27 防寒対策

 翌朝ネイビスとイリスとビエラは飛空艇に乗る前に服屋に来ていた。ゲーム感覚でそのまま飛空艇発着場に向かおうとしたネイビスをイリスとビエラが止めたのだった。「このままだと私達みんな凍えるわよ?」との事だ。完全に気候のことを失念していたネイビスはなるほどと納得して今現在に至る。


「ねぇ、ネイビス君。この服どうかな?」


 ビエラが手に取ったのは白い羊毛でできたもこもこコートだった。ネイビスは頷いて答える。


「いいんじゃないか?暖かそうだし、絶対ビエラに似合うな」

「やったぁ!私これ買うね!」


 そう言ってビエラはバタバタと駆け足で店員さんの元へと向かった。


「ネイビス。これはどうかしら?」


 次はイリスがネイビスに声をかける。手に持っていたのは黒のトレンチコートだった。


「イリスはスタイルがいいから黒が似合いそうだな」

「そ、そう?ならこれ買おうかしら」


 イリスも店員の元へと向かう。当のネイビスは二択で迷っていた。


「やっぱりこの茶色のトレンチコートが無難かなぁ?それともちょっと冒険してこの氷結羊のもこもこコートにしようかなぁ?うーん。迷う」


 どっちを買うかネイビスが悩んでいるとそこに買い物を済ませたビエラが戻って来た。


「ネイビス君、どうしたの?」

「ビエラか。いや、これとこれのどっちにしようか迷っててな」


 ネイビスが手に持っている二つの服をビエラが見比べる。


「私はこの水色の方がいいと思うよ。暖かそうだし可愛いし!」

「それもそうだな。これにするか!」

「二人でなに話してるの?」


 そこにイリスが合流する。


「いや、この二択で迷ってたんだがこっちにしようと話してたんだ」

「えー!私は断然茶色のトレンチコートの方がいいと思うわ」

「でも、イリスちゃん。こっちのコートは可愛いよ?」

「ビエラ。ネイビスは背が高くて、その……イケメンなんだから、大人なこっちのトレンチコートの方がいいと私は思うわ」

「でも、羊さん可愛いのに……」


 話は平行線を辿る。


「ネイビスはどっちがいいの?」


 イリスに問われてネイビスは焦る。この選択は言わばビエラとイリスのどっちの意見を聞くのかということになる。どちらを選んでも選ばれなかった方は悲しいだろう。茶色のトレンチコートを選べば黒のトレンチコートを買ったイリスとお揃いになり、氷結羊のもこもこコートを選べば白い羊毛のもこもこコートを買ったビエラとお揃いになる。どちらに転んでも片方に申し訳ない結果になる。


「すまん。選べない」


 やはり選べないネイビスを見かねてイリスが妥協案を提案する。


「そんなに迷うなら両方買ったらいいのに。お金はあるんでしょ?」

「それだ。イリス、ナイスアイデア!」


 結局ネイビスは両方とも買い、三人は服屋を出た。


「結構時間ギリギリだな」

「早く行きましょ」


 服を選ぶのに予想以上に時間がかかってしまったため、三人はイカルの町の人並みを糸を縫うようにしてかき分けながら足速に発着場目指して進んでいった。


「9時発フューズ行き飛空艇はまもなく出航です」

「あ!乗りまーす!」


 三人は無事に飛空艇に乗り込むことに成功した。


「なんとか間に合ったね」

「そうだな」


 飛空艇に入って直ぐの所にあるロビーにて三人は息を整えていた。


「デッキ行きましょう?」


 しばらくしてからデッキ好きなイリスが提案した。


「いいぞ。向かうか」

「うん!」


 ネイビスとビエラが賛成して三人はデッキに向かう。


「相変わらず、風が気持ちいいわね」


 デッキには涼しい風が吹いていた。イリスの長く綺麗な金色の髪が風に揺さぶられて、その美しさにネイビスは思わず見入ってしまう。それに気づいたイリスがネイビスに訊く。


「ネイビスどうしたの?」

「いや、お前に見惚れてた」

「な、なによ急に!」


 イリスはそう言ってそっぽを向いてしまう。


「イリスちゃんの髪綺麗だよね」

「ビエラの黒髪も綺麗だぞ」

「そうかなぁ?えへへ」


 ビエラは照れ隠しで笑った。ネイビスはそんなビエラの頭に手を置いて優しく撫でる。


「なんだかくすぐったいよー」

「ビエラだけずるいわ。ネイビス。私の頭も撫でなさいよ」


 ビエラに嫉妬したイリスがネイビスの方へ頭を傾けてそう言った。ネイビスは二人の頭を撫でながら頬を緩めて言う。


「本当に二人は可愛いな」


 その言葉を聞いてビエラとイリスが頬を赤く染める。


「そう?うふふ」

「ありがとう。ネイビスもカッコいいわよ」


 外の空気はフューズが近づくにつれ寒くなっていった。だが、三人の空気は気温に反比例するかのようにだんだんと熱くなっていく。この便の飛空艇に乗っていた人たちは「よくあんな寒いデッキにいるよな」とイチャつく三人を遠目に見て思うのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る