魔道具を作ろう⑧

「じゃあ、お願い」

「わかった。かけるぞ……」


 レインが私に支援魔術をかけて行く。


「っ!……」


 私の体に熱いものが入って来る。

 強い力の奔流に、一瞬意識が飛びそうになる。


 私は唇を噛んで意識を保つ。


「大丈夫か!?」

「え、えぇ。だ、い……じょ……ぶ」


 最初の方はここで意識が飛んでしまっていた。

 強すぎる力に耐えられなかったのだ。


 だんだんと耐えられるようになってきて、三度目くらいには何とか意識を保つことができるようになった。

 私が慣れたと言うのもあるし、レインが力を制御してくれていると言うのもあると思う。

 回数を重ねるごとに魔力は優しくなってきている気がするから。


 レインだって頑張ってくれているのだ。

 ここでやめるわけには行かない。


 リノを、ミーリアを守れるくらいの強いものを作らないといけないんだから。


「……お、落ちつい、たわ」

「そうか」


 レインは安心したように息を吐く。

 最初に入って来る感覚を通り過ぎれば、後は比較的楽だ。


 体がふわふわしていて、手足がうまく動かない。

 この状態で意識を失うこともあるので、気を抜くことはできない。


 それに、だんだんこの状態にも慣れてきたと言うのは本当だ。

 最初は熱いだけだったレインからの魔力の奔流も、今では包み込むような優しさを感じられる。

 これはレインが何かしてくれているのかもしれない。


 それでも頭がぼーっとしてくる。

 お酒を飲むとぼーっとなると話を聞いたことがあるが、こんな感じなのだろうか。


 今の状態だと歩いたりはできないかもしれない。

 でも、何度もこなしてきた錬成であれば、こんな状態でもやれる。


 私もこれまでいくつものアイテムを作ってきたのだ。

 木のクワや知力を上げるブレスレットであれば目を瞑っても作れる。

 今回の錬成はそれらに比べて難易度は跳ね上がるが、やることは大きく変わらない。


 ちゃんとした錬金術師に比べればまだまだかもしれないけど、私は私にできる精一杯をやる。


「じゃぁ……。始める、わ」

「あぁ」


 レインに支えられて席に座る。


 まずは痺れ草などの七つの薬草を入れる。

 入れる前の加工はすでに済ませてある。


「器もらうぞ」

「……あ……り……」

「お礼はいいから。今は錬成に集中しろ」


 薬草を入れ終わると薬草を入れていた器はレインが受け取ってくれる。

 どうやら、レインが錬成鍋に直接触れるとレインの呪いが発動するらしいが、この程度の手伝いであれば問題ないらしい。


 いや、今は錬成に集中だ。


 私は錬成鍋に向ける。

 錬成鍋のそこにはさっき入れた薬草が残っている。

 私はゆっくりとサジで薬草をかき混ぜる。


 右回りに、ゆっくり、ゆっくり。


 三十回ほどかき混ぜていると、錬成鍋が私の魔力を吸い上げ始める。

 すると、薬草の内側から液体が溢れ出して来る。

 これは『土液』などと同じで、薬草の成分が溢れ出しているらしい。


 私は少しだけかき混ぜるスピードを上げる。

 さっきまでは錬成鍋の底に薬草が少しだけあったのに、気づけば錬成鍋の半分くらいまで液体で満たされていた。


 次第に、錬成鍋が吸う魔力の量も減ってくる。

 薬草が完全に溶けたと言うことだろう。


 完全に魔力の吸収が終わる。


(次は石)


 錬成鍋の隣においておいた石の入った器を手に取る。

 石はあらかじめ粒状になるまで砕いてある。

 これを錬成鍋の中に入れる。


 素材を入れ、再びかき混ぜ始めると錬成鍋は私の魔力を吸収し始める。

 さっきより勢いよく魔力を吸い上げてくる。


 『完全耐性の指輪』を作る素材はこれで全てだ。


 工程的には少ない。

 だが、必要魔力量が多い。

 前回の失敗もここで魔力の流れが切れてしまって失敗した。

 魔力を支援魔術で底上げしているだけなので、錬成鍋が吸い上げるだけの魔力では足りないのだろう。

 だから、こちらからも魔力を意図的に入れてやる必要があるのだ。

 魔力は多すぎても少なすぎても成功しない。

 だから、この工程は細心の注意が必要だ。


 今回はこちらからも流し込むように魔力を入れる。

 多すぎても失敗してしまうので、錬成鍋が魔力を吸い上げる感覚に集中して、減ってくればこちらからの魔力注入も減らす必要がある。


「……」


 レインも私も無言で様子を見守る。


 次第に魔力の吸収量が減っていく。

 私は慎重に魔力の供給を減らしていく。


 魔力の供給量は減っていき、最後にはゼロになる。


 目の前にある錬成鍋には虹色に輝く液体が満たされていた。


「うまく……いった?」


 本に書いてある通りの状態になっている。

 ここまではうまくいったらしい。


 だが、最後の工程が残っている。

 この液体に土台となる指輪を入れて、その指輪に成分を定着させる。


 そこで失敗すれば、土台となる指輪も元どおりではないかもしれない。

 私は震える手で指輪を手に取る。


 指輪を持つ手が震えている気がする。


「キーリなら大丈夫だよ」


 隣にいたレインが励ましてくれる。

 私は思わず笑顔になった。


 そのセリフを聞くと、ほんとに大丈夫な気がしてくるから不思議だ。


 私が指輪を入れると、錬成鍋がカッと輝く。

 それと同時に私の魔力が勢いよく吸い上げられる。


 今までない魔力の流出に私の体がふらつくが、レインがすぐに支えてくれる。


(どうか、成功して!)


 私は自分の中にある魔力を全部、錬成鍋に渡すつもりで魔力を流し込む。


 しばらくして、光が収まると、錬成鍋の底に一つの指輪があった。

 その指輪はうっすらと輝いており、ちゃんと魔道具になっていることがわかる。


「成功、した……」

「キーリ!?」


 私はレインに抱きかかえてもらいながら意識を失った。

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