16 旅路
ネイビス達はFランクダンジョン『ウサギパラダイス』に併設されている兎買取場でツノウサギ達を換金していた。
「合計で6,500ギルになります」
ブラックツノウサギが一匹1500ギル、その他のツノウサギは一匹50ギルで、合計で6,500ギルになった。『ウサギパラダイス』は人気なので、一日に大量のツノウサギが売られる。その影響でブラックツノウサギ以外のツノウサギはとても安い。
三人は銀貨65枚を22枚二組と21枚一組に分け、ネイビスが少ない方をとった。
「一度白金貨を見るとダメね。銀貨22枚もそこそこの値段なのに感覚が麻痺してくる」
「そうだね。でも白金貨って、どこで使えばいいか分からないよ」
イリスの意見にビエラも同意する。
「俺はもう使ったぞ」
「あなた、いつの間に使ったのよ?」
「このロコルリング買った時だよ」
そう言ってネイビスは右手の人差し指に嵌ってあるロコルリングを見せびらかす。
「ネイビス君。その指輪何ギルしたの?」
「300,000ギルだぞ」
「えええ!そんなにしたの?」
「いや、いい買い物だったよ。この指輪ならしばらくは売ることはないな」
「あなた300,000ギル払って手に入れた指輪を売るつもりなの?」
「前にも言っただろ。この世界にはもっと凄いアクセサリーがまだまだあるって」
ネイビスは残りの隠しエリアで手に入れられる三つのアクセサリーに思いを馳せる。
「それよりこれからどうするのよ?」
時刻は午後一時過ぎ。もうダンジョンに潜れないことを考えると三人は暇になってしまう。
「次の町ネルトに行く、と言いたいところだが、このダンジョン都市イカルはバカでかいからな。今日はイカルの北門近くの宿に泊まることにする」
「りょーかい」
三人は半日かけて旅に必要な食料や水、簡易テント等を確保しながらイカルの北門を目指した。門の目の前にある宿『北の月亭』に辿り着き、三人部屋を取る。
この世界には月がある。北の月という表現は、この星の南半球に人間の住む大陸があるから北の空に月が見えることと関係する。魔大陸のある北半球では現代日本のように南の空に月が見えるのだ。
そんな些細なこともネイビスにとっては面白い気づきとなったが、このことはイリスとビエラの二人には説明が大変なので話さなかった。
翌朝、三人は朝一番で北の門を出る。相変わらず朝に弱いネイビスも、今はやる気に満ちていたので寝坊せずに起きることができた。
「ここからはどんな敵が出てくるの?」
荒涼とした礫沙漠を三人が歩いているとイリスがネイビスに尋ねる。
「ここは岩を主食とする魔物ロックリザードの群生地だな。正直今の俺達だと群れに遭遇したらかなり危険だ。だから戦闘は極力避けて行くぞ」
「ネイビス君。ロックリザードってどんな見た目なの?」
「ああ、もうまんま岩だな。灰色のゴツゴツした肌で岩に擬態してるからよく目を凝らす必要がある」
ロックリザードは岩さえ食べれば生きていけるので基本的に人は襲わない。だが『ランダム勇者』だと、ここガルボ沙漠では岩に擬態しているロックリザードの近くを通ると群れで襲って来る仕様になっていた。まるで地雷のようだったなとネイビスは思い出す。
「あれもしかしてロックリザードじゃない?」
ビエラが遠くの岩場を指差して言う。三人は立ち止まり、ビエラの指し示す先を凝視する。
「よく見つけたぞビエラ!確かにロックリザードだな。しかも何匹もいる」
ロックリザード一体の推奨レベルは大体15から20。初級職でレベル20代のネイビス達には荷が重い。さらにそのロックリザードが複数で襲ってくるのだから危険極まりない。ロックリザードは中盤の都市イカル周辺に住む魔物の中ではかなり弱い部類だが、その集団性が種として強くさせていた。
三人は道を変えてロックリザードの集団を避ける。ネイビスは最初のスライムの森で属性スライムを避けていたのを思い出し懐かしくなった。
そこからはただひたすら歩いてはロックリザードを避けるのを続けた。一度テントで夜を明かし、その次の日の夕方やっと三人は次の町ネルトに着いた。
「やっと着いたわね!早く宿屋探しましょ!」
「イリスは元気だな。俺は結構疲れたよ」
「私ももうへとへとだよ」
相変わらずVITの高いイリスは余裕の表情だ。三人は町の食事処で適当に夕食を済ませると手頃な宿を探して泊まった。三人部屋に泊まった三人はまたベッドを一つに繋げてその上に寝転がっていた。
「私とビエラ、全然レベル上がってないわよね」
イリスがボソッと呟いた。イリスとビエラのレベルはロコルの町についた時からずっと上がってなかった。飛空艇で旅したりロックリザードを避けて歩いたりと、『ウサギパラダイス』を除いたらろくに戦闘をしてこなかったのが原因だ。唯一の『ウサギパラダイス』でさえクリアしてもレベルアップしたのはネイビスだけだった。早くレベル25になって剣士見習い第二スキル『二連切り』を覚えたかったイリスはレベルが上がらないことを不服に思っていた。
「大丈夫だ。安心しろイリス。この町の東にあるネルト山に存在するEランクダンジョン『羊達の悪夢』を周回すれば直ぐにレベルが上がる」
「本当?なら今は我慢するしか無いわね」
「ねぇ、ネイビス君。そのダンジョンでどのくらいレベル上げるの?」
「俺がレベル50になるまでだな。多分その頃には二人はレベル40かそこらになっているはず。そうしたら次のDランクダンジョンに行くぞ!」
「かなり上げるわね。Eランクダンジョンでそこまで上がるのかしら?」
「上がるのかしらじゃない。上げるんだ。そうだなぁ。一日に最低でも五周はしたいところだな」
「五周かぁ……。それは大変だなぁ」
その後も三人はマギカードで掲示板を見たり、しりとりで遊んだりして夜を過ごすのだった。
勇者パーティー『絶対零度』がAランクダンジョン『ドラゴンの巣』の五階層を突破したらしく、掲示板がそのことで荒れていた。イリスとビエラに挟まれて眠ることのできないネイビスはその掲示板を眺めて夜を明かす。掲示板にやたらと『勇者ルート』の文字が出てきて、同じ名のとある人物を思い出し「まさかなぁ?」と思うネイビスであった。
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