第133話 中央都市 結託
「誰か一緒に行く人ぉ〜?」
コイツまた何か言ってるぜ?的な視線を感じるが、そんなモノは今に始まった事ではない。
「モーちゃんは一緒に行くでしょう〜?ラッドは?ご一緒しない〜?」
昨日頑張った反動か、今日になって昨日の約束がクッソ面倒になったので道連れに誰かと一緒にベッケルさん宅へお邪魔しようと思ったのだが、誰も手を挙げないのでモーリッツ達を強引に道連れにしてやろうとした。
「お前は悪魔か?俺達二人を見て、どう考えたらご一緒すると思えるのか知りたいわ!」
確かに包帯ぐるぐる巻きだけど。
「一応、昨日も一緒にいたし?多分だけど、見逃したベッケル爺さんの事で辺境伯と連合国の誰かと何らかの取り引きとかあったかもしれないじゃん?お前、一応ブリスク家の人間じゃん?話し聞いときたいかもじゃん?」
「ジャンジャンうるせぇ!俺とラッドはあちこちの骨がバキバキだったんだぞ?」
「それ、昨日までの話しじゃん?」
聖女マリアンヌに治癒魔法の手ほどきをしたという司祭が、ウサ耳女にボッコボコにされた二人を治療してくれた。
(ついでに俺も治して!と言ったらポーションを渡された)
おかげでモーリッツの口だけはいつも通りに達者である。
「司祭様は絶対安静だとおっしゃってましたね」
ラッドがモーリッツの援護にまわる。
「えーっ!じゃあ、俺も行ーかーなーい!」
バックれよう。今日は
チヤホヤされてヤル気スイッチ押してもらおう!
そして後日、のんびりタカ派のクソ共を狩りつつ、邪魔する奴らを皆殺しにしよう。うん!そうしよう!
我ながら名案だ。ああ、完璧な作戦を閃いた自分の頭脳が恐ろしい。
ちなみに、ハイランダー達は昨日の強敵に興味深々だったが、「俺が半殺しにしたから多分会えないよ」と言ったら完全に興味を失った。でも、「君達、俺と契約してるよね?」と言うと、嫌そうにジャンケンで決めようとしていた。
アイリーンは、魔力の調子はいいが体が重いから嫌だと断ってきた。
皆んな勝手過ぎない?
「そうゆう事で、明日から本気出してタカ派を狩りに行くから!動けない奴は引きずってでも連れて行くから!」
今日は解散!と言った矢先にベッケル家の使者とやらが迎えに来たと教会の修道士が報告に来た。
流石に他所様の教会で使者を"無かった事"にするわけにもいかず、ディアミドとワイアットを無理矢理馬車に乗せると何とも豪勢な屋敷に連れて行かれた。
「ベッケルの爺さんイイトコ住んでんなぁ……」
門をくぐると噴水が屋敷の玄関前にあり馬車回(車寄せ)になっている。
もう、ちょっとした城と言ってもいい感じ。
出迎えの人間が数人、執事風の老練な雰囲気の男と若い男、メイドが四人。
「お待ちしておりました、使徒様。当主が中でお待ちです」
隙のない所作で案内をする老練な男に頷いて応えると後に続いた。
「よく来てくれたね。掛けてくれたまえ」
応接間にはベッケル爺さんだけが待っていた。
隣りの部屋には数人待機してるようだが。
護衛のディアミドとワイアットに待機するように言うと、執事の若い男が二人を隣りの部屋へと案内していた。
「二人とも、大人しくしてるんだぞ。行儀良くな」
二人して「お前にだけは言われたくない」と顔に書いてあったが、俺はそこら辺は常識人だ。
襲われたりしなければ人畜無害な人間なのだ。
「あの化物二人は元気してる?」
ソファーに身を沈めると同時に聞いてみた。
「あの二人も、君にだけは言われたくないだろうな。まぁ、お陰様でしばらく私の護衛は手薄になってしまったよ」
「日頃の行いが悪いからだろ?俺のせいにするなよ爺さん。まぁ、悪運だけは強いようだが」
「あぁ、ギリギリではあったが首の皮一枚で繋がったよ。私の勘もまだまだ捨てたもんじゃあないな」
ベッケル爺さんは、ブリスクの領事館を押さえられて直ぐにタカ派の連中を切るべく根回しを開始。
中立派でこの国の代表に取り引きを持ちかけ保身を図った結果だったと言った。
「しかしデカイ獲物を逃してしまったコチラとしては気分は複雑だよ。他の奴らはキッチリ刈り取るけど邪魔するなよ?今度は見逃したりしないからな」
俺の信用問題に関わるから。
「その辺りは気にせずやってくれていい。なんなら手伝ってもいいくらいだ」
「それは遠慮しとく。と、言いたいところなんだが、今回の件に関わったタカ派の連中や関係組織のヤツらのリストが欲しいな」
「いいだろう、すぐに用意する「ただしだ」?」
「過不足がないよう頼むぞ。加担した奴が抜けてても、加担してない奴が増えてても、お前とお前の身内を殺してやる。よもや、使徒の使命を蔑ろにするとは思えんが、一応忠告はしておかんとな」
意図的に誰かを逃したり、関係ない奴をついでとばかりに俺に殺させたりすれば、俺はコイツを殺すだろう。
話しがややこしくなるので、それは避けたい。
「心配ない。私だってそんな下らない事で君からの信用を傷つけたくないからな」
「それならば結構。しかし、どうしても始末しておきたい悪党がいるなら別途で引き受けてもいいぞ。勿論、それなりの報酬は頂くが」
営業スマイルでセールスをかけてみたら意外にも感触は悪くなさそう。
「ふむ。ちょっと考えておこう……まずは、お手並みを拝見するとしよう」
ベッケル爺さんはフッと笑い、俺の差し出した右手を握った。
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