魔道具を作ろう②

「ミスリルか」

「そんなの手に入るかな?」


 ミスリル。

 言わずと知れたファンタジー素材だ。


 この世界では魔法銀とも言われて、銀が長年魔法を受けて変質したものだと言われている。

 魔術師文明の前期以前からあったらしく、魔力の伝導率が高く、魔道具などによく使われている。

 特に古代魔術師文明時代の産物には良く利用されている金属だ。


 どうやら、古代魔術師文明時代には人工的に作る方法があったらしく、銀と同額くらいだったらしい。

 だから色々なものに利用されていたそうだ。

 それこそ、子供のおもちゃとかにも。


 しかし、今の時代だと、かなり高価な素材となる。

 指輪を作るのに必要な量のミスリルで家が建つんじゃないだろうか?


「レイン。ミスリルって持ってる?」

「……今は持ってないな」

「そうよね」


 何より問題なのは俺がミスリルを持っていないと言うことだ。

 正直、ミスリルは前にいた魔の森だと簡単に採ることができた。

 魔の森の中に鉱山地帯があったからだ。


 何代か前の対魔貴族はそこで手に入れたミスリルを隣国に売り捌いて結構な金を作ったらしいということが日記に書かれていた。

 俺は特に使い道も思いつかなかったので、一度見にいったっきりでそれ以来鉱山エリアには行っていない。

 錬成ができないからミスリルの使い道なんてなかったのだ。


 前にいた魔の森だとどこに鉱山エリアがあるかわかるから取りに行くことは簡単だ。

 しかし、ここだとどこにあるかわからない。

 探すのも難しいだろう。

 魔の森の中で鉱山みたいなエリアはなかなか見つからない。

 魔の森は元々が森なだけあって、森とかけ離れたエリアはなかなか出ないのだ。


 俺の知っている鉱山も何代も前の対魔貴族が偶然見つけたもので、十代以上続いている対魔貴族の中で見つかったのは一箇所だけだ。

 百年以上探してやっと一ヶ所ということだ。


 今から探し始めても見つけられるのは何年も先になるだろう。


「ミスリル製の指輪を買うことはできないのか? 古代魔術師文明ではおもちゃみたいなのまでミスリルでできてたらしいし、かなり見つかってるんじゃないか?」

「そうね。ミーリアに聞いてみるわ」


 キーリはミーリアを呼びに出て行く。

 ないならば買えばいい。

 指輪で家が建つとしても、どうやら、この村の稼ぎはいいらしいからお願いしたら買ってもらえるかもしれない。

 探索に必要なものだしな。


 最悪俺の持ってる武器とかを金属に戻して作ればいいだろ。

 たしかミスリル製の武器はあったはずだ。

 いや、鋳潰したり指輪型に整形するのがキーリではまだ無理か。


「レイン。呼びましたか?」

「ミーリアを呼んできたわ」


 キーリはすぐに戻ってきた。

 キーリの後を追う形で工房にミーリアが入ってくる。

 ミーリアは普段着に着替えており、エプロンをつけていた。


 どうやら、ただ呼んできただけで呼んだ理由は説明していないらしい。

 本があるんだし、それを見せながら説明した方が早いと考えたのかもしれない。


「いきなり呼んでごめん。ミーリア。何かしていたか?」

「いえ。少し早いですが夕食の下ごしらえをしていただけですので」


 ミーリアは今日はもう探索がないと見て早々に夕飯の支度を始めていたらしい。


 いや、俺たちが長い時間工房にこもっていただけか。

 窓の外を見ると、すでに日が傾き、空は茜色に変わっていた。


「そうか。呼んだのは、ちょっと欲しいものがあって、それをジーゲさんに依頼できないかと思って」

「欲しいもの? なんですか?」

「ミスリルの指輪なの」


 キーリは作りたい魔道具の乗った本をミーリアに見せる。

 ミーリアも古代魔術師文明の本は既に読めるので、本に目を通す。


 一通り読んだ後ミーリアは申し訳なさそうな顔になる。

 ミスリルを手に入れるのは難しいのか?


「ミスリルの指輪を手に入れるのはかなり難しいかもしれません」

「どうして?」

「ミスリルの指輪となると相当貴重なものなので、値が張ります。それに、そう言ったものは貴族の宝飾品として取り扱われるので、辺境の開拓村にいる私たちに売ってもらえるか……」


 ミーリアがいうにはミスリルの指輪の値段は俺たちの想定の百倍くらいの値段がするらしい。

 それに貴重なものというのは持つ人が少ないからこそ貴重なのだ。

 貴族としては平民が自分と同じものを持っていれば面白くないだろう。

 そういう理由で売ってもらえないかもしれないとのことだった。


「没落貴族の流れものとかがあるかもしれないので、お願いする価値はあるかもしれませんが」

「そっかー」


 キーリは残念そうに肩を落とす。

 土台となる宝飾品が手に入らないのであれば魔道具は作ることができない。

 熟練の錬金術師とかなら、自分でレシピを作り出すことができるかもしれないが、キーリはその域には達していない。


 残念ながら、『護心の指輪』を作るのは諦めるしかないだろう。

 他の素材は手に入りそうだったので、なおのこと残念なんだろう。


「薬とかを作るしかないかな」

「他にも『恐慌』状態を防ぐ魔道具がないか探してみてもいいんじゃないか?」

「そうね」

「……」


 俺たちは魔道具系の本をパラパラとめくり出す。

 やはり、なかなか思ったものは見つからない。

 『恐慌』を防げるアイテムであっても、ミスリルの腕輪とかネックレスとかが必要で、今は作ることはできないものばかりだ。


 俺たちがパラパラと本をめくっている間、ミーリアは頬に手を当てて何かを考えている様だった。


「少し待っていてもらえますか?」

「え? いいけど」


 ミーリアはそう言い残して部屋から出て行った。

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