Episode Ⅸ (2-3)

 アテナとミツキは地道に創部と部員の募集活動をしていた。

 ポスター掲示、チラシ配りをしてから数日後。

 水色の空を感じさせる明るい色。

 フサフサとしたボブを揺らして朝の日が照らす。

 席に近づいて来る女子生徒の足下が近づいてくる。

 繊細で無駄な脂肪の無い細い足が真っ直ぐとアテナに近づいて来る。

「ねぇ、アテナちゃん」

「あっトリンドルちゃん。どうしたの?」

 彼女は水泳部員のトリンドル・クリア・ウォータル。

 クラスメイトの彼女が話しかけてきた。

「私、アテナちゃんの部活に入りたい」

 アテナは一人、仲間を獲得した。

 一時間目が終わった。

 制服の上からでも分かる筋骨隆々の肉体を持つ男子生徒が窓側に近づいてくる。

「アテナさん……」

 後ろから声をかけられ振り返る。

 彼はバン・ヘルメス。

 クラスメイトであり、い組きってのスポーツマン。

「俺、アテナさんの部活に入りたいんだ」

 アテナは内心意外だった同級生が部活へ入部した。

 二時間目が終わった。

 短髪の男子生徒が立ち上がる。

 数歩歩いた先に創部を目指す同級生がいる。

 野球部の金城きんじょう さとるが来た。

「アテナさん。俺、部活入りたい」

 出会ったときから感じていた楽観的思考の男子生徒が入部する。

 三時間目が終わった。

 運動器具を片付け終わり、アテナは更衣室へ戻ってきた。

「おっと」

 制服の上半身を着る。

 長いピンクの髪を持ち上げる。

 腰を左右にゆらゆらさせ歩く。

 彼女はサーカ・キューバス。

 茶道部員のクラスメイト。

 目線の右には片付けから戻ってきたアテナが上下ともに制服へ着替えた後だった。

「アテナちゃん、私も部活を……」

 恥ずかしがりながら、告白したサーカが仲間に入った。

 四時間目が終わった。

 午前の授業が終わりほっとする。

 一瞬のゆとりも虚しく、アテナのセンサーは感知する。

 数人の生徒達が教室に入って来た。

 彼らは何も言わずに誰かに寄り道せずに歩いて来る。

 そして、アテナの目の前に着く。

「\\\\\\私達も部活に入らせてください! //////」

 色んな人達から一斉に告白された気持ちになる。

 アテナはしばらく放心状態になる。

 そんな様子を隣で見ていたミツキ。

 彼女には底知れぬ魅力があるのではないか。

 端から思われている事には知りもしない。

 落ち着いて申し込みのあった名簿を目に通す。入部申し込みが多い一日だった。

 そして、無事規定部員数を超える事ができた。

 ようやく申請までの道のりが出来た。

 アテナは創部までやる事が山住。

 午後の授業が終わり生徒達は各々部活や放課後の活動に向けて用意する。

 アテナも創部申請の書類の記入、創部会議の内容をまとめている。

 入部希望者にゅうぶきぼうしゃに教室へ集合するように知らせていた。

 教室には部長(仮)のアテナ。ミツキ、エレン。

 今日、入部申し込みのあった、クラスメイトのトリンドル、慧、バン、サーカ。

 他クラスから来た女子一人、男子二人。

 合計十人が集まった。

 椅子に座る生徒達を教壇から見る。

 初めて話す人が多い中、緊張を解そうと深く息を吸う。そして、長く息を吐く。

「今回は私が企画した部活に入部希望を示していただきましてありがとうございます」

 アテナは深々と礼する。

「今回は部活。私が作りたいと思う部活と活動についてのご意見をお聞きしたいと思っています」

「アテナ~。ちょっと、硬いよ!」

「アテナさん。もうちょっと肩の力を抜いてもいいんじゃない?」

 アテナは無意識に丁寧な挨拶をしていた。

 目の前にいるのは年齢的に先輩であるだけの同級生。

 その事実を認識する。アテナは我に帰る。

「あ〜。ごめんなさい。そっそれでは……これから部活創設に関する説明会を始めます」

 最初は部活に関する初めの説明。

「この具現化ぐげんかさせたいというのはアテナさんだけのプランなの?」

 エレンが質問した。

「いいえ。これは私の主観的しゅかんてきな世界を表すものではなく、皆さんの世界でもあります」

 話を続ける。

「なので、単に一つだけの世界を表現するものではなく。互いに苦手分野を補い合いながら、かさなる部分を共有するという考え方が芸術系の部活としてはいいのではないかと思います」

 女子Aが手を挙げた。

「表現方法は複数を組み合わせた方がいいの?」

 作品の製作方法について聞く。

「例えば、BGM、音楽と映像、イラストとか」

「勿論イラストだけでも構いません」

 アテナは続ける。

「個人的な考えではありますが、文化祭などでは一つテーマを決め、それに準じて各々一つでもいいので、作品を手掛けるというものを考えています」

 次の説明に入る。

「部活の名前についてですが、まだ決まっていません」

 しかし、用語ごとにアイディアがある。

「ヒントとなるような要素として、大まかに私達の部活はクリエイティブをメインに活動する事になるので、創造そうぞう創作そうさくというような意味を含めたものが良いです」

 その上で、アテナは皆に言う。

「他にアイディアを頂きたいので、しばらく調べる時間を要したいのですが、いいですか?」

 アテナ達は部活の名前を探す。

 辞書、百科事典ひゃっかじてんなどを読み漁った。

「では、会議を再開します。何か良いアイデアはありましたか?」

「はいはーい!」

 ミツキが手を挙げ大きな声を出した。

「辞書で MUSEって言葉を見つけたんだけど」

 言葉の意味は文芸・学術・音楽などを司る女神の名前と書かれている。

「なんか、名前的に英語ってかっこいいし。最先端そうだから、いいんじゃないんかなと思った」

 ミツキの提案したワードに皆納得している。

「いいと思う」

「僕も」

「いい、とても良いと思うよ。ミツキちゃん」

 意見を出し合い多数決で決める事になった。

「では、MUSEはどうですか?」

 大多数がMUSEに賛成し決まった。

 部活名、活動内容も決まった。

 残すは部活顧問を誰にするかという難問が残すのみだった。

「顧問についてですが」「誰か適任の先生って思い当たると言っても~」

 アテナ同様、他の生徒達も思い浮かぶ先生を考える。

 しかし、多くの部活同好会が存在する陰光大学教育学部付属陰光中学の教員達も幾つか掛け持ちをしている場合がある。

 そう簡単に引き受ける可能性も無きにしも非ず。

 選出に時間を有する事案だった。

「アテナちゃん」

 皆が頭を抱え、腕を組む中。トリンドルが口を開く。

「私、あの先生ならいいんじゃないかなって思うんだ。ちょっと、行ってみよう」

 言われるがまま、部員全員で彼女の後に付いていく。

 MUSEが着いたのは、図書館前。

 アテナは扉の向こうにいる教員に頼もうという考えを不覚にも疑う。

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