第127話 中央都市 ベッケル家
「どこからどう攻めようか」
俺達はのんびりと歩きながら連合国の首都である中央都市を目の前にしていた。
「先ずは人質の確保ではないか?」
アイリーンは美人未亡人ソフィアの息子を助け出す案を出す。
「しかし、身柄を確保した後に戦闘に巻き込まれるのではないか?現状、危険でないなら後回しでもいいのではないか?」
モーリッツもここに来て、ようやくヤル気になってきたのか、タカ派との戦闘は既に不可避であると諦めたのか、おそらくお荷物になるであろう人質の確保は後回しにする案であった。
「俺達はどちらでも良いぜ。只、あの連中だって馬鹿じゃない。相応の準備は始めてるはずだ。軍の兵士は弱小だが、それを扱う奴等は元は傭兵だったり優秀な奴等が多い。傭兵ギルドにもそれなりの数の精鋭がいる。舐めてかかると痛い目に合うぜ」
ディアミドは慎重にと釘を刺してきた。
確かにコイツらやいつぞやの傭兵達はそれなりに腕がたった事を思いだした。
軍の兵士は弱々だったが……
目標を明確にして戦わないとな。
国を丸々相手に戦う事はできない。今はまだ。
その内できそうな気はするし、俺一人でゲリラ攻撃とテロ行為で首脳陣を根こそぎ刈り取る作戦であれば何とか……
イヤイヤ、そこまでする必要性もないしやりたくない。
同胞にも迷惑がかかるだろうし、敵を増やし過ぎては今後の生活に支障をきたす。
「目的は人質の確保を第一優先とする。勿論、帰るまでが遠そ…お仕事の内だからな。第二目標としてはこの国のタカ派の議員とその協力者の始末。それ以外に、これらの行動を邪魔する奴等は全員敵だと思っていい。容赦するなよ?」
「「応っ!」」ハイランダー達はヤル気満々だ。
「……」
モーリッツは無言で頷く。その目は確かに腹を括っている。
ラッドは主人の覚悟を感じて静かに燃えている。
狐のギリーは不安を隠せないでいるが、既に逃げる事は出来ない。裏切りは死を意味する事をここに来るまでに悟ったはず。
一番分かりにくいのはアイリーンだ。
当たり前のように付いてきてくれたが……。
どこまでやってくれるのかは分からないが、俺の背中は任せろと言ってくれた言葉を信じる他ない。
そんな中で疲れ切った悪徳商会員の狐と優男を見て作戦を閃いた。
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ブリスク支店の事実上の消滅に頭を悩まされていた私にとっては晴天の霹靂と言おう。天の祝福であろか……
ブリスク支店長代理を名乗る人間が戻って来たと報告を受けた。
それもベッケル駐在武官を単独で救出しての帰還である!大手柄に違いない。
何せ、商会の実質的なトップであるベッケル評議員の御子息である。
ブリスクに対する謀略が露見し、辺境伯に囚われの身となっていた。
「よく戻って来た!ギリー支店長代理!ベッケル駐在武官殿もご無事でなによりでございます!今、ベッケル家へ報告の者を行かせておりますので、しばし拙宅でお待ち下さい」
裏方仕事が専門だったのだろうギリーという商会員は、十二名のハイランド人からなる屈強な傭兵と魔法使いの精鋭部隊を持ってベッケル駐在武官を救出し国境を超えて来たと言う。
支店長代理としては過剰な戦闘力にも思えるが、ブリスクでの任務内容を聞けば納得するしかない。
裏の仕事も多い我がガゥネッド商会は、任務によって商会員の護衛と称して優秀な傭兵を雇い入れる。
金とコネを使って。
おかげでベッケル家の人間に恩を売れる。
このギリーとか言う商会員にも褒美を与えねばならんな。
正直、笑いが止まらん。
「商会長、ブリスク支店は差押さえられてしまい申し訳ありません。支店長も囚われており、今はどうなっているか……」
「君が気にする事はない。しばらくはゆっくり休みたまえ。ポストは用意しておく。勿論、待遇は本店幹部以上を約束しよう」
ギリーは疲れた顔にようやく光が差したようであったが殊勝な態度のまま部屋から出ていった。
今回のブリスク騒動の件でベッケル家は不利な立場に置かれるだろうが、しかしそんなものは一時的であろう。
莫大な財産と強権を有しているベッケル家は揺るがない。そしてそれは、傘下にある我々も同じだ。
しばらくは大人しくしていれば良い。
・
・
よもや、御当主自らが迎えに来るとは思っていなかった。
「これはこれはベッケル評議員。よくぞおいで下さいました!御子息は中でお待ちです」
険しい顔のベッケル評議員は私の言葉など聴こえていないようだ。
護衛にしては些か多過ぎる傭兵達で御子息のいる離れの建物を包囲させた。
自身の護衛にはいつもの二人が侍る。
「中と外、どっちが安全だ?」
ここへ来て初めて口を開いた当主の問いは、護衛に向けてだった。
「どちらでも構わないよ?強いて言えば、中の方が護り易いんじゃないかな?ね?」
まだあどけない少女のような姿の護衛はいつも通りの口調で返す。
「……(コクン)」
禿頭の大男は無言で頷く。
物々しい雰囲気に困惑していると、勝手知ったる当主が中に入って行くのを慌てて追いかけた。
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