第18話 息子のムスコ 閑話

 バチっと焚き火に入れた薪が爆ぜてビクッとなる。

 まだ宵の口なのに雲のせいで既に外は暗闇だ。

 夜の見張り(それも戦う前提での)なんて生まれて初めてだ。


 狩りには親父に付いて行った事はあるが、俺らの世代は戦なんて生まれてこの方…少なくともこの領内のでは経験したことなど無いだろう。


 正直、気が重い…


 しかし、この牧場の跡取りとして牧場を体を張って守る義務がある。


 あの魔法使いは「大丈夫だ。任せとけ。漢を見せろ」と笑いながら言ってた。

 親父もそれに乗って「村の若い娘にモテるかもな。薬士のとこのリーリアちゃんとか。ハハハハ!」

 俺がリーリアちゃんに気があるのがばれてるのに驚いた。


 親父は若い頃に徴兵されて大きな戦に参加した事がある……

 と、お袋に聞いたことがある。


 その後、領主の募兵にも応じて隣り領と又隣の領の小競り合いに参戦したという。


 あの親父が?と思わなくもなかったが、ボウガンで獲物を狩る姿にゾクリとするものがあったのを思い出した。


 親父は戦の話しなんてしたことない


 何となく聞かない方がいいのかもしれないと思ったしな


 普通だったら武勇伝の一つでも大袈裟に誇張して自慢したりするだろ?


 息子の俺や弟にも剣や槍を握らせたり、弓の握りすら積極的に教えようとはしなかった。


 頼めば教えてくれたんだろうけど…

 俺も弟も絶望的に素質が無かった

 親父はそれでも文句を言うことはなかった。


 魔法使いが合図出してきた!


 槍を構えて縮こまってしまっている

 特にナニが…

 柵の中で比較的安全なはずなのに……


 親父は腹を括っているのだろう、険しい顔でボウガンの弦を張りボルトをセットしていた。


「アオーーーーーーーン」

 狼の遠吠えで、失禁しそうになる

 いや、ちょっと出たかも


 魔法使いが「来るぞ!」と二階の窓から鋭く言い放つ。

 親父が「ここらで漢を見せろ!」とニカリとわらう。

 何故だかよく分からないが涙が出てきた

 怖いからではない、いや怖いは怖いのだが

 親父の言葉と笑顔が嬉しかったんだと思う


 初めて一人前の男として扱われた、いや一人前になれと言われた気がしたのだ。

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