ロシアっ子とお風呂①

 階段を踏み外し、転んでしまったリアは足をくじいていた。自力で起き上がろうとしても激痛が走ったのか顔をしかめていた。


「痛……」

「見事にコケていたな、無理するなって。足は少し紫色に変色しているし、捻挫ねんざはしているっぽいな」

「うぅ……」


 こんな足を痛めた状態では二階へ上がるのも困難だろう。俺はリアに二つの選択肢を委ねた。


「リア、俺に“おんぶ”されるか“お姫様抱っこ”されるか……どっちがいい?」

「へ……」


 そんな問いかけに痛みが吹っ飛んだのか、頬を赤く染めるリアは、とにかく動揺しまくっていた。……仕方ないだろう、そうしないと二階へ行けないし。


「この二つしか方法がないだろ?」

「……うん。でも、それ選ぶの難しい!」

「好きな方を選べ」

「選べないよ。どっちもいいもん(泣)」


 選べないんかい!

 しかも、なぜ涙目。相当に悩んでいるようだが……致し方ない、これは俺が選ぶしかないか。――となると、お姫様抱っこは近所に見られた場合、あらぬ誤解を受ける可能性がある。とはいえ“おんぶ”も大差ない気がするが、無難にいこう。


「じゃあ、背中に乗ってくれ」

「……が、がんばる」


 リアは、のそのそと俺の背中に乗って来る。やがて、途轍とてつもなく大きな感触が背中に――って、これはイカン! リアは、爆乳とまではいかないが巨乳だ。そりゃあ、当然当たるよな、俺の背中に。


「…………」

「大二郎?」

「いや……」

「わたし、重かった?」

むしろ、柔らか――ちが! 軽いよ、うん、軽い」

「もー、大二郎。そんなにわたしの胸が気になるの? いいよ、はいっ♡」


 ぎゅぅ~~~っと抱きついてくるリア。マシュマロを遥に凌駕りょうがする柔らかいモノが俺の背を包む。


 僥倖ぎょうこうッ……なんという僥倖ぎょうこうかッ!


 そんな至福は、思ったよりも長く続いた。リアをおんぶしたまま玄関を開け、部屋の中へ。



「リア、無事に着いたぞ。まずは、お前の部屋まで行くか?」

「そうだね、制服のままだから着替えたし……あ! どうしよう……」



 何か異変に気付いたらしく、声を荒げるリア。


「な、なんだ?」

「このままだと着替えられない……お風呂も行けない。大二郎、本当に悪いんだけど、着替え取ってきて。あとお風呂まで移動お願い」


「…………マジ?」


「だって、動けないから……」


 そんなションボリされると心が痛い。そうだな、リアは無類の綺麗好き、お風呂好き。たまに、シズカちゃんかよって思う程にお風呂に入っているからな。だから、いつも良い匂いがしているんだろうなあ。


 ……それは置いておき。


「こうなったら、最後まで面倒を見てやる。こういう時は好きなだけ甘えろ!」

「大二郎……うん」


 リアは、微かにむせび、目尻に涙を溜めていた。そう頼りにされてはやる気もアップするってモンだ。頑張ろう。


 俺は、さっそくリアを風呂場まで移動させ、座らせた。


「じゃあ、リアの着替え持ってくる」

「ルームケースに入ってるから」



 場所を聞き、さっそくリアの部屋へ突撃。戸を開けてそのままケースの前へ。引き出しタイプなので手前に引くと、その瞬間――

 ド派手な色の下着が綺麗に並べられて……って、リアのヤツこんな派手なのをつけているのかよ! こんなモン、俺が握り締めたらただのヘンタイじゃん!!!


 でも仕方ない。

 持っていかない事には始まらないし。


 リアにはOK貰っているし、何も問題はない……はずだ。



「……これは勇気がいるなぁ……」



 ごくっと息をみ、俺は――

 俺好みの色を選び……掴んだ。

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