第74話 思考回路が謎

 今日は体術の授業。今日も俺に倒されたゴードンが暴れて砂ぼこりを立てる。


「何故だー!」


「体格とパワーにまだ頼り過ぎ。そのせいで余計に倒しやすい。カールやエヴァンの方が難しい」


「殿下、コツを教えて。俺もゴードンを投げ飛ばしてみたい!」

 カールが楽しそう。失敗して押し潰されないといいけれど。


「きゅぅ……」

 駄目だった。カールが綺麗にゴードンの下敷きになってしまった。タイミングが悪かったな。


「大丈夫か! カール!」


 カールをガクガク揺するゴードン。止めろと言いたいのに言わせてもらえないカール。

 ゴードンが咄嗟に全体重がカールにかからないように避けていたし、怪我とかは大丈夫そう。


「人って冗談でなくきゅぅとか言うんですね」

 エヴァンはニヤニヤしている。悪い子。


 相変わらず遠巻きにはされているが、三人のお陰で毎日楽しく過ごせている。

 虫が絡んだ伯爵家の調査には、本格的に時間がかかると判明した。子爵家の令嬢には残念な続報が届いている。


 虫の家が製造した香水だが、王都で販売されている量と、馬車の通行回数がどうも合わないらしい。

 俺が以前お手伝いをした調査部門が、虫の家の言い逃れ出来ない悪事の証拠を掴みたいという執念で調べたとか。


 ただその過程で、本来婚約者の家を管轄している調査部門も怪しかったりで、そうなると監査部門も怪しいとなる。

 他地域、他部門とも連携しての大掛かりな調査が始まった。

 さりげなく、とんでもない家に巻き込まれていた子爵家の令嬢さん一家。フォード卿がよく事前調査が重要だと言っているが、それが沁みる。


「殿下、もう一回。今度はじっくりコツを教えて」

 カールは諦めない。


「さっきのはタイミングが悪かったな」


 カールにもう一度教えている間、エヴァンに対戦を断られたゴードンが、知り合いらしい令息と組んだ。

 いい勝負をしている。まだまだ粗削りだけれど、センスは悪くないんだよねって熊さんが言っていた。


「良くなったと思う。先ずはエヴァンで練習してみたら?」

「いいね!」

「えー」


 エヴァンはなかなかタイミングを掴ませないので、練習にいいと思う。カールは無事授業終了までに、エヴァンを数度倒す事に成功した。


「やったね」

「凄えな、カール!」

 喜ぶカールを称えるゴードン。


 婚約者の令嬢たちは辺境伯家令嬢の働きかけにより、コツコツ婚約者とのやり取りを記録している。なので俺も見かけたら注意するようにしている。

 今日もモモーナの周囲に婚約者全員が集合していたので、関わりたくは無いが注意に行くか。


「頑張って、殿下」

 エヴァンに励まされる。もうただの苦行になっているんだよねぇ。


「またですか殿下。我々の婚約者が殿下に何を言ったのかは知りませんが、些細な事で嫉妬しているだけです。真に受けないで下さい」


 そっちこそ勝手に婚約者が嫉妬している上に、チクった事にするな。


「私は悪い噂が広がっているのを聞いただけで、彼女たちに君たちを諌めるように頼まれた訳ではないよ」


「私たちはお友だちですぅ。皆さんが勘違いしているだけなんですぅ」

 モモーナが寄って来た。


 懇願するような上目遣い。俺、そういうの媚びられているみたいで嫌い。うっすらと目に涙がたまってきている。瞬きしない根性は認めよう。


「勘違いされるような行動を是正するように言っている」


 一気にモモーナの目が潤んで、高速瞬きで涙を作った。凄い技ですね。


「モモーナ!」

「モモーナ」

「モモーナに酷い事を言わないで下さい、殿下」

「そうです、殿下」


「ライハルト様は悪くないんですぅ、私が……」


「モモーナ!」

「モモーナ」

「モモーナに酷い事を言わないで下さい、殿下」

「そうです、殿下」


 いや、お前らにも言ってんだけど。しかもモモーナの二度目の言葉には俺は何も返事をしていない。

 思考回路どうなってんの。しかも言う言葉が繰り返しって、君ら大丈夫?


 その後、王子なのに完全に彼らに煙たがられるようになりました。俺の姿が見えると、モモーナを誘導してさりげなく逃げるようになった。

 一部だけれど、俺の側近になりたいなんて絶対に嘘だよね?


 辺境伯家令嬢は、騎士団長の甥っ子との婚約破棄に向けた準備が着々と進んでいる。予想通り、令嬢の現状を聞いて騎士団長が甥っ子に激怒した。

 辺境伯も当然激怒、甥っ子の両親も激怒していて、内政部門が間に入って穏便に話し合いをすることになった。


 初っ端から甥っ子家族で令嬢に逆にドン引きするくらいの謝罪をキメ、重い罰を自ら提案。

 内政部門側が重過ぎると止めるくらいだったらしい。そして最終的には何故か両家が意気投合したという。


 令嬢側からの婚約破棄は確定。今は今後の連携についてや弟の将来についての話し合いが続いているらしい。

 甥っ子は婚約破棄と同時に伯爵家から除籍され、学園も退学になる予定。


 結局モモーナから穏便に離れられたのは、ケビンにも憧れていたらしい内政部門長の甥っ子だけ。ここだけは婚約者との関係修復が間に合った。

 ケビンからの辛辣な言葉で目が覚めたとか。俺の言葉は聞かなかったのにね。内政部門長にはとても感謝された。

 彼は自分より優秀な婚約者に劣等感を持ち、逃げだしたい気持ちをモモーナに掴まれていたらしい。

 

「自分より優秀な婚約者、お互いに助け合えて最高だと思うんだけど、何が嫌なの?」


「ライハルト様のように考えられる男性は少ないのですよ」


 今日もアンナに公務のついでに会いに来て、話を聞いてもらっている。リーリアの件もあるし、一定数はそういう人がいるのは理解しているが。


「浮気して婚約はキープしたままって、能力を当てにしているって事じゃないの? 当てにしておいて、愛人もキープって下衆過ぎない?」


「関係が修復されたので、気が付かなかった事にしましょう」

 アンナが逃げた。


「あー、今日もアンナとケビンの息子が可愛いね……」

 今日もオムツ替えするぜ!


「正直、ケビンよりライハルト様の方が抱き方が上手かもしれません……」

 それはすまん。多分前世のアドバンテージだと思います。

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