秘密を聞こう②

「ということなんです」

「なるほど」


 俺は一通りの話をミーリアから聞いた。

 話自体はそれほど難しくない。


 この国が隣国と戦争をしていて、戦争で道具を使われるのを嫌がる錬金術師が多いからそのことは俺に伝わらないようにしていたそうだ。

 実際、この国や隣国は戦争を続けているせいで錬金術師が少ないのだとか。

 そのおかげもあって、キーリの作った素材はかなりの高値で買い取られているらしい。


 国を出て行った錬金術師の気持ちはわからなくもない。

 俺も、俺の作ったものが戦争で人を殺すとなればいい気はしない。


 俺は錬金術師じゃないから戦争で使えるようなものを作ることはない。

 だけど、俺の修行法を軍人に教えろといわれれば逃亡を選ぶかもしれない。


 だが、修行法はばれないようにすればいいし、攻撃的なものは作れないことにしておけば問題ないだろう。

 ミーリアもそんな風に動いてくれているようだし。


 今後はミーリアに協力していくことにしよう。


 今問題なのは……。


「『魔傷』か。難しいな」

「はい」


 今年の戦争で、隣国が魔物を使って襲撃を行ったそうだ。

 戦争だしそういうこともあるだろう。

 問題なのは、それによってこの国の領地が襲撃され、その襲撃でミーリアの友人のマーレンという女性が大けがを負ったことだ。


 なんとか一命はとりとめたらしいが、隣国で出る魔物はグレイバイパーとかいう『魔傷』を負わせる魔物だったため、今も生死のはざまをさまよっているらしい。


 そういえば、この近くで蛇型の魔物が出るって前にミーリアが言っていたっけ?


 爬虫類系の魔物は呪いや状態異常を与えてくるから厄介だと対魔貴族の先祖が書き残した手記に書かれていた。

 隣国の魔物はそういった類の魔物だったようだ。


「私なら治せますがそうすれば……」


 今のミーリアであればそのマーレンという友人の受けた魔傷程度であれば簡単に治せるだろう。

 だが、そうすればこの村の今の状況が知られることになる。


 そうなってしまえば、魔術の使えるリノやスイは戦争に駆り出されてしまうかもしれない。


「ミーリアはどうしたいんだ」

「私は、できればマーレンを助けたい。でも、今はマーレンよりこの村のみんなの方が大切です。だから……」


 マーレンを見捨てる。

 ミーリアの中ではもう結論が出ているらしい。


 苦渋の選択なんだろう。

 結論が出ていたとしても、つらいものはつらい。


「何とか、ばれないように助けに行くことはできないかな?」

「無理ですよ。マーレンは今、軍の陣地の中にいるんです。ばれないように近づくなんて出来っこありません」


 魔物に見つからないようにする魔術はたくさん知っている。

 だが、人間に見つからないようにする魔術を俺は知らない。


 古代魔術師文明時代、そういった類の魔術は利用が制限されていたらしい。

 そのため、俺が持っているような当時は簡単に手に入った本にはそのたぐいの魔術は掲載されていなかった。


 古代魔術師文明では現代の日本のような状況だったのだ。

 そういう状況で人から隠れるような魔術なんて犯罪以外で使えない。

 犯罪で使うような魔術は利用が制限されていて当然だろう。

 そのため、俺が持っている魔術の本なんかにはそういうたぐいの魔術は載っていないのだ。


 軍や警察のような治安維持部隊なら知っていたかもしれないが、俺が持っているのはそれこそ、現代日本の本屋に並んでいるような一般書籍ばかりだからな。


 その割には解錠の魔術とかが普通に本に載っていたんだが。

 少し謎だ。


 まあ、今はその辺はどうでもいいか。


「このことはみんなには」

「言いません。言えませんよ。気を使わせるだけですから」


 ミーリアは弱々しく笑う。


「ホントはレインにも話すつもりはありませんでした。でも、話しておいてよかったかもしれません。何かの拍子にこの村のことがばれてみんなで逃げる必要が出てきたときはレインの力を借りる必要がありますから」

「そうだな。国から逃亡しようと思うと魔の森を抜けたいからな。みんなを連れて魔の森を抜けるにはさすがに結構準備がいる」


 ふつうに逃げたのであれば、足取りを追われることになる。

 でも、魔の森を突っ切れば痕跡を辿られることなく他国にいくことができる。


 そうすれば指名手配されようが何しようが平気だ。


「……でも、俺は話したほうがいいと思うけどな。俺なら、何かの理由で偶然知ることになるより、ミーリアの口から直接教えてほしい」

「……」


 変化がないのであれば隠し通せるかもしれないが、外の状況はどんどん変わっていく。

 俺たちのことが外にばれるかもしれないし、国が無くなるかもしれないし、アリアの叔母である辺境伯様に何かあるかもしれない。

 そうなったときに、外の人から聞かされるより、ミーリアの口から直接聞きたい。


「ミーリアの気持ちもわかるから、ミーリアのしたいようにするといい。でも、聞くときはミーリアの口から伝えたほうがいいと思う」

「……」


 ミーリアは顔を伏せる。


「さて、お腹も落ち着いたし、俺は中に戻るよ。お茶ありがとう」

「……私は、もう少しここで……」

「わかった」


 俺はミーリアを残して家の中に戻った。


***


 俺が戻ってもまだゲームは続いていた。

 どうやら、トランプを使ってページワンのようなゲームをしていたらしい。


 ババ抜きみたいなゲームであれば決着はつくのだが、これはうまくやらないと一生終わらないからな。


 ……しばらくして、ミーリアが戻ってきた時もゲームは続いていた。

 みんな、ほんとに負けず嫌いだな。


「皆さん。少し話したいことがあります」


 ミーリアは戻ってきて、俺たちのことをじっと見つめてきた。

 その瞳は何かを決心したように強い光を宿していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る