第65話 シヤ達の願い。

厨房から出てきたミチトにシイが「マスター…料理も出来るの?」と聞いてヨミが「美味しいよマスター」と言うとミチトは「良かった!」と言いながら「はいフラとライ、俺のポテトフライ。約束が遅くなってごめんね」と言ってフラとライの前にポテトフライの山を置く。

フラとライは「マスター!」「ありがとう!」と言って熱々のポテトフライを奪い合うように食べ進めて行く。



少ししてミチトが揚げ焼きしたステーキを出してきて皆で食べたがそれはとても美味しかった。

皆で口々に美味しいと喜ぶ中でシヤは嬉しそうな困ったような顔で「マスター、なんで俺達はマスターのご飯が食べられるの?」と聞いた。


「え?シヤ達が願っていたし俺もしてあげたかったしさ、覚えてないかな?聞いてご覧」


「大丈夫。皆で生き延びるの、私達は死なない。顔も知らない未来のマスター。ミチト・スティエットに私達は助けてもらう。皆でマスターにありがとうって言いましょう」

「そうだな。でもそのマスターは術人間だらけの中でどうするんだろうな?」

「ご飯食べさせてくれるかな?」

「王都のマスターなんだからご飯は大丈夫だろ?」


「そうだよ。今はマスターが悪い人って思うより天国みたいなところだと思おうよ」

「頑張ってこの気持ちと皆の言葉を覚えていたい。忘れたくない。どうしても細かい事が抜けてしまうから、マスターに会えたら助けてくれてありがとうと言って美味しいご飯を食べさせて貰って、名前を付けると言われたら俺はシーナがくれたシヤが良いって言いたい」



それはシヤ達が夜にこっそりと話した内容だった。


「マスター…これ…聞いてくれて?」

「うん。後はこれ。覚えてる?」


「シヤ、私重い…」

「エグゼの所でロクなものを食べてないから軽すぎる。マスターに…ミチト・スティエットに太るまで食べさせてもらおう」


「これ…ヨンゴの攻撃で足を痛めたシーナを背負った時の会話だ」

「うん。君達はエグゼがロクなものを出さなかったみたいだからね、だから山盛りのご飯を食べられないって言うまで出してあげたくてさ、本当は全部やりたかったんだけどリナさんに助けて貰ったんだ」


「マスター!私だってパン生地こねたんだよ!」

「イブもマヨネーズと生クリームとホワイトソースを作りました!」


「うん。知ってるよ。ありがとう」


「ミチト、私はケーキ、メロはテーブルセッティングよ」

「ありがとうアクィ、メロ」



「マスター…ありがとう」

シヤの言葉で残りの術人間達もありがとうと言う。


「うん。ありがとうマスター」

「俺達は王都に行くけどトウテに帰ってくるよ」

「頑張るねマスター」

「応援しててよね」


しんみりする中、リナが笑いながら「ほら、早く食べないとミチトがもっと作りたくてソワソワしてるしアクィがケーキのお腹が残ってるか心配してるわよ」と言う。


ミチトは実際アクィをお構いなしで「パンが焼けたらサンドウィッチ作ろうか!鶏肉の奴!美味しいよ!ほら、フラとライはいい加減他のも食べてよ」と言うとアクィが目を三角にして「だからミチトは食べさせすぎないでよ!」と声を張る。


