第75話 ブリスク④
「それでは領主様、また後日という事で……」
「ええ、聖女様にはお気遣いいただき誠に感謝しております」
ニッコリと笑いかける様はまさに聖母の慈愛を感じさせる。
あの胸には母性しか詰まっておらぬのだろう。
辺境伯である私はこの慈愛と母性の僕だ。
邪な思いではない。全くないと言うと嘘になるが。
そんな事がバレてみろ、教団から冷遇されれば領内の統治に支障をきたす。
宗教馬鹿の僧兵達に囲まれる可能性もある。
聖教とは適度な距離感での付き合いが望ましい
あのおっぱ…聖女様は神への信仰厚く使徒の確保に成功したとの報告と、
貴族街の聖堂を白光教団に委譲しろとは……
少数派とはいえ、クンニ派の貴族達が騒ぎ出すだろうな……
どのみちクンニ派とは縁を切るつもりではあったのだが、なんとも性急かつ過激にクンニ派の粛正が行われた為に根回しなどが不十分であると言わざるをえない。
なるべく領内だけでケリをつけられるように手を打ちたいが……
————————
「私は一度ヒッチーノの町に戻らねばならんが、お前はどうする?」
アイリーンはサウザランド(この国)の魔術協会ブリスク支部に顔を出し、冒険者ギルド出向の任を解いて貰いに行った。
元々は宮廷魔導院の役職を離れ、田舎で無聊を託つ生活を送っていた所を冒険者ギルド側の強い要請を受け、魔術協会からの出向という形で副ギルド長に就任したらしい。
ギルド戦力の穴埋めとしての役割だったので、然程煩雑な手続きなどは無いというが、「辞めます!ハイ、さよなら!」とはいかないのだ。
「マルコスさん達と一緒に戻るんだろ?俺も一緒に戻って路銀を稼ごうと思ってたんだが、教団とここの領主次第だろうな」
昼間、遭遇した領主家の五男の話しをすると
「そうか……魔導院にも転移者の話しは伝わっていたぞ。まぁ、組織としてはあまり関心は無さそうだったが……」
ふーん
「よかった、捕まって人体実験とか標本にされたりするかもとか思ってたよ」
「お前、魔導院を何だと思ってるんだ?流石に……多分、そこまで酷くないぞ」
ちょっと珍しく自信なさげな所に不安を覚えなくはないが、マッドなサイエンティストは多分いないらしい。
強化人間とかならワンチャンあるかもだけど、切り刻まれるのは勘弁である。
近い内にお互い離れてしまうかもしれないという事で、マルコス商会の支部を出て街一番の高級宿に寝床を移すと俄然お楽しみに熱が入る。
気兼ねなく声を出し、激しくぶつかり合う。
風呂場がある部屋はやはりイイものだ。
風呂場で競泳水着を着てもらった俺は、レベルが上がったおかげもあるのか更に漲る。
絶対似合うと思い、ポイント交換しておいた。
最高だ!
風呂場でも楽しんだ俺達はベッドの上で怠惰に過ごした。
翌日も寝転がりながら軽食を摘み、ワインを飲んではまた楽しんだ。
更に翌朝、従業員が来客を知らせに来た。
ロビーに出るとブリスク家五男モーリッツがソファーに座って待っていた。
「アンタか。わざわざ御子息のお迎えとは畏れ入るな」
「我が父より、あーあんた敬語がいらないんだろ?聖女様は親父殿にそう言ってたらしいが、私としてもその方が助かるんだが?」
「かまわんよ。俺だって畏まった喋りは得意じゃないし、ガラじゃない。貴族のアンタが構わないのであればな」
「ならいい。親父殿は敬虔な信徒だから使徒様に"もしも"が再びなんて事が無いよう私を寄越したって訳だ。この街で、我がブリスク家に正面から喧嘩を売るような馬鹿はいないからな」
「非力な使徒の為にわざわざすまんな。ははは」
「何の冗談だ?非力と言う割に肝が座ってるし、よほど自信があるように見えるが?」
「"非力な使徒"と言っておいた方が間抜けな鴨が寄って来るだろ?そう言う事だ。あ、バラすなよ?教団を敵に回したくないだろ?」
呆れた顔のモーリッツは理解不能だといった様子だ。
「あんた、本当に使徒なのか?悪魔の類じゃないだろうな?」
「大司教のような奴等を狩るのも俺の使命らしくてな。本当、物騒な使命にも嫌になるぜ」
と笑ってみせたが、引き攣った笑いしか返ってこなかった。
アイリーンもロビーに降りて来たので紹介する
「色々世話になってるアイリーンだ。ヒッチーノの冒険者ギルドの副長で魔導師だ」
「ゲッ!あ……いや、お初にお目にかかります。お噂は予々……こんなお美しい方とは、いやはや噂以上の美しさでちょっと驚いてしまいまして失礼を」
なんか、ちょっとびびってない?
