不穏~離別。(全5話)

第11話 暴走の引き金。心の不安。

ヨンゴが代理マスターを焼き殺してからは夜もあまり寝ずに王都を目指す事にした。


代理マスターを殺して以来、ヨンゴの調子は目に見えて悪くなっていてシーナとシヤが心配をしたがヨンゴ自身も「よくわかんねぇ、でも変なんだ」と言ったり「不安感が消えない。増して行くんだ」と漏らす。


本来、無限術人間は体内に無限記録盤と魔水晶や無限魔水晶を取り込ませる事で術知識や才能のないものに術を相対的に無限に思えるくらい術を使わせることができるようにする方法で、今国内で完璧に術人間を生み出せるミチト・スティエットは術人間を生み出す時に無限記録盤や魔水晶を取り込ませる存在と同じ存在になるように術で作り替えてから同化を行い、さらに魔水晶をミチトの術で覆いミチトの術で満たす事で異物とは思わせず不具合を起こさずに記憶の喪失も起きなくしている。


ミチトのハトコ、メロ・スティエットをバロッテス・ブートが施術した時にはバロッテスは意味を考えずに覚書にあるように1日半程魔水晶に術を送り込んでいたが、その意味も内容も理解していないからただ無闇矢鱈に術を送り込んだ為にメロの施術は失敗していてマダラに消えた記憶だけではなく新規に覚えた事も喪失していた。


それ自体は魔術師の性と言えるもので、魔術師は師匠から試行錯誤を禁じられていて自身が何を行なっているかを考えてはいけないと教わるからで天才と呼ばれたバロッテスもその教えに従っただけだった。


そしてバロッテスの作り方に沿って施術をしたダイナモ・ドスパーはバロッテス未満の無能でカスケード・キャスパーの元にいた使用人の子供を素体として選び人未満の術人間を生み出していた。


その術人間にされた子供はイサカ・レダナ。

イサカは王都でのお披露目の場で暴走して自身を燃やし、助けに入った母も燃やした。


先日、イニット・ホリデーが施術に失敗した術人間の素体は21歳の娘。

娘は暴走し姉を殺された事に怒って暴れ、最後には自身を燃やし尽くした。



娘は暴走する時に何かを口走っていた。

それは恐怖の感情。

イサカ・レダナも恐怖と不安感から暴走をした。


体内に異物を入れられた不安感。

人とは違う何かに変容させられる恐怖。

自分が何者かも思い出せない気持ち悪さ。

指一つ動かせない絶望感。


そう言うものが溜まっていき限界を迎えた時、暴走をした。



ヨンゴは3人の中では1番古くに施術をされた術人間。

シーナは女性で安定している。

シヤは無限記録盤との相性も良く未だに不安感はない。



ヨンゴは自由になれた開放感を味わった後はマスターであるトロイから離れた不安感を常に持っていた。

それは本人にもよくわからない気持ちで、心の底からトロイやエグゼ達を忌み嫌っている。それなのに術人間の本質がマスターを求めてしまっている。


そして遂に代理マスターの命令に逆らい代理マスターを殺害してしまった。

これにより不安感は消えなくなってしまった。



南下を始めて2日が過ぎた。

進みが悪い事もあり、今の徒歩なら後4日と言われていて、遥か遠くだが小さく城が見えてきていた。


ゴールが見えた事でテンションは高まるが辛そうなヨンゴの姿と最低限の眠りだけで進んでいるシヤ達の疲労はピークに来ていた。


「追っ手の不安もあるけど疲れてるから少し寝よう」

「そうね。ずっと休みなしで進んだから兵士達からは逃げられたから平気よね?」


シヤとシーナは示し合わせるように休息を取ろうとするがヨンゴは「俺に…気を遣ってるならいらないぜ?」と脂汗を浮かべながら言う。


「さっさと王都に行ってミチト・スティエットに助けてもらうんだ…。シイやシヅもヨミも待ってるぜ?」

ヨンゴはわざと外したのではなくシーシーの事を忘れている。

それに気付いたシヤが「ごめんヨンゴ、俺疲れたんだ」と言うと人目につかない木陰に座り出す。


呆れ顔のヨンゴが「マジか…、まあまだ4日くらいあるんだもんな」と言ってシヤの横に座る。逆側に座ってシヤを真ん中にしたシーナは「お爺さんとお婆さんのパンはこれで最後ね。3人で食べましょう」と言ってパンを出す。

老夫婦はパンを10個用意してくれていたので少しずつ食べて切り盛りしていた。


パンを食べたヨンゴは「やっぱり美味いな。ミチト・スティエットに助けてもらったら事情を話して小麦粉とかをあの爺さん達にプレゼントして貰いたいよな」と言う。


「そうね。キチンとお礼言いたいわね」

「ファーストロットも連れていきたいな」


「ファーストロットはなんでお礼に行かないんだ?」

「忘れてしまっているのかも」

「じゃあこの事も覚えて3人でファーストロットに教えてやらないと」


不調の中でも感謝の心を忘れないヨンゴの責任感の強さをみてシヤはこの旅にヨンゴが居てくれて良かったと思う。


「3時間だけ眠る」

「うん、シヤは寝て、私が起きてるから」

「シーナも寝ろって、俺が起きてるよ」


そう言ったが3人は眠ってしまい起きた時には夜中になっていた。

起きた時にヨンゴの調子は更に悪化していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る