつかみ取り出し、ユリアのポーチにチャリチャリと流し込んだ。
「えっ!?」
驚くユリア。
「本日の予算はこのくらいで」
ジェイドはウインクする。
「こ、こんなに要らないわよ。馬車が買えちゃうわ!」
「じゃあ、馬車でも買う?」
うれしそうにジェイドは答える。
「いやいやいや……」
ユリアは天を仰いだ。
「毎日これくらい使ったって一生使いきれないから大丈夫」
「一生!?」
目を真ん丸くして驚くユリア。
「今日は久しぶりの街なんだから楽しんで」
「そ、そうよね……。ありがと!」
ユリアは満面に笑みを浮かべてジェイドを見上げた。
◇
服や調味料、小物などを買って、ちょっと高級なレストランに来た二人。
「ダンジョンクリアを祝って、乾杯」
「カンパーイ!」
二人はグラスを合わせてリンゴ酒を口に含んだ。
爽やかな香りとシュワシュワした炭酸が身体に沁みる。
「美味しいわ……」
ユリアはトロンとした目で、心地よい疲れが癒されていくのを感じていた。
攻撃魔法も通用したし、ギルドカードももらえる……。
冒険者としてやっていけそうな手ごたえに、新たな人生が楽しみになってきていた。
その時だった――――。
「ねぇ、聞いた? スタンピードですって!」
隣のテーブルのおばさんがキナ臭いことを言っている。
ユリアは思わず眉をひそめてジェイドを見た。
ジェイドも険しい表情で聞き耳を立てる。
話を総合すると、数日前に王都にスタンピードが襲ってきたらしい。幸い撃退はできたようではあったが多くの死傷者が出たという話だった。
ユリアはがっくりと肩を落としてため息をつく。自分が張っていた結界が健在であれば死傷者など出なかったはずなのだ。ゲーザだか公爵派だか知らないが、彼らの陰謀が引き起こした被害に腹が立って……、それでもどうしようもない自分に打ちひしがれていた。
食べ物がのどを通らなくなってしまったユリアを、ジェイドは心配そうに見つめる。
二人は早々にレストランを引き上げ、オンテークの家に帰った。
◇
ダブルベッドの上で月明かりを浴びながら、泣きそうな顔でユリアは言った。
「ねぇ……、私、どうしたらいいのかしら……」
「どう……って?」
ジェイドが少し困惑したように返す。
「手を尽くして、また大聖女に復帰できるように頑張った方がいいんじゃないかって……」
「でも、ユリアは罪人とされてしまってるから、公爵派の陰謀を暴いて名誉の回復をしないとならないんだろ? できるのか?」
「そう……、そうなんだけど……」
ユリアは沈む。どう考えてもそんな事不可能に思えたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます