魔道具を作ろう⑥
「何から、試して、みる?」
「そうだな。こっちも考えておかないといけないんだったな」
アリアとミーリアが今後の農作の予定を立てている一方で、俺たちは魔術での農業の実験の予定を立てることにした。
ちゃんと考えておかないと後で結果を見ても訳がわからなくなる。
「調べるのは小麦でやるってことでいいか? 一つの作物に絞った方が調べやすいだろ」
「それが、良いと。思う」
この国もパンが主食だ。
だから、穀物といえば小麦になる。
当然、小麦も村では育てている。
だが、この小麦、春に蒔いた種が夏前に収穫できてしまう。
普通は春まき小麦は秋に収穫するものだが、そんな常識はこの世界では通用しないのだ。
しかも、夏、秋と三回収穫することができてしまう。
二期作どころか三期作だ。
その上土地が痩せることがないっていうんだから驚異的だ。
そんなことができるのは魔力量が多い魔の森の近くだけだ。
危険な魔の森の近くに国ができるのもわかる気がする。
だが、普段は一年かけて育てる作物だけあって、他の作物よりやはり成長は遅い。
遅い方が経過観察をしやすいし、小麦が今回の実験には持ってこいだろう。
「今から一番調べやすいのは属性魔力と農業の関係だよな」
「(コクリ)」
今回はみんなで畑を耕した。
どこまで木のクワがもつかわからなかったので、村から近い部分から区画を切って一区画ずつ耕していっていたらしい。
作物を植える時もその区画ごとに植えて行ったらしいので同じ区画には同じ作物が植えてあるそうだ。
おかげで農地は正方形をたくさん敷き詰めた様な形に広がっている。
そんな理由もあって同じ作物が植えてある一区画内に五人が耕したエリアが混在している。
ひと区画ごとに水を変えて撒けば良いだろう。
「そういえば、クワを使った感じはどうだったんだ?」
木のクワは一振りすると、振るった人間が立っている位置を中心に一定のエリアが耕される。
実にファンタジーだ。
俺の知ってる物理法則と違うことが起こる場所には絶対に魔力が関与している。
それに農業は多くの部分が魔法の儀式として成立しているらしい。
であれば、土地の魔力とクワを振るった人間、両方の魔力を使う可能性が高い。
人間の魔力を使うのであれば、クワを使った結果も人によって違うはずだ。
俺は魔の森から出てきた魔物を狩りに行っていたから見ていないから、スイに聞くしかない。
「うん。違ってた」
「へー。どんな感じ?」
スイは少し視線を泳がせる。
おそらく、その時のことを思い出しているんだろう。
「キーリが一番広かった。一番狭いのはアリアだった」
「なるほど」
キーリは俺たちの中で一番土の魔力が多い。
その次がリノで、スイ、ミーリア、アリアという順番だ。
キーリとリノは元々どちらも土属性が得意だった。
けど、リノは斥候職として素早く動くために風属性に魔力も伸ばしていたので、その辺で差が出ている。
おそらく、土属性の魔力と関係があるんだろう。
「大地を耕すんだから、土属性の魔力量と比例するっていうのは十分に考えられるな」
「うん。でも、少し、変なことも、あった」
「ん? なんだ?」
スイはテーブルに視線を落とす。
何か少し言いづらいことらしい。
俺はスイの頭を撫でる。
「何があっても俺はスイの味方だから、教えてくれないか?」
しばらく黙った後、スイは話し出す。
「……リノより、私の方が、耕せる面積、広かった」
「……なるほど」
そこまで行ってスイは再び黙ってしまう。
土属性の魔力だけが理由であれば、リノの方がスイより耕せる面積は広いはずだ。
でもそうはならなかったということは、他にも理由があるんだろう。
普段から魔術を使い慣れているからっていうのもあり得る。
魔術の使用量はスイが一番多い。
でも、それではスイが言いづらそうにしている理由がわからない。
「私は……」
スイは何かを言おうとして、再び口をつぐむ。
何か心当たりがあるんだろうか?
「……魔導書のせいかもと思ってる」
「……そっか」
スイは以前に魔導書に選ばれた。
今は封印しているが、つながりが完全に切れているわけではないのだろう。
どうしてもスイは魔術や魔法的な部分で他の四人より上を行っている。
スイが言いにくそうにしてたのは、たぶん俺に心配させたくなかったからだろう。
魔導書は危険なものだ。
それは俺の魔導書が証明している。
スイに魔導書の影響は予想以上に出ているようだし、今の封印では少し不足なのかもしれない。
……リノにはああ言ったけど、探索を急ぐか。
「その辺も調べればわかるかもしれないな。とりあえずそれも考慮に入れてみよう」
「(コクリ)」
俺はできるだけ明るくそういう。
スイが頷いたので、俺たちは気を取り直してこの先の実験のことを話し始めた。
「じゃあ、耕した人間の魔力については何区画かを同じ条件でしっかり育てるだけでだいたいわかるだろ。あとは与える水かな」
「みんなにも、水撒き、してもらう?」
「うーん。そうだなー」
スイは『水生成』や『水操作』などを使って水撒きをしてくれている。
みんなにも『水生成』をしてもらえば比較はできるだろう。
みんなも水属性の魔力はゼロではないから、『水生成』の魔術自体は使うことができる。
「最初からそこまでする必要あるかな?」
「どういう、こと?」
こてんとスイは首をかしげる。
「これから収穫までの間もみんなの魔力量は変わって行く。正確に調べることはどうせできないんだ。だったら、最初はざっくりと魔力で作った水とそうでない水で分けて育てるくらいで良いんじゃないかな?」
最初から色々やりすぎると何がどれだけ影響したかがわからなくなる。
前世なら、パソコンとかを使って解析できたかもしれないが、今は人力で調べるしかないのだ。
いろいろなデータを取ったところで何もわからずじまいで終わってしまう気がする。
耕す方はすでにそうなっているので、後でその影響もあるかもしれないと思ってみれば良いけど、水まで色々と分けてしまうとこんがらがりそうだ。
水を分けるのは水で影響が出てからでも遅くないだろう。
「どうせこれからも農業は続けて行くんだ。最適の組み合わせを見つけるのはまた今度でも遅くない」
「……それも、そう」
スイはコクリとうなづく。
こうして、俺たちの魔力実験は始まった。
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