51 双星

「やっと終わったぁ」

「お疲れ様」


 ネイビスが息も絶え絶えな様子でそう言うと隣に座っているビエラが労う。会議が終わったのは日が暮れた後だった。ネイビス達のステータスを確認する時に、彼らの付けていたアクセサリーが話題となり、さらに議論が長引いてしまったのだ。


「ご苦労であったな。では約束通り、これから宝物庫に案内する」


 会議が終わるとネイビス達は国王直々に宝物庫に案内された。

 王城の最も奥深くにある厳重に警備された宝物庫の中へと入ると、幾つもの棚に宝物が所狭しと並べられてあった。国王は入り口から直ぐの場所にある棚に置かれてある箱を手に取ると、中から三つのペンダントを取り出した。


「これが不死のペンダントだ」

「ありがとうございます」


 国王はネイビス達一人一人に不死のペンダントを渡していった。三人は感謝して慎重に受け取って行く。それは黄金とエメラルドが美しく溶け合ったようなペンダントだった。三人が不死のペンダントに見とれていると国王が口を開いた。


「『ランダム勇者』よ。お主らの此度の貢献は類を見ない程の偉大なものだった。そうだな。一人ひとつ、この宝物庫から好きなアイテムを持って行って構わんぞ」

「え!いいんですか?」


 国王の発言にネイビスが喜色の声を上げる。国王はそれに笑顔で応えた。


「ああ。二言はない。早速どれにするか決めに行くとよい」


 ネイビスは少し興奮気味に宝物庫を物色し始めた。中にはゲームで見たことのあるアイテムや全く見たことのないものもあった。だが、見たことのないものの多くは絵画や陶芸品等の芸術作品で、ネイビスが欲しいと思う物ではなかった。


「ねぇ、ネイビス君!この杖どっちがいいかな?」


 ネイビスが血眼で宝を探していると、ビエラが二つの杖を持ってネイビスに声をかけた。


「ん?それは!」


 ネイビスはビエラが持つ杖を見て唖然とする。


「間違いない。これはツインスタッフだ!しかもこの色と形。もしかしなくても双星なのか?」

「ネイビス君。これ知ってるの?」

「ああ。これはな。雷鳴剣と並ぶ、最強武器だ。でも、何でここに?」


 ツインスタッフとはゲームの中に出てくる武器の種類で、対になった二つの杖のことである。双星は宵の明星と明けの明星の二つの杖がセットとなっている。ゲームでは双星は魔王討伐後に魔王城の隠しエリアである墓地にて手に入れることが出来る武器だ。双星は魔王の魔法により封印されていて、魔王を倒すことでその封印が解けるのだ。


「その杖はな。古い文献によると、伝説の勇者のパーティーメンバーだったとされる双子の物だと言われている」

「そうなんだぁ」


 国王が説明するとビエラが感嘆の声を漏らした。そんなビエラをよそにしてネイビスは一人考える。双星は伝説の勇者パーティーのメンバーの物だった?それに双星がここにあるということは誰かが既に魔王を倒したということになる。それともマギカードやダンジョンの周回禁止のように、この世界がゲームではなくなったことでまた何か歴史が変わっているのか?そもそも今はゲームと同じ時間軸なのだろうか。疑問が更なる疑問を呼び、ネイビスは思考の渦に飲み込まれそうになる。


「ネイビス君?」


 ビエラが心配そうに考え込むネイビスの顔を覗き込んだ。


「ああ。何でもない」

「大丈夫?」

「平気だ。それより俺はこの宵の明星を選ぶわ」


 ビエラのお陰で現実に戻ったネイビスはいつものごとく持ち前の楽観主義で、悩みを無限の彼方へと追いやった。


「宵の明星?」

「そうだ。この紫を基調とした杖が宵の明星と言って、こっちの朱色を基調とした杖が明けの明星って言うんだ。効果はそれぞれ闇魔法、光魔法の威力1.5倍だ。二つあわせて双星な」

「そうなんだ!もしかしてプチホーリーの威力が上がるの?」

「そうだぞ」

「じゃあ、私はこっちの明けの明星にする!」

「ふーん。二人ももう決まったみたいね」


 ビエラが明けの明星に決めると、イリスがやって来て声をかけた。


「イリスちゃん!イリスちゃんはもう決まったの?」

「ええ。私はこの力の護符にするわ。効果はSTRがプラス75なのよ」

「それはいいチョイスだ」


 イリスは赤色の護符を手にもってネイビスとビエラに見せるとネイビスが頷いて応えた。それを見て国王が三人に歩み寄り声をかける。


「どうやら三人とも決まったようだね」

「はい。不死のペンダントといい、これといいありがとうございました!」

「「ありがとうございました」」


 ネイビスが国王に感謝を述べて頭を下げるとビエラとイリスも後に続いて礼を言った。


「なに。初期投資だとでも思っておいてくれたまえ。その代わり今後の活躍には期待しているからな」

「はい!」


 その後、三人は国王と別れて王城を後にした。城を出る頃には辺りはすっかり夜で、空には丸い月が浮かんでいた。

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