魔道具を作ろう④

「はぁ……。はぁ……。レイン。お願い。もう一回……」

「も、もうやめた方がいい。キーリが壊れちゃうよ」

「大丈……夫、だから。ね? もう、レインの……が、入って、くるのにも、もう、慣れたから。お願い」

「しょうがないな。次が最後だぞ?」


 バタン! 


 扉が音を立てて開かれる。

 俺たちが扉の方を見ると、真っ赤な顔をしたアリアが立っていた。


「ちょっと! 二人とも! 何してるのよ!」


 アリアは大きな声でそういう。

 そして、錬成鍋の前で座っている俺たちを見て狐につままれた様な顔になった。


「アリア?」

「はぁ。はぁ。……どうか……したの?」

「……あれ? 二人とも何してたの?」

「何って、魔道具作成だけど?」


 俺たちはリノのための魔道具を作っていた。

 アリアがくる少し前まで支援魔術をかけていたがあまりにキーリが辛そうなので強制的に終了したところだ。


 ミーリアが大切にしていた指輪を土台に使う。

 だから、キーリは別のものが手に入ったらミーリアに返せるようにどんな状況でも役に立つ『完全耐性の指輪』を作ろうとしていた。


「はぁ。はぁ。やっぱりだめ。少し休ませて」

「だから言っただろ。今日はこの辺にしておこうぜ」


 キーリの魔力では『完全耐性の指輪』の作成に少し足りない。


 そこで、俺が支援魔術をかけて魔力を底上げしていたのだ。

 支援魔術はかける側の魔力量で効力が決まる。

 そのため、俺がかけるとキーリの魔力量は飛躍的に上がってしまう。

 それはキーリの体に相当負担をかけるものだったらしい。

 人によっては麻薬のように中毒状態になる人もいるのだとか。


 実際、キーリも俺の支援魔術でかなり魔力量が上がったらしく、うまく錬成ができていない。

 おそらく増えすぎた魔力を制御し切れていないんだろう。


 さっきから魔術をかけた瞬間から焦点の合わない瞳で必死に錬成をしていた。


「そっか。私はてっきり……」

「? てっきりなんだ?」


 俺が質問をするとアリアは顔を真っ赤にする。


 怒ってるのか?

 別に怒る様な要素はなかったと思うんだが。


「何でもないわ。二人とも、晩御飯出来てるから早く来てね」


 アリアはそういって乱暴に扉を空けて出て行ってしまう。

 最後、何を言おうとしていたんだろうか?


 まあ、今はアリアよりキーリだ。

 魔術は切ったけど、まだ本調子ではない。


 俺が脇においてあったコップに水を注いで渡すとキーリはそれを一気に飲み干す。


「ふー。ちょっと落ち着いたわ」

「大丈夫か?」

「えぇ。もう大丈夫」


 俺がアリアと話しているうちに、キーリはだいぶ落ち着いたらしい。

 さっきより呼吸も落ち着いている。


 やはり、俺の支援魔術はキーリの体に負担をかけるものらしい。

 効果を限界まで下げてはいるのだが、やはり無理かもしれないな。


「どうする? つらいようならやめるか? 無理してまで『完全耐性』をつける必要もないだろ」


 『完全耐性』でなくても、探索でリノに使ってもらう分には問題ない。

 『恐慌』状態を防ぐ指輪で十分なのだ。


 ミーリアに返すにしても、問題はない。

 ミーリアが普段『恐慌』状態になることはないかもしれないが、ついていてもデメリットはない。

 今も特に効果が付いているわけではないので、価値が下がったわけではないしな。


「いえ、無理じゃないわ。ミーリアには少しでもいいものを持っていてほしいもの。それに、もう少しで『完全耐性』がつけられそうなの」

「……そうか」


 もう少しでできそうだというのはおそらく嘘じゃない。


 だんだんと俺の支援魔術に体が慣れてきて、もう少しで成功しそうだなと横で見ていてもわかるくらいのところには来れている。


 だが、支援魔法に慣れてきた分だけ、俺の魔力を大量に体に取りこんでいる気がするのだ。

 正直、他人の魔力が体にどんな風に作用するのかはわからない。

 しかし、キーリが辛そうにしているのを見た感じ、あまりいい方に作用しない気がするのだ。

 支援魔術中毒になるという話も聞くしな。


「……じゃあ、明日も手伝うけど、一つだけ条件がある」

「条件?」

「そう。明日ダメだったらあきらめること」

「え?」


 魔力量の大きくかけ離れたものに支援魔術をかけるのは本当に危険なのだ。

 その危険性は期間が長くなればなるほど増していく。


 俺は初めて他人に支援魔術をかけるからここまで辛いことだとは思っていなかった。

 ここまで辛そうなら最初から提案しなければよかったと何度も思ってしまった。


 それに、リノの探索は明後日にも続きをすることになる。

 それまでに『恐慌』状態を防ぐ魔道具は必要だ。


「それが約束できないなら、俺はもう手伝えない」

「……わかったわ」


 どうやら、キーリは納得はしていないようだが、俺の条件は飲んでくれる様だ。

 まあ、俺が支援魔術をかけないと始まらないから当然か。


 俺はほっと胸をなでおろす。

 キーリもこだわりに執着することがあるからな。

 まあ、そういう性格だからこそ錬成でいいものができているというのもあるんだと思うけど。


「ちょっと~。夕飯冷めちゃうから早く来てー」


 アリアが俺たちを呼ぶ声が聞こえてくる。

 さっき呼びに来てからすでに結構時間がたってしまっている。

 これ以上待たせるのは悪いだろう。


「アリアも呼んでるし、食堂の方に行こうぜ」

「そうね」


 俺たちは作業を切り上げて、食堂の方へと向かった。

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