特産品を作ろう!パートⅡ⑧
「こんにちは。ジーゲさん」
「こんにちは。ミーリアさん。二ヶ月ぶりになりますかね」
ジーゲさんは大きな荷物を持って村にやってきた。
明らかに多いが何かあったのだろうか?
その辺りも聞いてみる必要がありそうだ。
ストレートに聞いても教えてくれるかはわからないが。
どうやら、ジーゲさんも私たちに隠していることがあるらしい。
その内容はわからないが、おそらく辺境伯様の指示なんだろう。
そうであれば突かない方がいい。
それに、向こうも隠し事があるおかげで私以外の村人に接触しないようにしてくれるのはこちらとしても嬉しい。
「しかし、凄いですね。もう開墾が終わっているとは。これまでに通ってきた村ではまだ始めたばかりでしたよ」
「いえ。魔道具があったおかげです」
ジーゲさんはまず村のことを褒めてきた。
向こうとしては特に深い意味はないのだろうが、あの畑にはいろいろ秘密にしておきたいことが含まれている。
だからあんまり聞いて欲しくはない。
だが、この受け答えは想定の内だ。
だから、回答もちゃんと用意していた。
魔道具の木のクワのお陰で開墾が素早く終わったのは嘘ではない。
ただ作ったのがレインではなくてキーリだというだけで。
「魔道具の農具ですか。辺境伯様にできれば譲ってもらえないか聞いてきて欲しいと言われたのですが、どうでしょうか」
「……材料を手に入れるのが大変なので、来年必要分以上に作れればお譲りできるかもしれません」
木のクワは来年も作るかわからない。
もし魔の森でもっといい素材が手に入ればそれで作ることになっている。
魔の森の探索をしていることは多分バレているが、こちらから教えるつもりはない。
「そうですか。では、作成しましたらお声をおかけください。買い付けの準備だけはしておきます」
「よろしくお願いします」
どうやら、木のクワも魅力的な商品になるようだ。
あれだけの広さの土地を素早く耕せたのだし、当然か。
レインの話では魔力の少ない場所ほど魔道具のクワの恩恵を受けることができるらしいので、少し残しておいて売却したほうが良かったかな?
いや、ただでさえ足りるか微妙だった。
来年も同じだけ作るかさえわからない現状ではそれはないか。
「そういえば、あの堀や塀も魔道具で作ったのですか? おそらくこの村を囲っているものと同じものですよね」
「あれは魔術を使って作りました」
この村の堀と塀が魔術で作られたものだというのは以前辺境伯様に伝えたことだ。
それとずれを発生させるわけにはいかない。
実際に魔術で作ったのだし、問題ないだろう。
おそらくジーゲさんが見た部分はキーリが作ったものだが嘘は言っていない。
レインは魔の森から遠い部分をキーリに任せたから街よりの方はキーリが作ったのだ。
少し作りが荒かったように見えたがジーゲさんは気にならなかったようだ。
「そうですか。話は変わるのですが、今回は実は一つ辺境伯様から依頼を承っているんです」
「なんでしょう?」
どうやら、ここからが本番らしい。
何か荷物が多かったのはその依頼のせいだったようだ。
しかし、少し変ではある。
素材は魔の森の近くでほとんどのものを取ることができるはずだが、いったい何を持ってきたのだろうか?
「ポーションを作っていただきたいのです」
「……ポーション。……ですか?」
予想外の依頼に一瞬頭の処理が追い付かなかった。
たしかに、レインのレシピでキーリが作るポーションの効き目はありえないくらいに高い。
だが、今までジーゲさんにポーションを売却した記憶はない。
そんな状況でジーゲさんはどうしてポーションの依頼をしに来たのだろうか?
「どうも、錬金術師様が兵士に渡したポーションの効き目がとても良かったらしく、新しい傷どころか古傷や持病も治ってしまったそうで」
「……そうなんですか」
そういえば、レインが去り際に兵士さんにポーションを一本渡したと言っていた。
あのポーションはまずくて飲めたものじゃないからと言ってレインが捨てていた記憶がある。
小瓶どころか大瓶に入ったものを何本も。
「それならばと辺境伯様が依頼したいと……。小瓶一本で1万ルタでとりあえず百本作成いただけないでしょうか?」
私は思わずいくら分のポーションを捨ててしまったのか計算しようとした。
だけど、そんなの無駄だし、むなしくなるだけだ。
今は未来のことを考える必要がある。
「ですが、ポーション瓶が今ないのです」
「それなら大丈夫です。必要分は持ってきました。ラケルさん運んでください」
「わかった」
ラケルさんは仲間と一緒に部屋から出ていく。
どうやら、あの大量の荷物はポーション瓶だったらしい。
量が多く見えたのは割れないように注意していたからだろう。
空のポーション瓶でもかなりの値段がするはずだ。
「とりあえず百本お願いしたいです」
「百本ですか?」
いくら効き目が高いからと言って百本は多い気がする。
ポーションはそんなに頻繁に使うものでもない。
それに、効き目のいいポーションはすぐにダメになってしまうのだ。
レイン曰く、ポーションは魔力の塊だから放っておくと空気中に発散してしまうらしい。
「念のため。という程度です。実は今年の隣国との小競り合いは少し荒れそうなんです」
「そうなんですか?」
私がポーションの大量発注を不審に思っていることが伝わったのか、ジーゲさんが理由を説明してくれる。
隣国との小競り合いはいつものことだ。
毎年だらだらと続けているせいで、最初は何の原因で小競り合いを始めたのかさえ分からなくなってしまっている。
それなのに、いつも以上にポーションを必要とするということは、小競り合いの裏で動いている存在がいるということだろう。
「どうも、第二王子派が何か暗躍しているらしく……」
「第二王子が……」
第二王子は昔から好戦的な人だった。
最近は輪をかけて好戦的になり、私が王都を離れた時には王になれば必ず戦争をすると公言していたほどだった。
たしか辺境伯様は第二王子派と敵対している第三王子派に所属していたはずだ。
なるほど。
それで大量のポーションが必要なのか。
好戦的な第二王子派が小競り合いでやることなんて危ないことに決まっている。
「わかりました。できるだけ早く準備はしますが、可能であればポーション瓶をいくらか譲っていただけないでしょうか?」
「問題ありません。念のために百五十本の空のポーション瓶を持ってきていますから」
「ありがとうございます」
話をしている間にもどんどんとポーション瓶が運び込まれてくる。
たしかに、ぴったしだと瓶を割ってしまったりしたときに困る。
辺境伯様が権力を失うと私たちも困る。
キーリには悪いが、急ぎポーションを作ってもらう必要がありそうだ。
私はラケルさんがポーション瓶を運び込む様子を見つめていた。
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