15 絶望のち歓喜
「ええええ!二周目はダメなんですか?」
「はい。規則ですので」
Fランクダンジョン『ウサギパラダイス』の入り口前の受付でネイビスは悶絶していた。
「だから言ったでしょ?ダンジョンは一日に一周が常識だって」
両手と膝を地面について絶望しているネイビスにイリスが追い打ちをかける。三人は『ウサギパラダイス』を初クリアした後昼飯を食べてから軽く休憩し、そして今ネイビスの提案で二周目に挑もうとしていた。だがそこで突きつけられたのは『ダンジョンは一日ひとつまで』という『ランダム勇者』には無かったルールだった。
マギカードにダンジョンクリアの履歴が残るため、その日にクリアしていると受付でチェックされるのだ。大昔は無理に一日に何周も挑んで死んで行く冒険者が多かったため作られた制度だという。
「俺の人生設計が崩れていく……」
「ネイビス君。目立ってるし他の人の迷惑だから場所変えよう?」
受付の女性の前で土下座の体制になっているネイビスは確かに目立っていた。ビエラがネイビスに声をかけるもその耳には届かない。
「あいつアリスさんに何かしたのか?」
「アリスさんも大変だな」
列の後ろからそんな声が聞こえてくる。ちなみに受付の女性はアリスという。
「俺はこのまま最弱のままなのか?」
「ネイビス!あなた聞いてるの?」
「俺はこのままノービスのままなのか?」
「『スラッシュ』行っときますか?」
「ああ!それだけは勘弁してくださいぃ!」
イリスの『スラッシュ』が効いたのかやっとネイビスは我を取り戻した。
「ネイビス君。場所変えよう?」
「そ、そうだな」
三人は今朝作戦会議をして昼に昼食を食べた場所である木の下に再び腰を下ろして今後の方針について話し合うことになった。
「このままだと俺達はずっと初級職のままだぞ。Sランクになるのも一週間どころか何年かかるかも分からない」
「でも、私はそれが普通だと思うけどね」
「私もそう思う」
「イリスとビエラは初級職のままでいいのか?」
「それは……転職できるなら転職したいわよ」
「私も転職したい!あとレベル99になって『プチホーリー』覚えたい!」
「ならいち早くレベル99になるしかないんだよ!」
「そんなの分かってるわ!でもレベル99なんて御伽噺の勇者じゃないんだからなれるわけないわよ!」
その時ネイビスはイリスの言葉に引っ掛かりを覚えた。
「御伽噺の勇者?なんだそれ」
ネイビスが質問するとイリスはやれやれとため息をついて説明を始めた。
「あなた知らないの?遥か昔にレベル99の勇者がいて、この大陸に攻めてきた魔王軍を撃退したって話!その戦いで魔王が弱ったから今のところ魔王軍が攻めてこないんだとされているわ。結構有名な話よ!でもそれはあくまで御伽噺だから実質の人類最高到達レベルは三十年前に活躍してた勇者のレベル67なのよ。これは勇者学院に通ってなくてもみんな知っている常識よ?」
「一番魔大陸に近い港町クラリスに御伽噺の勇者が使っていたとされる剣があるらしいよ?でも誰もその剣を抜くことはできないんだって」
イリスの長話とビエラの補足説明にネイビスは何かしらの光を見た気がした。
「その剣は雷鳴剣って言うんだが、何か思い出せそうな気がするんだよな……」
ネイビスは行き詰まった現状を打開できる方法が後少しで思い出せそうな気がして悶々とする。そんなネイビスに雷鳴剣と聞いて興味を持ったイリスが聞き返す。
「雷鳴剣?それが御伽噺の勇者が使ってた剣の名前なの?」
「ああ。恐らくな。STRがアクセサリーの追加効果を含めずに300ないと扱えないようになっているんだ。だから勇者ならレベル99じゃないと抜くことすらできない」
「へぇー。もうネイビスが何言ってもあまり驚かなくなってきたわ」
その時ネイビスはあることに気づく。
「そう言えばさ、ダンジョン都市以外のダンジョンってどうなってるか分かるか?例えばクラリスの外れにあるBランクダンジョンとか」
『ランダム勇者』にはダンジョンが幾つか存在する。そのほとんどがダンジョン都市イカルにあるが、イカル以外の場所にもダンジョンは存在していた。
「何言ってるのよ?ダンジョンはダンジョン都市にしかないわ」
「私もそうだと思うよ?」
二人の反応にネイビスはガッツポーズを作り喜んだ。
「よっしゃあああああー!二人とも!ダンジョン都市にあるダンジョンしかまだ発見されていないんだな?」
「ええそうよ……。なんだかダンジョン都市以外にもダンジョンがあるみたいな言い方ね。まさか、あるの?」
「そのまさかだ!いやー、人生は明るいなあ!」
急に立ち上がって大袈裟に両手を目いっぱい天に拡げるネイビスをイリスはジト目で見つめる。ビエラははしゃぐネイビスを見て優しく微笑んでいる。
「喜んでいるところ悪いんだけど、これからどうするか決まったの?」
しばらくしていい加減待つのも飽きたイリスがネイビスに尋ねる。
「ああ、決まったぞ!俺達はダンジョンロードを通って港町クラリスまで向かうぞ!」
ネイビスの言葉に聞きなれない単語があったイリスとビエラは首を傾げて、ビエラが質問する。
「ダンジョンロード?」
「ああ。ここダンジョン都市イカルから最後の港町クラリスまでの道にEからBランクのダンジョンがあるんだ。だからその道はダンジョンロードと呼ばれている」
「聞いたことないよ」
「そうだな。この世界だとどうやらまだ発見されていないらしい」
「また、前世の知識ってやつ?」
「そうだ。まぁ何が言いたいかって言うとだな、その四つのダンジョンは周回し放題ってわけだ」
ネイビスは心から歓喜していた。先程まで絶望の淵にいたからこそよりその喜びが引き立つのだ。ネイビスは弱音はもう二度と吐かないと決めた。
「最強の日は近いぞ」
ネイビスは自分に言い聞かせるようにイリスとビエラにそう告げるのだった。
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