魔物を倒そう③

「ブラックウルフにはいつ挑戦するの?」

「うーん。来週くらいかな」


 恐らくみんなの総魔力量はもう三十五は超えているだろう。

 ブラックウルフは総魔力量が四十くらいのはずだ。

 その差は五あるけど、もう挑戦してもいいと思う。


 こちらは複数で向こうは一体なんだから。


 実際、今まで何度かブラックウルフに接触している。

 俺は手を出していないけど、余裕を持って逃げ切れている。


 スピードでこっちが勝っているわけではないが、向こうは戦闘態勢を保ちながら追ってきているので全力は出せていない。

 途中で魔法をかけてきたりもしているしな。


 向こうはこっちに脅威を感じているのに、こっちを追ってくるとか、おかしなものだよな。

 動物って普通脅威を感じると逃げると思うんだけど。

 魔の森の影響とかもあるんだろうか?


 何にせよ、余裕を持って逃げ切れるようになれば戦闘になっても勝てるだろう。


 とはいえ、まだ少しだけ不安なところはある。

 魔法に対するレジストも完璧じゃないし、アリアが攻撃を受けられるかとかも試したわけじゃない。

 スイの攻撃が効かないかもしれないし、ミーリアやキーリの支援を無効にするような能力があるかもしれない。


 実際、ブラックウルフは状態異常でリノの動きを止めてしまった。

 リノ一人だったら危なかっただろう。

 同じようなことが他にないという保証はない。


 とはいえ、戦闘になれば勝算は悪く見積もっても八割以上あるだろう。


 何にせよ、負けることはない。

 勝てなさそうならなら逃げればいいしな。

 逃げられることは確認済みなんだし。


 でも、せっかく挑戦するなら初回から勝てるようにした方がいい。

 命は一つしかないんだ。

 楽勝できるくらいがちょうどいいだろう。


「レインがそう言うならそうした方がいいのよね」

「? なんだ? もう戦いたいのか?」

「だってもう勝てそうじゃない? ダメなら逃げればいいんだし」


 アリアたちはもうブラックウルフに余裕で勝てるつもりらしい。

 他の四人もいつ戦えるのか期待するような目で俺の方も見ている。

 総合力ならもう負けないだろうから、彼女たちもそれを感じ取ってるのかもしれない。

 

 そうか。

 そういえば、ずっと余裕の戦いしかしてなかったな。


 彼女たちは敗北を知らない。

 別に過保護にしていたつもりはなかったが、そういう戦闘しかさせてこなかった。


 俺と彼女たちの実力が離れすぎているから、必要以上に余裕を見て修行していたのだ。

 弟子が五人もいて気を使わないといけなかったというのもあるし、感覚だけでいくと、かなり厳しい修行になってしまいそうだったからだ。


 リノとスイあたりは結構自由に動いちゃうしな。


 いや、それも俺が余裕をもたせすぎてるせいか。

 あの二人も第六感が強いから本当に危ないことはしない。


 それに、五人とも命の危機っていうのは経験している。

 無理はしないだろう。


 必要なのは駆け引きとかその辺りか。

 ギリギリな状況の判断は慣れていないと難しい。


「なるほど。明日はちょっと変わったことをしてみようか」

「変わったことを?」

「それは明日になってのお楽しみだよ」


 俺がそう言うと、アリアたちは少し不安そうな顔をする。


 何が起こるかわからないと不安だろう。

 でも、対策されたら効果を最大限に発揮できないし、諦めてもらうしかない。


 このまま、危険を知らずに強くなっていくのはちょっとまずいかもしれない。

 本当に危険な状況で判断を間違えられても困る。


 危険な状況に陥るなら早い方がいい。

 俺と魔物の魔力量が近くなればそれだけ助けに入るのも難しくなる。

 今の魔物のレベルであれば少々危険な状況に陥ったとしても助けることはできる。

 ブラックウルフやグレイウルフならどんなにうちどころが悪くてもアリアたちが即死することはないだろう。

 ちょっと先まで行っても大して変わらないとは思うけど、思い立ったが吉日という言葉もあるし、挑戦してもいいだろう。


「命の危険はほとんどないよ。怪我くらいはするかもしれないけど」


 俺がそういうと、アリアたちはさらに不安そうな顔をする。

 それでも、みんなが否定しないということはそれだけ信頼されているのだろう。

 そう思うと少しだけ嬉しい。


 その信頼を裏切らないように準備はちゃんとしておこう。


 俺は明日に向けての準備を始めた。

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