第86話 澪視点⑦



 むむむ、、、なんだか今日は調子が悪いです、、、


 あ、いえ、体の調子ではなくて、むしろ体はすこぶる元気なのですけど、何と言いますか、、、


 先程も、普段なら何気なく楽しめていたはずなのに、私の悪戯心のせいで和樹くんの心をを傷つけてしまいました


 彼に言った通り、私を想ってくれていると確認できたことは嬉しいです


 しかし、だからといって悲しませてしまったことは変わりません


 明日で帰るというのに、このままなんて嫌です 


 どうしたものでしょうか、、、




楓「今夜は花火をしなさい!」


澪「花火、ですか?」


七「お義父さんの蔵を漁ってたら見つけてね。 安全性は確認したし、線香花火だから事故の心配はないわよ。」


澪「でも、どうしていきなり花火を? それに私だけを呼び出したのはなにか理由があるのですか?」


 現在、和樹くんは入浴中です


 私も入浴の準備をしていたのですが、そんな時に皆さんに呼び止められました


源「帰ってきた二人の雰囲気がぎこちなくての、、、何かあったんじゃないかと思ってな。」


 ッ!


 バレて、いたのですね、、、


智「このままで帰省が終わってしまうのは私達としても心苦しいです。」


早「何があったかは訊かんけど、今のうちに仲を戻しときんさい。」


秀「僕達は家の中にいるから、二人で楽しむと良いよ。」


澪「、、、ありがとうございます!」


 嬉しいです、、、こんなにも大勢の人が私と彼のことを想ってくれていることを


 、、、よく見てみれば、七海さんとお母さんの額に汗が浮かんでいます


 蔵の中を漁っていたと仰っていましたが、おそらく私達に何かあったことを察した後、すぐに蔵の中を探してくれていたのでしょう


 なんて素晴らしい人たちに恵まれたのでしょうか、、、


 その期待に応えないといけません!


 さぁ、待ってて下さいよ、和樹くん!



和「、、、ハックション! 、、、風呂の中なのに珍しいな。 そろそろ出よう。」





 私も入浴を終えたので、いざ花火に誘おうと思います!


澪「和樹くん、ちょっといいですか?」


和「あぁ、早苗さんから聞いたよ、花火だっけ? 良いと思う。」


 早苗さん!?


 和樹くんに話していたのですか!


 彼が驚く顔を見てみたかったのに、、、


澪「え、えぇ。 では行きましょうか。」


和「うん。 あ、荷物は持つよ。」


 出だしはつまずきましたが、リードは出来ています、よね、、、



和「蝋燭に火をつけてっと、、、オッケー、準備できたよ。」


澪「ありがとうございます、、、」


 おかしいです


 私が完全にお世話をされています


 と言いますか、和樹くんが全てしてくれているんです


澪「、、、手慣れていますね。」


和「昔は来るたびにしてたから。 爺ちゃんにやり方とか教わって、割と小さい頃から一人で出来るようになってたね。」


 、、、やはり今日は調子が悪いです


 、、、ですが今は置いておいて、花火を楽しみましょう!


澪「それでは始めましょう。 せっかくなので、どちらが長く続くか勝負をしませんか?」


和「良いね。 じゃ、俺はこれを。」


澪「では私はこれを選ばせていただきますね。」


和「、、、準備は良い? それじゃあ、よ〜い、ドン!」


 二人一緒に火をつけます


 、、、火花が踊り、綺麗な花を咲かせました


 パチパチと可愛らしい音を立てながら、様々な形で咲いています


 暫く音だけが響く時間が立ちました


 私も彼も、静かに魅入っています


和「、、、あ、落ちちゃった。」


 ぽとりと和樹くんの線香花火が落ちます


澪「ふふ、私の勝ちですね。」


和「むぐぐ、、、もう一回!」


澪「良いですよ。 今度は違う種類の物を楽しみましょうか。」


和「どれが良いかな、、、」




 いつもの調子に戻ってきました


 このまま楽しい時間を過ごして、良い思い出となる帰省としましょう


 、、、と、直前まではそう思っていました


和「そろそろ、母さんの家に戻ろうかなと思ってるんだ。」


澪「え、、、」


 いえ、分かってはいました


 和樹くんが私の家に住む必要はもう無いと、分かっていたんです


 それでも、あの楽しい時間がずっと続いて欲しいと望んでいたんです


 二人で登校して、二人で過ごして、二人で帰宅して、二人でご飯を食べて、二人で寝るあの時間が、ずっと、、、


 どうして今になって?


 もう、私のことが好きじゃないのですか?


 私のこと、嫌いになったのですか?、、、


和「ずっと居たままなのも失礼だし、母さんに家一人なのも、ちょっとだけ心配で、、、」


澪「ッ!」


和「澪さんを好きじゃなくなったりなんかしてないよ。 でも、このままなのは、ダメだと思うんだ。」


澪「、、、」


和「澪さんは、どうしてほしい?」



 ズルいです、、、


 私は七海さんのことも好きなので、七海さんのことについて言及されると何も言えません、、、


 ですが、和樹くんは『私はどうしたいか』と尋ねました


 あくまで私に判断を委ねると言うのですか、、、


 本心を言えば、彼と一緒に住みたいです


 ですが、七瀬さんのことを考えると、、、



澪「私は、、、」


楓「その話、聞かせてもらったわ!」


澪「うヒャぁ!?」


 おおお驚いておかしな声が出てしまいました!


澪「い、いきなりなんですか!」


和「本当ですよ。 母さんもどうしたのさ。」


七「ごめんなさい、秀和さんがどうしても話を聞きたいって、、、」


澪・和「お父さん!」「秀和さん!」


秀「、、、だってしょうがないだろう! 娘とその彼氏の密談なんて興味しか無いじゃないか!」


澪「密談なんて変な言い方しないでください。 そしてあっちに行っててください。 話が進みません、邪魔です。」


 お父さんはしょんぼりした背中を見せながら戻っていきました


和「やっぱキッツ、、、」



 閑話休題です


澪「それで、お母さんたちは何が言いたいのですか?」


楓「七瀬さんの家にお世話になりなさい。」


澪・和「ッ!!」


 そうでした!


 和樹くんではなく私がお世話になれば良いのです!


澪「で、でも七瀬さんは?」


七「私は構わないわよ。 秀和さんも許可を出してたわ。」


和「なるほど、その手があったか、、、やったね、澪さん!」


澪「えぇ!」



 振り返ってみれば様々なことが起こりました


 ですが、結果的に彼とより仲を深めた状態で終えることが出来たと思います!




 これは余談ですが、これからも一緒に居られるよう祈りながら寝入った私の横で、今度は彼が私の寝顔を眺めていたことを、このときの私はまだ知りませんでした、、、










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