第94話 新たな敵の影
「店に出てるとは思わなかったが……それで?俺に何か用があるんだろ?」
ローズはテーブルの向かいに半裸マッチョ・ボールギャグ野郎を四つん這いにさせると、その男の背中に座る。
首輪のリードを引き、頭を持ち上げさせると肘掛けにし脚を組む姿に君臨する者のオーラを感じる。
「ええ、まずは先日のお礼をまだしてなかったわねぇ、本当に助かったわ。ありがとう」
「礼なら領主に言え。俺は請け負った仕事をこなしたまでだ」
俺が一人でやったわけでもないしな。
「それで、旧勢力の統一の話しなんだけどぅ……」
柄にもなく言いづらそうにするローズ。
「構わんよ。当初の約束通り加勢してやる。どうした?モーリッツのヤツが芋引いたか?」
衛兵隊が手を引いても特に問題はない。
清掃活動は得意分野であるし、獲も……片付けるゴミが増えれば報酬も増える。
「そうじゃないのよぅ。逆よ逆ぅ。旧勢力のほとんどは、向こうから傘下に入ってきちゃったのぉ」
おいおい!俺の獲物はよ?え?
せっかく最後に一稼ぎできると思ってたのに!
なんて不甲斐ない連中なんだ……
そんな俺の心の中を読んだのかローズは続ける。
「貴方達やり過ぎたのかもねぇ。あの黒尽くめの三人が界隈でなんて呼ばれてるか知ってるぅ?」
「こう見えて清廉潔白を旨とする人間だ、ゴミ溜めの事情には疎いんだ」
「……ローズファミリーの"死神"よ。"残忍な影"とも呼ばれてるみたい。貴方達のお陰で、私まで"黒い薔薇"なんて呼ばれてるんだから」
確かに敵やそれ以外にも見せつけるように暴れてはいたが、よもや他の旧勢力がびびってしまうとは思わなかった。
「そうなんだ……」ボーナスタイム終了のお知らせにテンションだだ下がりだ。
ああ、やっぱり授乳手コキされたい。
「その代わりと言っては何だけどぅ、貴方を嗅ぎ回ってる連中の中にぃ、何処ぞの男爵と商会の手のヤツらが居るらしいわよ?」
コイツ……俺の周りをコソコソしてるヤツらを調べてたのか。
まあ、いいか。
それより獲物情報を持ってきてくれたし。
「そうか。そっかぁ〜ソレ、身に覚えあるわ!」
あれだ、マルコス商会の商売敵と唆され男爵。
ヤツらはマルコス商会の商隊を狙っていた。
あの輸送業務はギルドから正式に請け負った仕事だ。
ちょっと調べれば誰があの商隊に雇われたかくらい分かるだろう。
調べる内に俺にたどり着いたとしても不思議じゃない。
もしも粛正や掃討で暗躍した"使徒"ではなく、マルコス商会の護衛や荷物持ちの"冒険者"として俺を探っているのなら中々楽しい事になるかも。
しばらく暇になるのでコイツらと遊んでみるか。
そう考えると自然と笑顔になる。
「もう、凄く悪い顔しちゃってぇ。何かゾクゾクしちゃうじゃない」
そう言って身悶えする危ない女を無視して、前祝いに店にある一番いい酒を持ってこさせた。
目が覚めると、全く知らない部屋のベッドの上だった。
どうやら楽しい酒のせいで、記憶が飛ぶまで飲んでしまったらしい。
「んっ、ぅん〜」
ゴソゴソとベッドの隣りにいた誰かが動いた。
あぁ、やってしまったか。
記憶がないので、誰とどこまでいったかどうかは定かではないが。
コッソリ逃げよう。
でもその前に顔だけでも拝んでおこうと、そっとシーツを捲ると、星のカチューシャを付けたプリンパパがピンクドレス姿のままスヤスヤと寝ていた。
血の気が引く俺。
「あら、起きたのぅ?貴方達、一人じゃ歩けそうにないくらい酔っ払ってたからお店の部屋に泊めたのよぅ」
部屋のドアを開けて俺を見たローズがそう言った。
心底安心した。
いくらなんでも、女装した変態豚野郎と間違いを犯したなんて死んでも御免だ。
「フガッ!は?え?あ、おはようございます?」
プリンパパの穏やかな寝顔にイラッとしたので、人より広くなっている額を叩いて起こしてやった。
「おはよう。とっとと着替えて帰るぞ」
自分の姿を確認すると慌てて変身を解除するプリンパパ。
繁華街には泥酔の為か、横たわる死体のような男達が路地や通りの隅に散見され、朝の清々しさなど微塵も感じられない。
「イヤー、昨日は楽しかったですね!黒井さんがあんなに歌と踊りが上手いとは!」
ハハハと笑う変態豚野郎に、俺はまた何か披露したのだろう。
やはり、年相応の飲み方をしなければなと心に誓った。
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昨日は爆睡して更新できなかったので、今夜もう1話追加できたらなと思っております。
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