その人と、ガネーシャ様の黄金神殿に向かう。

 ダンダンダン!


 美味しい朝ごはんの後、部屋でくつろいでいると、ドアが乱暴にノックされた。


 「〇▽◇!」


 旅籠の主人だった。


 「〇▽◇!」


 「ユウさん、この人なんて言ってるの?」

 「うん、迎えが来たって」

 「迎えって、昨日ダミニさんが言ってた、ガネーシャ様の神殿にいくやつ?」

 「そうみたい、早く出て来いって」

 「えっ? もう?」


 わたしたちは、あわてて身支度をして、外に出る。


 「「あっ!」」


 旅籠の外に出たわたしとジーナは、びっくりして声をあげた。

 店の前には、すごい人だかりができていて。

 その人だかりの原因は、そこに待機している三頭の白く巨大な生き物。

 ぱたぱた動く大きな耳、鋭い二本の牙、しわしわの皮膚、太い脚。

 驚かされるのはその鼻。まるで蛇のように長く伸びていて、それがぐねぐねと動く。

 小さな鳶色の目は優しい。


 「これは……?」

 「うん、象だねえ」


 と、ユウが言う。


 「これが、象か!」


 おはなしでは聞いたことがある。

 南の国にいる、長い鼻の生き物だと。

 でもまさか、実物がこんなふうだとは……。


 「大きい!」


 大きいのだ。想像をはるかにこえて、とんでもなく大きい。

 熊よりも大きい。

 さすがにドラゴンよりは小さいが……。

 そして、その白象の背中には、三角屋根のついた輿がとりつけてあって。


 「ひょっとして、わたしたち、あれに?」

 「そう、乗るんだよ」

 「でも、あんな高いところにどうやって乗るの?」

 「ほら」


 象一頭に一人ずつ付いている、白い制服を着た象使いの男が、象の耳を撫でると、象は前足を折ってひざまずく。

 輿から下がっている梯子が、ぐうっと目の前に来る。

 わたしたちは、それぞれ、象の輿にのりこんだ。


 「た、高いよ、これ」

 「わあ、遠くまで見えるねえ!」


 象が再び立ち上がると、輿は予想外の高さで、あたりをみわたせる。

 私たちの周りに集まった人たちの、その向こうのほうまで。

 象が立ち上がったので、あつまった人々がどよめいた。


 「ホウッ!」


 象使いの男が声をかけ、


 「パオーン!」


 象は、一声高くほえると、一列になって、通りを行進していく。

 輿は、象の歩みにあわせて、ぐらり、ぐらりと揺れる。

 草のような象の匂いがした。


 「○△□!」

 「△○□!」


 道ゆく人たちが、わたしたちを見て、なにごとか叫ぶ。

 ユウに聞くと、「ガネーシャ様のお使いだ!」「あの人たち、神殿に呼ばれたんだね!」というようなことらしい。


 「ガネーシャ様の御恵がありますように!」


 わたしたちに、そう祈ってくれる人たちもいるとのこと。

 わたしたちの象の歩みにつれて、人々の波が分かれる。

 浅黒い大勢の顔が、わたしたちを見上げる。

 その目は、キラキラと輝いている。

 こうして、わたしたちは、見守る人たちの喧騒の中を、ガネーシャ様の黄金の神殿にゆっくり、ゆっくり進んでいくのだった。

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