学年主任に呼び出された件

 台風は過ぎ去り、雲一つない青空が広がっていた。幸い、弁天島に被害はほとんどなく、日常が戻っていた。


 弁天島駅から舞阪駅へ。

 電車を降りて駅を出れば、きっと、バイクに乗るあずさがいるだろなと予想すれば……ほら、いた。



「おはよ、あずさ」

「おはよ~、あずさちゃん」



「ちぃーっす! 二人とも無事だよね!? 刺されてないよね!?」



 駆け寄って来るあずさは、リアの体にペタペタ触れて確認していた。今更確認してもな? というか、余計な所まで触れてないか……!



「ちょ、あずさちゃん……そ、そこはダメっ! ダメだってばぁ……」

「いいではないか、いいではないか!!」



「朝っぱらから何やってんだ。だめだろーが、あずさ」



 俺は、あずさの頭上ヘルメットに軽くチョップ。



「だって、リアちゃんに傷でもあったら大変じゃん。すっごく心配したんだから」

「心配してくれる気持ちは嬉しいよ。だが、リアのデリケートゾーンに触れるんじゃない」


「おっぱいくらい普通だよ」

「あえて遠回しに言ったのに!」



 ちなみに、リアはあずさから一歩……いや、十歩は引いていた。



「まあ無事ならいいや。じゃ、あたしは先に行くね~」



 バイクのエンジンを掛け、走り出すあずさ。やれやれ、朝から元気だな、あずさは。



「大丈夫か、リア」

「……はぁ、はぁ。だ、大丈夫」



 息を乱しているじゃないか。

 案外、敏感なのかな。



 ◆



 秋桜学園に到着早々、学年主任の三蓋菱さんがいびしが現れ、俺とリアはそのまま生徒指導室――ではなく、職員室に呼び出された。


 パーティションで区切られている小部屋に入ると「さあ、そこへ座りなさい」と言われたので、ふかふかのソファに腰掛ける。


「……」


 主任と対面するも、沈黙が流れる。



「先生、あの……」

「うむ。昨日の件だがね」

「ああ、棚橋ですか」

「そうだ。警察から学校に連絡があってな。神白、お前はリディアと同棲しているようだな」


 まあ、バレるよな。

 あんな事件があったのなら尚更だ。



「ええ。事実ですが、同棲ではなくルームシェアです」



 俺ではなく、リアが答えた。きっぱりと。その答え方はいいぞ、ナイス!



「今回の事件、棚橋が全面的に悪いとはいえ……キカッケは、君達の恋仲が原因。一回目も二回目も二人の密接な関係が棚橋の感情を煽った結果だ。しかも同棲まで発覚とは……学生の身分でこれは如何いかがなものかと感じた」



 この主任、あくまで『同棲』という前提で話を進めてやがる。……いや、間違っていないさ。でも、このままではピンチ。俺とリアの甘々な生活が終わってしまうだろう。そうはせない! なんとか切り抜けてやる!



「つまり先生は、俺とリアのルームシェアを止めろと言いたいんですか」


「そうだ。今後もこのようなトラブルがないとも限らない。先生は、生徒の身を第一に考えなければならない立場だからな、分かってくれ」



 確かに、ないとは言い切れない。


 けど……。

 けれど、それでも俺は……リアと一緒にいたいんだ。そんな気持ちを強く訴えようと思ったのだが、リアが先に口を開く。



「先生、別にルームシェアは校則で禁止されていませんよね」

「……そのような校則はないな」

「ですよね。それに、保護者の同意もあります。大二郎……神白くんの親も、わたしの親も認めて下さっていますよ」


「……ふむ」


 おぉ、見事な反論だ。

 俺もリアに続く。


「リアの言う通りです。健全な生活を送っていますし、親も定期的に監視に来ますし、この一週間は生活に問題は何もありませんでした。俺は、親からリアの面倒を見るよう頼まれて、日本に不慣れな彼女を助けるつもりでルームシェアしていただけなです」


「そうか。事情は分かった……」

「じゃあ、いいんですよね……」


「だめだ」

「ど、どうして!?」


「君たちは未成年だ。学生なんだよ。お金だって親に出して貰っているんだろう? それではダメだ」


「家賃は自分で払っていますよ。俺はプログラムのアルバイトをしているんです。収入は安定していますよ。確認しますか?」


「そ、そうなのか。それはちゃんと学校に言ってあるんだろうな」

「ずっと前から申請済みです。担任の梅中が知ってますよ」



「くっ……もういい、同棲は禁止と言ったら禁止だ。一週間以内に止めるんだ。いいな!!」



 嘘だろ……!

 俺とリアの同棲をそこまでして止めさせたいのか、この主任は。ありえない……絶対にありえない。今更、リアと離れ離れになってたまるか!!



 だが、どうすりゃいい……?

 何か方法は……ないのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る