「あれ?アクィのケーキってどこにあるの?」

「イブに氷の箱を作って貰って地下室よ」


ミチトの目が金色になると「…わ…何このケーキの量」と言いアクィが「沢山作ったんだから、残したら許さないわ」と言った。


「イブ、ライブとアクィで出してきて並べてよ。君達もケーキが食べたくなったら食べるんだよ」


アクィは6ホールもケーキを焼いていてシーシーやアメジスト達は目を輝かせる。


シーシーたちの顔を見て満足のアクィは「やっぱり女子はケーキよね!」と言うとイブが「アクィさん、アップルパイとプリンは?」と聞く。

アクィは「明日ね」と言うとライブが「まあ今日は仕方ないよイブ」と説得をするとイブは頬を膨らまして「むぅ」と言った。


術人間の子達はある程度お腹が満ちてくると緊張も解けてマスターの奥さんはリナさん?ならアクィさんは?と聞くとライブが自分もミチトの妻になるんだと言う。

そうやってワイワイする中でシヤがミチトの席までくる。


「マスター」

「何シヤ?」


「本当にありがとう。俺達を助けてくれてありがとうマスター」

「良いんだよ。幸せになるんだ。それがマスターとして俺の言いたい事だよ」


頷くシヤはアメジストにケーキを食べようと誘われて席を離れると今度はシーシーがミチトの席までくる。


「マスター」

「何?シーシー?」


「エグゼを倒してくれてありがとう」

「良いんだよ。アイツ凄くムカつくからもっと痛めつけても良かったよね」

そう言って笑うミチトに嬉しそうに笑うシーシー。


「ううん。マスターのおかげでもう悪夢は見ないで済みそう」

「…消す?」


「消せるの?」

「俺がマスターとして命じた後で俺の忘却術ならね」


その間にリナが席を立ってライブと代わる。

リナはライブの過去も知っているしこの会話でシーシーに何があったかを理解していた。


ライブはリナの席に座ると「シーシー?どうしたの?」と聞く。

シーシーは「ライブさん…」と言って暗そうな顔をする。

シーシーに言わせると美人のライブには自身に起きたような事とは無縁の人生だと思っていて聞かれたくないと言う気持ちになった。


ミチトはライブに気付くと「あ…ライブ……リナさんか…」と言って「ライブ伝心するけど言葉にしないで」と言う。

「え?マスター?」と言った時には伝心されたライブは涙を流しながらシーシーを抱きしめて「遅くなってごめんね。アンタは私だよ」と泣く。


何の事だかわからないで困惑するシーシーに優しく微笑んだライブが「お返し、私の事も送る」と言った。


直後、シーシーの脳裏に映し出されたのは誘拐されてラージポットにイブ…アイリス・レスと連れてこられたライブ…ヒスイ・ロス。

金になるものは何でも売ると髪の毛まで売り飛ばされ、イブと日替わりでダンジョンに連れて行かれる。怖い思いをしてもロクな食事も与えられずイブと手を取り合って泣く日々。

そしてイブと人攫いがダンジョンに行っている間に西側のドンを名乗るイジョークに汚されたライブはその後ゴブリンに殺されかけて無限術人間にされる。


慌てて「ライブさん!」と言うシーシーにライブは優しい顔で「私は一度だけど辛かったよ。シーシーは何日も…辛いよね?」と言った。


これで声を上げたシーシーが泣いてライブに抱きつく。

「シーナや皆が居てくれたから頑張って耐えたの!ずっと嫌だったよ!」

「わかるよ」


「覚えてないけどここの皆も同じなの!」

「うん。そうだよね。助けられて良かったよね。泣きなよ。泣いて忘れたかったらマスターなら忘れさせてくれる。でも私達術人間には記憶は宝物だよね?消すのも嫌だよね」


自分の気持ちを理解してくれていると思わなかったシーシーは驚きながらも「うん」と言うとライブは「だから私はマスターに受け止めて貰ったよ」と言った。


「マスターに?」

「うん。シーシーはマスターにする?他の人がいい?」


「わからない」

「シヤにする?」


ここでシヤの名前が出た事で真っ赤になって「わからないよ!」と言うシーシー。

シヤに特別な感情があるかわからないがシーナの名を聞いてシーナとシヤの仲を思うと胸が苦しくなる。

だがそれが恋なのかと聞かれてもわからない。


「うん。じゃあ今はそのままで後で決めなよ」

「うん。そうする」


こうしてシーシーが落ち着くとミチトが「ライブ、ありがとう」と言って頭を撫でる。

猫のように目を細めて嬉しそうにするライブは「いいよ。私向けの話だもん」と言った。

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