第113話 西へ
おろしたての戦車がどうのとか、理由がないと正義の味方にれないなんて青臭い歌を歌いながら、西に向かう大街道を風を切って爆走する鉄の箱車。
勿論、戦車などではない。
「しかし、本当に凄いな!この『こうき』というのは!」
俺のドライブソングにノリノリ・アゲアゲになったアイリーンは珍しく興奮気味だ。
日本版ハンヴィー『高機動車』通称:コウキに乗って、いざ協商連合に殴り込みに向かう車内の連中は修学旅行の高校生並みのはしゃぎっぷりである。
後部に連結されたトレーラーにはモーリッツ、護衛のラッド、ガゥネッド商会の狐、拘束された優男こと…あれ?名前なんだっけ?ア、ア、アンドレ……アンジェラ?
まぁいい、激しく揺れるトレーラー組も楽しくやっているに違いない。
今回の一連の事件に関して、王政府からの回答は"国として抗議、賠償請求は行うが制裁は行わない。協商連合国とはコトを構えず"と、分かってはいたがなんとも日和った回答であった。
商業都市とはいえ、所詮辺境領にちょっかいを出されただけで、それも一部の勢力からとなると国としては全面的にやり合う理由もない。
旨味もないし勝算もない。
裕福なお隣さんとは"良い関係"であり続けたいのだろう。
しかしながら、やられた張本人は「はい、そうですか」とはいかない。
舐められたままで統治できるほど優しい世界ではないのだ。
王命でもって表立った交戦を禁じられはしたが、やりようはある。
「と、言うわけで。正式に使徒様に依頼したい。西の下衆共に裁きの鉄槌を」
本当は、とっとと西に殴り込みに行こうとしていたのだが、王国の対応を王政府が決めるまで待って欲しいと、辺境伯から待ったがかかった。
まぁ、待ってみての残念な決定に辺境伯の失望と怒りは如何程か。
三日間の待機もアイリーンの合流イベントのおかげで、まぁ、悪いことばかりではなかった。
ソフィアと一発もヤル事ができなかったのは悔やまれるが。
「ほぅ、私のいない間に女を囲むとはな」
ゴゴゴゴゴ!と擬音が出そうな位のプレッシャーを受けて冷汗をかいたが、経緯を丁寧に説明し事なきを得た。
「このプレッシャー!ハマー○か!?」とかのレベルではなく、普通にカミー○君ならオシッコちびってたと思う。
ソフィアの境遇と立場を理解した後、アイリーンは彼女を「妾としては問題ないな。西への足掛かりとしてはまぁ、及第点といったところか」と評した。
別に怒っていた訳ではなさそうだ
コイツは何を考えているのか良く分からない。
使えるなら囲うのもOKって事?
考えても分からない。
偉い人は言った。「考えるな、感じろ」と。
確かに
考えるのが苦手な俺にはピッタリの言葉だ。
辺境伯からの正式な依頼も受けた事だし、教団に集まった関係者一同に今回の作戦の説明を行った。
「とりあえずムカつくから、とっととブチのめしに行こうぜ!」
あまりにも考えなさすぎた言葉にモーリッツはドン引きしていた。
ハイランダー達には馬鹿ウケだったが……
「イヤイヤ、今のナシな。私と私の同郷の者に危害を加え、この街に被害を与え無辜の民を傷つけた無頼の輩達に正義の鉄槌をいざ下しに行かん!」
「おー!ブラちゃん使徒様っぽい!ちょっとカッコイイかも」
ユウちゃんには後で金貨握らせよう。
征伐メンバーを発表する。
モーリッツと護衛のラッド、アイリーン、ハイランダー10名、狐に捕虜の優男。
聖女マリアンヌやユウちゃんもついて来たがってたが、お留守番である。
マリアンヌには現地の教団に伝があると言うので、いざというか時は協力して貰えるよう手紙を書いてもらった。
ガゥネッド商会の一行として西に入り、タカ派に人質にされたソフィアの息子を奪還。
今回の事件に関わった連中にお仕置きして、取れるもんぶん取って帰還する。
これが今回の作戦内容だ。
辺境伯から、前回の治安回復のボーナスと経費として金貨5千枚を受け取り、マルコス商会に売却した地竜素材の代金と協賛金の金貨2千枚を全て魔石に変えた。
待機でロスした時間を埋めるべく、必要ポイントの多さと世界観の違いを理由に購入してこなかった文明の利器を遂に解禁する事にしたのだ。
『高機動車』トレーラー付き100万P。
因みに海外派遣用の防弾仕様で冷房まで付いてる。
武装は無し。
他の
慣熟訓練も必要なし、大それた防御力もいらんだろうと言う事でコイツに決めた。
後部座席に無理すれば10人は乗れるし、乗り心地は馬車に比べればはっきり言って、天と地ほどの差がある。
まぁ、後ろのトレーラーは貨物用なので乗り心地と言う点ではちょっと……オレニハワカラナイデス。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます