秘密で準備しよう⑥

「これは?」


 いきなりのことに、ミーリアは食堂の入り口で呆然と立ち尽くす。

 食堂は飾り付けられ、いつも食事をとっているテーブルの上には所狭しと料理が並べられている。


「みんなでミーリアの誕生日パーティの準備をしたの!」


 呆然としているミーリアにアリアが声をかけてくる。


 よく見ると、『ミーリア! 誕生日おめでとう!』という横断幕がかかっている。

 テーブルに並べられているのは誕生日パーティでよく見る料理だ。


 そこで、ミーリアは今日が自分の誕生日であることを思い出した。


「こっちこっち!」

「今日の主賓はここに座って!」


 ミーリアが呆然としていると、リノとキーリに手を取られて席に案内される。

 横断幕の下にひときわ豪華な椅子が用意されており、ミーリアはそこに座らされた。

 この椅子も今まで見たことがないものだ。


「ケーキもちゃんと作ったんだ! 俺たちが魔の森に行ってアップリの実をとってきて作ったから美味しいぞ!」

「ミーリア、アップリ、好きだったでしょ?」


 そう言われて机の上を見ると、机の上にはアップリのケーキが並んでいた。


 ケーキはミーリアの年齢と同じ十七個ある。

 おそらく、貴族の誕生日を真似てくれたのだろう。


 すべてのケーキの上に『ミーリア! 誕生日おめでとう』という文字の書かれたプレートが飾られている。


「……どう……して?」

「ミーリア、最近元気なかったじゃない? それ、誕生日が近かったからでしょ?」

「貴族の時の誕生日を思い出しちゃうなら、俺たちでそれを吹き飛ばすくらいのパーティをしようってなったんだ!」

「……」


 どうやら、アリアたちはミーリアがボーッとしている理由を誕生日パーティができないからだと勘違いしていたらしい。


 そういえば、去年の今頃はそのことで落ち込んでいたように思う。


 春になってすぐは新しい生活が始まったせいで忙しく、貴族で無くなったということを頭では理解していたけど深くは考えていなかった。

 春の仕事が落ち着きだしたころ、そういえば、一年前のこのくらいの時期は誕生日パーティで友人たちと楽しく過ごしたなと思いだして無性にさみしくなったのだ。


 そのことをリノにうっかりこぼしてしまった気もする。


 それが、まさかこんなことになるなんて……。


「俺たちじゃあ、ミーリアを貴族に戻してやることはできないけど、それを忘れるくらい楽しい思い出を作ることならできるかなって」

「……」


 くらいというが、これだけの準備をするのは相当大変だったはずだ。

 アップリの実は場所が遠すぎて簡単には取りに行くことができないはずだ。

 それに、ケーキを作るのだって簡単じゃない。


 私たちはケーキの作り方も知らないのだから。


 そのケーキは多分、パンを工夫して作ったのだと思うが、少し不格好だけどケーキに見えるように盛り付けや形なんかが工夫されている。


 全部、みんながミーリアのためにやってくれたことだ。


(私、迷惑ばかりかけていたのに……)


 心の底から暖かい何かがあふれてくる。


「ごめん、ミーリア! 迷惑だったか?」

「ミーリア、泣かないで」


 リノとスイが抱きついてくる。

 頬を伝った暖かいものが手の甲に落ちる。


 どうやら、私は涙を流してしまっていたらしい。


「……嬉しいです。……とても」


 これはうれし泣きだ。

 ミーリアはそれを示すように不器用に笑う。


 みんなはそれを見て少し安心したようだ。


「じゃ、さっそくパーティを始めましょう! 料理が冷めちゃうわ」

「食べる食べる!」

「ケーキ。楽しみ」

「試食もあんまりできてないしな!」


 スイとリノはそういってそれぞれ席につく。

 レインとキーリ、アリアも席につき、ミーリアの方を笑顔で見つめる。

 開催のあいさつは誕生日を迎えた人がするものだ。


(この光景を、絶対に壊したくない)


 やっぱり、今のミーリアにとって一番大切なのはこの村のみんなだ。

 ミーリアはそう再確認しながらチクチクと痛む心にふたをした。

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