#17 世に凄む日日



 休憩室には、子連れの若いお母さんや高校生らしき人など、チラホラと人が居た。




 空いていたテーブルにリュックを降ろして、二人向かい合ってイスに腰掛けた。


「お疲れ様でした。 汗が引くまでここで休みましょう」


『ソウジくんもお疲れ様でした。 それにしても暑かったね』


「そうですね。 毎日学校まで歩いていても朝はここまで暑くないので、今日はいつもより疲れましたね」


『ごめんね? 私が図書館に行きたいって言ったせいで』


「大丈夫ですよ。 いつも閉じ籠ってばかりなので、たまには気分転換になって楽しいです」


『・・・私とでも楽しいの?』


「はい、いつもアミさんと居ると楽しいですよ?」


『そっか、良かった。 えへへ』




 30分ほど休憩すると、汗も止まり動けそうになったのだけど、そろそろお昼ご飯の時間ということで、私が持ってきたおにぎりを二人で先に食べることにした。



『いつも夜食に作るのは具無しだけど、今日のは梅干しとタクアンが入ってるの。梅干し苦手だったりする?』


「大丈夫です。梅干しもタクアンも好きです」


『良かった。 いっぱい作ってきたからいっぱい食べてね』


「ありがとうございます」


 二人で手を合わせて「頂きます」してから食べた。


 全部で8個作って来たけど、私は3つでお腹いっぱいになってしまい、残りはソウジくんが全部食べてくれた。



「ご馳走様でした。 いつもありがとうございます。 夜食とかクッキーも本当にありがたいです」


『お粗末様でした。 ソウジくんには勉強とか色々教えて貰ってるから、そのお礼だし、気にしないで』


「そうですか。でもありがとうございます」






 食事を終えて、お手洗いを済ませてから館内を移動した。



「どの階に行きましょうか。 童話や児童書は2階ですね。 現代文学や歴史小説なんかは3階、あとは・・・」


『3階でどうかな? 歴史小説を少し見たいかな』


「そうですか、では3階に上がりましょう」



 エスカレーターで3階に上がると、とても広いフロアに沢山の書架が並び、その数は中学の図書室とは大違いだった。


 ソウジくんは何度か来た事があるらしく、ソウジくんのお勧めを案内してもらった。


「この辺りの作家さんが、僕は好きです。昨日少し話した司馬遼太郎や、あとは吉川英治とか」


 棚から司馬遼太郎の文庫本を1冊手に取った。


『世に凄む日日。なんだか凄いタイトルだね』


「僕はその作品は好きで、何度も読み返しました」


『へぇ~』

 裏表紙の紹介文を読んだ。


『高杉晋作って、確か社会の授業で出てきたよね?』


「はい、幕末の長州藩の武士ですね。 倒幕運動や長州征伐で活躍した人で、奇兵隊を創設したり、当時の将軍に向かって直接ヤジ飛ばしたり、とても破天荒な人だったそうです」


『むむ、一気に難しい話になりました』


「ああ、すみません。好きな偉人の話だったのでついつい。 でもお話自体は難しくないと思います。英雄が活躍する物語と一緒ですよ」


『なるほど。 じゃぁコレにします』




 既に手に持っていた1巻と更に棚から2巻を抜いた。


 ソウジくんは「少し一人で選んでます。 すぐに行きますので、先に掛けてて下さい」というので、座れるところを探した。 二人でも充分座れる読書用のソファが空いていたので、足元にリュックを降ろして腰掛けた。



 読み始めると集中してしまい、ソウジくんがやってきて隣に座った事にも気が付かずに読み続けていた。








 1時間くらい経過した頃だろうか。

 まだ流石に1巻の終わりまでは行ってなかったけど、かなり集中して読み進められたと思う。


 ページに自前の栞を挟み、座ったままの状態で背伸びをした。



 ふとソウジくんの方を見ると、ソファの背もたれにもたれるように寝ていた。

 ダラリと持っていた本を落としそうになっていたので、ソウジくんの手からゆっくりと抜き取り横に置いた。


 昨日、私のせいで遅くまで夜更かししてたし、おまけに私を2階の部屋まで運んだり、今日はココまで1時間近く歩いたりと、随分無理させてしまった。



 最近、ソウジくんと仲良くなれて、調子に乗り過ぎちゃったかな。

 ソウジくんの寝顔、初めて見たな。

 寝顔も綺麗だ・・・


 数分だけソウジくんの寝顔をじっくり堪能して、再び読書を再開した。

 でも、ソウジくんが寝ていることを良いことに、座っている位置をソウジくんにぴったりくっ付くくらい近づいて座り直した。


 すぐ傍にソウジくんの気配を感じながらの読書は、なんだかポカポカと幸せな気持ちにさせてくれた。









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