5th Fight! VS暗黒皇龍! 魔国を揺るがすビックバトル!
女神に俺TUEEEE!したいって言ったらドラゴンになりました。ムカつくんで暴れます。
「貴方は死にました。一時間もすれば魂は消滅します」
ここは死後の世界。とある星で死んだとある魂を前に、死と再生をつかさどる女神は淡々とそう告げた。
「いや待ってくれよ!? こういう時は異世界転生させてくれるのが筋だろ! ああ、そうか。これはあれだな。ここで女神を押し倒していうことを聞かせる展開かよっしゃそれならほぶぁ!」
その魂は女神の裁定に不服があったのかそんなことを言い、そして襲い掛かろうとする。しかし女神が一瞥しただけで魂は垂直に叩き落された。
「神に勝てると思わないように。
貴方の人生を顧みて反省しなさい。碌に働きもせずに親の財産を食らい潰し、日々電子世界に罵詈雑言を重ねる毎日。生産的な活動などなに一つせず、他人に迷惑をかけるしかしていない」
「だって親ガチャに外れたのが原因なんだから仕方ないだろ! 俺だって生まれが良ければきちんと働いたしいい事だってした! お金がないのが悪い! 政治が悪い! 俺に優しくない世界が悪いんだ!」
魂はそう主張するが、この魂の親はその星でも安定した生活を営んでいた。碌に働かない子を養える程度には財産もあり、暴力を振るうこともない。むしろこの魂の方こそが親に暴力を振るう始末だ。
「なるほど。では貴方が望む環境で生まれ変わらせてあげましょう。それにより善行を積むことを期待しています」
「マジかやったぜ。やっぱりゴネ得! じゃあ世界はファンタジーで、親はうっとうしいからなし。俺TUEEEEしたいからステータスフルマックスでオナシャス!」
「了解しました」
女神は言って指先を光らせる。その瞬間魂は分解され、新たな世界へと生まれ変わった。
「ってドラゴンじゃねーか!? 普通人間だろ、こういう時は!」
そして黒い鱗を持つ巨大な龍として生まれ変わった魂。確かに世界の文明は彼の思うとおりであり、親もいない。身体的魔力的な能力は世界最高峰と言ってもいい。女神はきちんと仕事をしたのだ。
黒い鱗。尻尾。爪。牙。意識すれば口から漆黒の吐息を吐くことができ、また魔法と呼ばれる力を行使できる。二足歩行することができる巨大な爬虫類。イケメン転生とかでモテたかったのだが、それは女神に要望を出していないのであきらめるしかなかった。
龍はその魂に刻まれた名前であるイギュリを名乗り、ドラゴンとして世界を生きる。
「ヒャッハー! 金を出せぇ、女を出せぇ! 俺に逆らう奴は皆殺しだぁ!」
先ずは近くにある人の街を襲った。アリを踏み潰すかのように人をつぶし、人の営みを破壊していく。町のすべてを破壊した後で、
「あ、しまった。このサイズで金とか女とかどうするんだ?」
気分がすっきりした後でそんなことに気づく。その時、目の前に何かが映し出される。見慣れない存在だが、イギュリは前世の知識と魂でそれを理解していた。
「ああ、ステータスね。なんかレベルアップしたみたいだけど、どういう仕様なんだ、これ?」
イギュリはそれが自分の状態を説明する魔法的存在であることに気づく。そしてそれを一読した。
「『暴力龍:住処に蓄えた財宝の量に応じて、能力が増します』『暗黒龍:あなたを怯える存在の感情量に比例して、力が増します』……そうかそうか。経験値的なモンか。理解したぜ!」
ドラゴン。それは暴力の象徴。洞窟に財を蓄え、人々に恐怖を与える災厄。それを体現するかのようなシステム。奪えば奪うほど強くなり、恐れられるほどに強くなる。それが龍の強さであり、存在意義なのだ。
かくしてイギュリの簒奪は始まった。人が多く住む場所を襲撃し、暴力の限りを尽くす。一国を滅ぼすのに三日もかからない。強固な砦も、千年の歴史ある城壁も、精鋭の騎士団も、伝説の魔法使いも、聖剣を持つ勇者も、何もかも意味がない。上空から飛び降り、ドラゴンの力を振るう。思うままに暴れ、考える限りの破壊を尽くす。
「金だ! 女だ! 殺戮だ!」
そして金銀財宝や宝を奪い、美女をさらう。それ以外はすべてを壊す。奪った財産は自動的に自分の洞窟に送られる。よくわからないが『そういうチート能力だろ』とイギュリは納得する。
「このサイズだとフィギュア弄ってる感じだけど、まあそれはそれで楽しいしな。
ギャルゲキャラみたいに惚れさせるのもいいな。純愛系凌辱系どっちも楽しめるぜ」
さらった女はイギュリの意のままになる。人形のように時を止めることも、恐怖に怯えさえることも、魅了して自分の好きなようにすることも。
「ヤレないのはあれだけど……」
唯一の不満は、体躯の差によりさらった女性とまぐわうことができないことだった。大きさ100mのイギュリにとってみれば、2mにも満たない人間サイズの女性など親指にも満たない大きさだ。
