探索再開しよう③

「思ったより普通ね」

「そりゃそうだろ。魔力濃度が高くなったわけでもないんだから」


 俺たちは魔の森にきている。

 前に見つけたセーフエリアを経由して少し深いエリアまで来ている。


 魔力濃度が変わったわけでもなく、出てくる魔物が変わったわけでもないので、奥に来ていると言われなければ気付かないだろう。

 変わったのはエンカウント率なのだから。

 俺は索敵範囲が広いから索敵範囲に入っている魔物の数が全然違うので、ここが前より危険なことはわかる。

 この場所であれば俺の魔力から逃げきれずにリノの索敵に引っかかる間抜けなブラックウルフもいるだろう。


「アリア。ここはこの前までより魔力が濃いわ。明らかに収穫できる素材が火属性のものになってる」


 キーリは違いが分かるらしい。

 どうやら、辺りにある素材から違いを感じ取っているみたいだ。

 素材の違いも良くわかっていない俺としては、もはや脱帽だ。


「素材ねー。そんなに違うの?」


 そう言ってアリアは近くにあった石を拾い上げる。

 俺からみてもなんの変哲もない石だ。

 アリアは繁々と眺めるがピンと来ないらしく、首をかしげている。


 アリアには素材の違いはわからないらしい。

 よかった仲間がいた。

 口には出さないけど。


「アリア! ちょっと待って!」

「え? 何?」

「その石!」

「石?」


 アリアが手に持った石をその辺に放り投げようとすると、キーリからストップがかかる。

 アリアの拾った石ころがどうかしたのだろうか?


 キーリはアリアから石を受け取ると、その石を手持ちのピッケルっぽいもので二つに割る。

 そして、何かの薬品をかけてその石を燃やすと、その石は元の形に戻った。


「うそ? 元に戻った」

「やっぱり! これ、不死鳥石だわ! 滅多に手に入らないって本に書いてあったのに! こんなところで見つけられるなんて!」


 キーリは嬉しそうに飛び跳ねる。

 行動がリノっぽくなっているときは相当喜んでいるときだ。


「不死鳥石って何? 高く売れるの?」

「なんでも、壊しても火の中に入れたら同じ形に戻るらしいわ」


 あぁ。

 そういえばそういうのもあったな。

 形状記憶合金みたいだなと思った記憶がある。

 不死鳥石は砕いても火に入れれば元の形に戻るらしいので上位互換みたいなものか。


「アリア! これもらってもいい!?」

「いいわよ。キーリが気づかなかったら捨ててたし」

「ありがとう」


 キーリは不死鳥石を大切そうにポケットにしまう。


「よかったな。キーリ」

「うん。今の私の技術じゃ加工できないけど、いつかちゃんと加工できるようになって、アリアにも指輪か何か作ってあげるわ!」

「……ありがとう」


 その性質的に、武器とかに使うものだと思うんだが、キーリはテンションが上がってそういうことには気が付いていないようだ。

 壊れないのであれば、護身用の魔術でも付与した指輪とかでもいいかもしれないが。


(お?)


 どうやら、そろそろ採集だけじゃなくて、探索の方にも動きがありそうだ。


 索敵魔術が一匹のブラックウルフを捕らえる。

 位置的に、このままいけばリノの索敵に引っかかる位置だ。

 うまくやらなければブラックウルフの索敵にもリノが引っかかるだろう。


 リノ次第では午前の探索はこれで終わりかな。


 リノの反応がブラックウルフに近づいていく。


(よし。リノがブラックウルフを見つけたな)


 そして、リノの索敵範囲にブラックウルフが入り、リノの動きが止まる。

 ブラックウルフはまだリノに気付いていないようで、先ほどからゆっくりと移動を続けている。


 リノはこちらに向かってゆっくりと移動してくる。

 ブラックウルフの発見をこちらに知らせるつもりなんだろう。


(よし。このまま一旦合流して、ブラックウルフのいない方に移動すればまだ探索は続きそうだな)


 今、キーリが乗っている。

 こういう時は採集を続けた方がいい素材が取れる。

 っと本に書いてあった。


(俺は適当に魔力量の多いものを回収してたから調子の良し悪しなんてわからないんだよなー。……って、あれ?)


 ブラックウルフが立ち止まったかと思うと、リノも立ち止まる。

 立ち止まったままリノが動く様子がない。


 すぐにブラックウルフもリノに気づいたらしく、リノのいる方に向かって動き出す。


「やばっ!」

「ちょ、レイン! どうかしたの!?」


 俺の様子にアリアが不安そうな顔をする。


「リノの様子がおかしい。セーフエリアまで撤退する準備をしておいてくれ」

「リノが!?」


 キーリが大きな声を出す。

 リノはキーリの妹だから不安になるのも分かる。


「……わかったわ。スイ。キーリを手伝って。ミーリアは退路も確認をお願い」

「わかった」「わかりました」


 アリアは状況を見て指示を出す。

 リノに迫っている個体以外のブラックウルフは近くにいないみたいだし、アリアに任せておけば、ここは大丈夫だろう。


 俺はリノのいる方に向かって駆け出した。

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