探索再開しよう②

「明日から探索再開?」

「その予定だ」

「やったー!」

「探索、楽しみ」


 夕食を終えて探索再開の話をすると、案の定、リノは大喜びだった。

 スイも、早く探索したくてうずうずしている様子だ。


 二人とも黙々と農作業をしてくれていた。

 言われる前に種まきや水やりをやってくれたらしいし。


 だが、やっぱり農作業より探索のほうが好きなようだ。

 俺も力になれない農作業よりもちゃんと役に立てる探索のほうが好きだ。


「キーリは明日からで大丈夫か? 今日魔力を使い切ってたみたいだけど」

「大丈夫よ。というか、せっかく魔力を使い切って今日中に終わらせたのに、明日探索に行けなかったらなんのために頑張ったかわからなくなるわ」


 どうやら、探索を楽しみにしていたのはリノとスイだけではなかったらしい。

 キーリもかなり探索に乗り気なようだ。


 今日は魔力を使い切ってへとへとだったという話を聞いていた。

 だから、明日は休みにしたいかと思ったのだが、そういうわけではないらしい。


 なら、心おきなく明日は探索に移れるだろう。


「みんなやる気満々だな」


 アリアとミーリアも口にこそ出していないが、いつもより機嫌がいいように見える。

 二人も探索を楽しみにしているようだ。


「まあ、そうなるでしょ。去年より明らかに強くなってるんだから」

「そうですね。魔術は少しできるつもりでしたが、鍛えるとここまで体が動くようになるとは思っていませんでした」


 二人とも二週間前はそこまで魔力を鍛えたことによる効果を実感していないようだった。

 この二週間の農作業で自分が強くなったことを実感したのだろう。

 

 五人は去年も農作業をやっていたからな。

 そこで畑を耕したときと、今年畑を耕した時とを比べて相当楽になったと感じたのだろう。


 当然か。


 去年の五人の魔力が二か三で、今が三十以上だ。

 魔力が十倍以上になっている。

 パワーもスピードも十倍くらいにはなっているのだ。

 手でしていた作業を重機でしているくらいの違いは感じている筈だ。


 俺は物ごころつく前から魔の森で鍛錬していたからその気持ちはよくわからないが、相当な変化を感じたことだろう。


 ここから先はそこまで劇的な変化は得られないと思う。

 魔力量も一エリア進むごとに十五ずつくらいしか増えない。

 それでも、今年だけでも今の倍くらいの魔力量にはなる。


(この様子なら、これから先も鍛錬を続けて良いかもな)


 俺は、護身のために五人を鍛え始めた。

 だから、最初は冬を過ぎて十分強くなれば、修行はやめるつもりだった。


 だけど、みんながやる気ならこのまま続けてもいいだろう。

 だれかに物を教えるっていうのもなかなか楽しいものだしな。


 それに、スイの魔導書の件もあるから、この魔の森をもう少し深くまで探索する必要があるかもしれないし。


「じゃあ、明日からは今までより深いところに行ってみようか」


 俺はみんなの様子を見て、次の段階に進む提案をした。

 スイの魔導書の件もあるし、もう少し深いところでブラックウルフと接触してもいいと思うのだ。


 しかし、五人は今まで明日のことを話し合っていたのに、話をやめて一斉に俺のほうを向く。

 その顔には期待より恐れの色が濃いように思えた。


「……まだブラックウルフには勝てないと思うけど、ブラックウルフに見つかるまで探索をして、見つかったら全員で逃げるという感じでいこう」


 俺がそういうと、五人は俺のほうを見たまま一言もしゃべらなくなった。

 みんなやる気だから大丈夫かと思ったが、少し勇み足が過ぎたか?


「……大丈夫、かな? あのブラックウルフが出るんだよね?」


 キーリが不安そうに聞いてくる。

 アリアとミーリアも不安そうにしている。

 特に、キーリとミーリアの顔色が悪いように思える。


 そういえば、前にこの村に攻めてきたのはブラックウルフだった。

 ブラックウルフには四人とも死ぬ直前まで追い詰められたのだ。

 苦手意識をもっても当然か。


 少し焦りすぎたかな?


「無理にとは言わない。でも、格上との戦闘は多くこなしておいた方がいいと思う」


 できれば俺が一瞬で倒せる魔物のうちにアリアたちには格上との接触はできるだけ多く積ませておきたい。

 もしもの時の対応っていうのは実際に体験しないと身につかないものだからな。


「それに、リノの索敵範囲の方がブラックウルフの索敵範囲のより広そうだから、アリアたちは出会わないかもしれないし」

「! 俺がブラックウルフに見つからないように敵を見つければいいんだな!」

「見つかっても、逃げるだけ。今までと、変わらない」


 リノが元気よく答えて、スイも肯定するようなことを言う。

 二人とも常にイケイケだから、俺たちが話を終えるまで黙っていただけで、やる気満々なようだ。


 リノなんかは格上の敵と聞いて目をキラキラさせている。

 なんか、少年漫画の主人公みたいだな。


 斥候役のリノがやる気満々なのは助かる。

 リノがしり込みするようであれば、奥への探索は見送るほかなかった。


 一番最初に魔物に出会うのはリノだ。

 それどころか、リノしか魔物に出会わないというのも十分に考えられる。

 リノがその気になれば、ブラックウルフに見つかる前に敵を見つけて、逃げることだってできるんじゃないかと思っている。


「そ、そうよね。今までと同じよね」


 アリアもリノには負けられないと思ったのか、やる気になったようだ。

 カラ元気だろうとは思うが、やる気になってくれたのはうれしい。

 これで明日からの探索もおそらく大丈夫だろう。

 最悪、俺がブラックウルフを倒しながら帰るってこともできるんだし。


「無理そうなら俺がブラックウルフを倒すから、とりあえず、明日一度やってみないか?」

「……レインがそういうなら」


 キーリも恐る恐るではあるが了承してくれた。

 ミーリアもうなづいてくれる。


(明日はいつも以上に二人に気を使って探索したほうがいいかもしれないな)


 二人には悪いが、ここでブラックウルフになれておけばブラックウルフを倒して遺跡に行ける日も近くなるはずだ。

 俺の呪いはともかく、スイの魔導書は早くなんとかしてやりたい。


 俺は明日からの予定を頭の中で詰め始めた。

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