「それはどうも。どんな噂かは知りませんが、世間の噂は面白おかしく伝わるもの。尾鰭はひれがついてね。こちらこそブリスク家の方とお会いできて光栄です」
アイリーンはいつも通り威圧感ある
そんな事より、さっきから気になっていた事を聞いてみた。
「ところで、この宿を包囲してる奴等はアンタの部下とかじゃないよな?」
アイリーンは「またか……」と小さく溜息
モーリッツは後ろに控えていた二人の男に外を確認に行かせてた。
「アンタの家に喧嘩を売る奴なんかいないんじゃなかったっけ?」と、揶揄う
「馬鹿ってのはどこにでも居るものだ。それに、多分……」
と、言い終わる前にモーリッツの部下の制止を無視しながら闖入者がロビーに入ってきた。
「モーリッツ!その男が"使徒"なるモノか?このモノの身柄は私が預かる故、貴様は大人しく手を引け!使徒確保の褒美は期待して良いぞ」
ニヤケ面でそうほざく、"間抜けな鴨"が自ら飛び込んできた。
「兄上、私は父上からの命を受けて使徒様のお迎えに参ったのです。悪い事は言いません、謝罪しお引き取りなさい」
「貴様!妾腹の子の分際で私に楯突くか!家族の一員として迎えてやった恩を忘れたか!」
「家族に迎え入れたのは兄上ではなく父上でしょう。それに使徒様を手に入れてどうするつもりですか?父上に逆らって無事に済むとでも?」
「はっ!これだから下賤の輩は困る。大司教様に献上すれば、大司教様は枢機卿となりこの土地は元より、この国で大きな力を手にする!私は兄上達を出し抜き!ここの領主となるのだ!お前は今の内に私に付いておけ!」
間抜けだとは思ったが、とんだ大間抜けだった
「いやはや、これはこれは。はっはっはっ!実に愉快な兄上様で……、大司教様もこれには苦笑いでしょうな」
「貴様、使徒だからといって手を出さぬと思っておらぬだろうな?死なぬ程度に痛めつける事も出来るのだぞ?オイ、そこの女は誰だ?」
アイリーンに目を付けると嫌らしい顔を隠そうともせずにニヤケ面で聞いてきた。
「私のパートナーです」それだけ言うと
「平民には勿体ない女ではないか。そこの女も私が預かろう。次期領主の私に囲われるのだ、光栄に思え」
そう言うとアイリーンに近寄り身体に触れようと手を出した。
モーリッツが動きそうだったが、それより早く間抜けの腕が凍っていた。
「なっなっなんだ!ここここ、ヒィーー!」
ちょっと笑っちゃうくらいのヒヨリっぷりだ
「こらこらアイリーン。お貴族様を凍らせたらダメだろう!大丈夫ですか?」と凍った右腕を掴むと、無駄に伸びまくった自慢の力で握り砕いた。
上腕の半分より先を失ったが出血もしない程に凍っていた。
床に落ちた凍った腕の残りを踏み砕き、間抜け兄の首を掴むと言った
「大司教は既にあの世に逝ったぞ?神敵として粛正されてな。お前もすぐに逝くから安心しろ」
失禁する間抜けを放り投げると、ロビーにいた間抜けの従卒4人の首をへし折って殺した。
蹴りで、手刀で、肘打ちで、頭を掴み膝蹴りで
お気に入りの宿を血で汚したくなかったからな
「外の奴等はアンタに任せるよ、身内は手にかけたくないだろ?」と言うと、モーリッツは短剣を抜いて間抜け兄の胸に突き刺した。
「ガァ、ゴボッ!ゴボッ!」と血を吐いて死んだ間抜けを見て、せっかく綺麗に殺したのが無駄になって少し悲しい。
「身内の恥を晒して悪かったな。始末は俺が付ける。ちょっと待っててくれ」
そう言うと外の連中に兄の死を告げ、数人切り捨てると残りは引き上げさせた。
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クリスマスも終わったので徹夜明けで即寝したら変な時間に起きてしまいました。
下書きを急いで仕上げての投稿です
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