だが種族が変わったことにより人間種族に対する性欲は控えめになったのか、あるいは破壊衝動が高まったのか。どちらにせよ、それはイギュリの中ではたいした問題ではなかった。
「次はあの国だな。魔王を名乗るとかバッカじゃねーの! 真の王はこの俺様だオラアァァァァ!」」
そしてイギュリは魔国に標的を定める。イギュリは魔王ガルドバに戦いを挑む。王城に向かって闇の力を込めたブレスを解き放った。
「つまらん」
ガルドバは王室の窓から迫るドラゴンを見て、手を払う。それだけでブレスは消え、イギュリは翼を折られ、爪をもがれ、ウロコをはがされ、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ! なんなんだよこいつは!? ヤベェヤベェヤベェ!」
それだけでイギュリの心は折れた。今まで負けどころか傷一つつけられたことのないドラゴンは、初めてのダメージにのたうち回る。戦おうなんて思いはしない。ありえないと目の前の事を否定するが、消えるはずもない。
「クソゲーじゃねえか、畜生! 俺TUEEEじゃなかったのかよ!?」
リセットボタンなんてない。ログアウトなんてできない。そもそもゲームですらない。起きたことは現実で、誰も助けてくれない。そんな当たり前のことに文句を言うイギュリ。
「まだ生きているか。さすがはドラゴン。あの女神もなかなかの仕事をするな」
自分の爪先程度の大きさしかない魔王。それに見下されるような表情を受ける。イギュリはその態度に――怯えた。つよい。いじめられる。さからったらなぐられる。魂に刻まれた何かが怯えを呼び起こす。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! もう二度と逆らいませんから許してください! あ、お金ありますよ。女もいいのがたくさんありますよ。欲しいものあったら何でも言ってくださいね。へっへっへ」
人間の体なら揉み手でもしそうなぐらいにへりくだるイギュリ。自分の力が通用しない相手だと判断するや否や、すぐに頭を下げる。努力や創意工夫などを駆使して戦うことなど、考えやしない。リベンジなんてもってのほかだ。
「性格まではどうしようもなかったか。まあいい、力あるならよしとしよう」
「……あの、魔王様?」
「貴様を我が国の四天王として迎えよう。我が領土で好きに生きるがいい。貴様に仕事をさせるような阿呆な真似は出来んしな」
冷徹にゴミを見るような目で見られながらも、その圧倒的な暴力により四天王入りするイギュリ。
その後、イギュリの暴力はなりを潜める。魔王におびえ、領土の隅の洞窟で震えるように生きていた。近隣の住人に生贄や税を要求し、逆らえば暴れると脅す程度だ。
「まあ、俺が本気を出せば魔王なんてすぐ勝てるんだけどな。今は生かしてやってるんだよ。俺って優しいからな!」
「俺以外の四天王なんかザコ! 戦うまでもないね! ゴーレム使いに吸血鬼にサソリ女? 名前からしてドラゴンに負けてるぜwwwwwwwwww」
「お前らを生かしてやるのは俺の慈悲だからな! 生贄とか捧げたり、崇めたりしろ! 何もしないで俺を楽しませろ! 俺はドラゴンだからな! そこんところ理解しろ!」
そうやってイキリ散らすイギュリ。魔王や四天王などと交流することもなく、自らの巣に引きこもっていた。生前の生活と変わらない。ネットで憂さを晴らすように、震えるように生きていた。
「【
「ピーチタイフーンだ!」
しかしその生活はピーチタイフーンが活動すると終了を迎える。ドラゴンに怯えていた者たちはレスラーと言う希望を知る。それに比例するようにイギュリの恐怖は薄れた。供物も滞るようになる。
「ああ!? おい、これってもしかして俺への貢ぎがなくなるんじゃないだろうな!? やめろよマジで!」
自らの破滅を敏感に感じ取ったイギュリ。そしてその相手が『前世』の知識にある者だと知り、笑みを浮かべた。
「レスラー? あんな見せもんで出来レースで八百長なのがかよ。アホかぁ! そんなの信じるとかクソボケなんだよ! そんなのよりも俺を崇めろ! 俺を認めろ! ボケボケボケェ!
ああ、ムカつく! ちょっとぶっコロしてくるわ!」
そしてイギュリはピーチタイフーンの元に向かう。破壊をバラまきながら。
「自分の生活が脅かされると思ったら飛び出すとはな。あのクズめ。力はともかく、性格は最悪だな。
まあよい。イギュリ程度に倒されるようなら
魔王ガルドバはイギュリの行動に冷笑を浮かべ、意識をピーチタイフーンのほうに向けた。世界そのものを知覚できる魔王の感覚が、レスラーに注目する。
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