校長を説得せよ!!

 あずさの兄、賢典けんすけもまたあの学年主任に頼まれたらしい。


「見返りに今までの遅刻を見逃してくれるっていうからな、話に乗ったんだ」

「おにい、アホすぎ」


 と、あずさがツッコむと「うっさいわ」と賢典はぶっきら棒に返す。おっかねぇな。



「あずさ、俺はお前に頼みがあるんだ!」

「……分かってるよ。大体は理解してるつもり。あの学年主任の三蓋菱さんがいびしが同棲するなって言ったんでしょ」


「なぜ知ってる」


「察しはつくよ。昨日の件があったくらいだからね」



「理解が早くて助かるよ、あずさ。だから、頼む」

「あずさちゃん、わたしからもお願い」



 あずさは考え込む、その隣でお兄さんが俺をにらむ。だから怖いって、その目つき。なんか圧を掛けられているなあ、俺。


 しかしそれよりも、あずさだ。




「分かった。あたしに任せてよ!」


「あずさ……! ありがとう!」

「あずさちゃん、ありがとうね!」



 俺もリアも歓喜した。

 これであの学年主任を黙らせられるはずだ……!



 向かおうとした、その時。



「神白、同棲は認めんと言っただろうがあああ!!」



 三蓋菱さんがいびしが現れ、俺の方へ襲い掛かってきた。ついに本人が阻止しに来たか……ちくしょう! これでおしまいか……そう絶望しかけたその時。




三蓋菱さんがいびし!! ここは通さねえッッ!!!」




 何故か賢典先輩が俺達を守るような体勢に入っていた。



「ど、どうして……!」

「さっき、あずさから全部聞いたんだよ。神白、お前は彼女とあずさを守れ。校長室へ向かうんだ!!」


「賢典先輩……」



「早く行け!! 俺ァ、あの学年主任を力づくで止めてやるッ!!! うおおおおおおおおお……!!!」



 駆けだしていく先輩。

 ずっと睨んできてヤベェやつかと思いきや、カッコ良すぎだろ!! さすが、あずさの兄ちゃんだよ。


 賢典先輩は、三蓋菱さんがいびしの体にしがみつき動きを全力で止めていた。あんなに必死に……!



「五乙女、貴様……なにをする!!」

「ここは通さねえと言ったああああああ!! 何してる!! 突っ立ってないで早く行け!!」



「ありがとう、先輩!!」



 俺達は校長室を目指した……!



 ◆



 死の物狂いで『校長室』に到着。

 あずさが先頭に立ってくれた。


 ……勝利を勝ち取ってみせる。



「大二郎……わたし」

「大丈夫だ、リア。きっと同棲生活は継続できる」



 中へ入っていくと、白髪の後頭部を向ける校長の姿があった。どうやら、空でもぼんやり眺めていたらしい。



「パパ、話をしに来たの」

「……あずさ。それに、友達かね」

「うん、前に話したでしょ。同学年の神白くんとリディアちゃん」


「……ああ、噂のルームシェアしているっていう。君たちがそうだったか」



 相変わらず落ち着いた口調だな、校長は。



「校長先生、まずは俺から話が……」

「いいでしょう。話して御覧なさい」



「俺は、リアとの生活を続けたいんです! ルームシェア……いえ、同棲を認めて下さい。お願いします」



「……認めるも何も校則違反ではないからね」


「で、では……」


「だが、学年主任の三蓋菱さんがいびし先生がおっしゃる事も間違いではない。また事件が発生するようであれば……黙認はできないでしょう」



 やっぱり……ダメなのか。

 唇を噛んでいると、あずさが手を挙げる。



「パパ、じゃあこうしましょう。あたしが神白くんのアパートの隣に住むわ。おにいも住まわせるし、あの人相の悪いおにいがいれば安心じゃない?」


「し、しかしだね……」



 さすが、あずさの存在はでかいな。この校長パパ、あずさにはとことん甘いらしいからな。じゃなきゃあ、普通はあんな金髪とかピアスを許さないだろう。


 ――にしても、あずさと賢典先輩が俺たちのアパートに住む? なるほどな、それはそれで面白いし、ボディーガードが増えてくれれば不安も減る。



 だが、もう一息欲しい感じか。


 もうひとつ何かあれば……


 そう思った時だった。



『その話ちょっと待って下さい……!』



 校長室に入ってくる人物が……!

 まさか!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る