第21話 私財で投資
ケビンが頑張ってくれて、国の予算が下りるように申請書を提出した。地方経済活性化の為の予算分配案とか言ってた。数時間後には忘れそう。
だがしかし、上層部のどこかで却下されてしまった。うぉーん、何で。ここは国もノリノリで許可が下りるんじゃないの。
「何で予算が通らなかったんだろう? 絶対に地方の収益改善になるはずだよねぇ?」
夜会で話題になって、問い合わせも殺到したのにどうして。
「ええ。正直、上層部の考えがわかりません」
俺の言葉にケビンも渋い顔だ。困ったな。地方の収益改善も勿論だけれど、地味に俺もまた食べたい。普通に流通したらいいのに。
結果を知らせた領主からは、申請までしてくれてというお礼の言葉と共に、優先的に王家には融通すると返事が来た。
王家に融通したら俺の手元には一切来ずに、夜会に回される気がする。悩ましい。俺も食べたいんです。後、領民の分!
「うーん。増産の為に取り敢えず必要な金額ってどれくらい?」
「手間がかかりますし、希少品のままの方がいいでしょう。そこから考えたのは……」
聞いたおおよその金額は、俺の私財からでも今すぐ出せない額じゃなかった。
正直、それくらいの額ならどっかをちょっと節約すれば、すぐに国家予算から出せるんじゃないの? な額だった。
国なのにケチ過ぎない? というわけで。
「ケビン、俺の、ごめんって、私の私財からの投資ならどうかな? 私財の使い途で、投資も許可されていたよね」
最近、皆の前でも俺って言うと怖い顔で見られる。うっかり駄目な所で俺って言っちゃったんだよねぇ。王子は私じゃないと駄目らしい。
俺の私財の管理にはケビンも関わっている。最悪回収出来なくても、服の新調を控えれば済む程度。問題はないと思う。服が本当に高い問題はあるけれど。
「殿下の私財、ですか……。少し、お時間を頂けますか?」
「うん。よろしくー」
ケビンが難しい顔で考えていた。私財からの投資ってそんなにハードルが高いのだろうか。
気になったので、最悪回収できなくても構わないと伝えた。すんごいしっぶい顔で見られた。
気を遣ったのになんでだよー。
「ライハルト様、ケビン様にもプライドとかありますし、そういう気遣いはプライドが高い人には喜ばれないですよ」
才女な侍女、リーリアからのフォロー。
「そうなの?」
「そうですよ。それにケビン様は絶対に成功させるおつもりだと思いますよ」
「気合が入りまくっているところに水を差しちゃったか」
「そうかもしれませんね。まぁ、この件に関しては、しばらく触れない方がいいと思いますよ」
「うん。そうするー」
「私まだ、部屋にいますけど」
そう、ケビンはまだ部屋にいた。
「あら嫌だ」
リーリアは確信犯ね。俺もわかっていてそれに乗ったけれどね。
「そもそもライハルト様を気遣わせないで欲しいわ。小さい男」
これもリーリア。毒吐き娘なのだ。けれど、これで燃え上がる男ケビン。行く所があると言って颯爽と部屋から退室していった。
「手間のかかる側近ねぇ」
「リーリア、少しは加減してあげなよ」
「ケビンならあれくらい大丈夫ですよ。人は選んでいますし。どんな計画を持って来るのか、今から楽しみですね」
笑顔のリーリアが眩しい。
「そうだね」
リーリアにお茶を入れてもらって、ほっこりした。勘違いしないで欲しいのは、リーリアはただの毒吐き娘ではなく、何て言うか上司気質?
感情面において人を操るのが上手。頭も良い。色々とへこたれた時にも前を向けるのは、皆のお陰もあるけれど、リーリアのお陰もでかい。
独特の慰め方ではあるけれど、毎回ちょっと笑わせてもらえる。
私財で投資という事になっても、あそこの領地の人たちが潤えばいいと思う。だって間違いなくチーズは美味しい。
夜会での反応を聞く限り、酷い失敗にはならないと思う。それなのに、何で国が動かないのかは謎だけれどね。
国家予算からの投資で、今回の様なパターンの場合、ある程度は貸付みたいな形になるのね。
失敗した場合でも、領主側にある程度の救済措置がある方式なので、国が損をするだけの時もある。
失敗を恐れて挑戦しなくなるのは国の為にもならないし、リスク無しにして手当たり次第挑戦されても困るからね。
でも普通に売上が上がったら、国にお金が返還されるだけでなく、利益の分だけ税金の上乗せがある。
どれだけ成功するかにもよるけれど、申請が通る様な事業はだいたい国にも儲けが出ている。
今回の件は国としても損は無く、最終的には儲かる話だと俺たちは考えて申請を出した。
どうして回収の見込みなしと判断されたかは不明だけれど、俺もケビンも、ルヒトじいも、内政部門の人でさえいけると判断した。
欲しがっている中央貴族がわんさかいるし、食品は消耗品で、広まれば色々な新しい食べ方もされるはず。手堅いと思うんだけどなー。
私財での投資になると、国への税金増だけでなく、利益の分配が必要になる。
美味しい話は他の領主や商人より、国を頼るように仕向ける為の決まりだけれど、領地の負担にならないように国家予算からが本当は良かった。
通らなかったのならまぁ仕方が無い。
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