ジーゲさんがやってきた③
「レイン! 少し村を留守にしても良い!?」
「え? いきなり何?」
アリアは戻ってきて開口一番おかしなことを言い出した。
ミーリアに呼ばれて出て行ったから、商談の席で何かあったのだとは思うが、経過が全くわからないから何とも言えない。
「貴族が武闘会で参加必須なの!」
「いや、訳がわからない」
説明をしてくれたが、全然わからない。
貴族? 舞踏会? ダンスパーティーにでも誘われたのか?
その後も必死に何かを伝えようとしてくれているが、何が言いたいのか全くわからないんだが。
「もう! どうしてわかってくれないの?」
「いや、今のでわかれっていうのは無理があるぞ」
「貴族は成人して一年目に武闘会に参加する義務があるんです。その招待状が来たのでしょう。私は去年それに参加しなかったので貴族ではなくなりました」
「ミーリア」
興奮するアリアを宥めていると、ミーリアが詳しく説明してくれた。
どうも、この国では当主が勝手に家族を勘当したり、貴族籍から外すことはできなくなっているらしい。
だが、貴族の義務を果たさないものをいつまでも貴族にしておくわけにもいかない。
そういうわけで、貴族は必ずしなければいけないというイベントがいくつかあり、それに参加しなかったものは貴族に値せずということで貴族籍から外されることになるのだとか。
その一つが、成人して一年目に参加する武闘会なのだとか。
ここでは勇気が試されるらしく、相手を殺してしまってもお咎めはない。
まあ、実際に殺して仕舞えば相手の家に睨まれることになるので、人死にはまず出ることはない。
しかし、アリアのように家の後ろ盾がないものは別だ。
アリアを殺してもアリアの家は抗議しない。
それどころか、厄介払いができたと感謝すらされるかもしれないそうだ。
そうなれば、相手はアリアを殺しにかかってくるだろう。
「そんな大会出て大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。一回戦が始まった瞬間に降参するから」
アリアは自信満々にそういうが不安は拭い切れない。
ミーリアが不安そうな顔をしているのが良い証拠だ。
「私も、参加しない方がいいんじゃないかと思いますよ?」
「ミーリアは心配性ね。大丈夫よ!」
「でも――」
「私が貴族でいればスイやリノにもちゃんと市民権を与えられる。だから、後三年は貴族でいたいのよ」
「アリア……」
この国では成人になるときに市民権を得るのだが、市民権を得るためには身元保証人が必要になる。
まあ、市民権をそうポンポン発行するわけにはいけないから誰かがちゃんと村民であることを保証する必要があるというのはわかる。
だが、その人が新成人がちゃんとその村の所属であると示すのだが、その保証人に女性ではなることはできないのだ。
俺がなりたいところではあるのだが、身元保証人はその村に一定期間以上住んでいるものでないといけないらしく、開拓村は最近できた村だが、開拓当初からいない俺は身元保証人にはなれない。
なんでも、昔、一人の村人が犯罪者の身元保証人になったことがあって、村はそいつを追放したらしいのだ。
話はそれで終わらず、そいつは毎年いろいろな村に移り住んでおんなじことを繰り返していたらしい。
それで、一定期間以上村に住み続けているものしか保証人になれないようになったのだとか。
ただ、女性でも貴族なら例外的に身元保証人になることができる。
つまり、アリアが貴族ではなくなると、スイとリノは市民権を得られないのだ。
アリアは仲間のためとなると自分の身を省みないところがある。
これは説得しても聞き入れてくれないだろう。
「……アリアがそうしたいなら行ってくれば良いんじゃないか?」
「レイン?」
俺が肯定的なことを言うと、ミーリアは驚いたように俺の方を見る。
「ありがとうレイン!」
「そのかわり、ちゃんと一回戦で負けてすぐに帰って来いよ?」
「わかったわ!」
アリアはそう言って工房から出ていく。
おそらく、武闘会の準備に行ったのだろう。
「レイン! 武闘会は本当に危険なんですよ!?」
「まあ、アリアなら大丈夫だろ。強いし」
「でも……」
ミーリアは不安そうにしている。
どうやら、自分たちの強さがまだわかっていないらしい。
「ミーリア、いま魔力の合計値って幾つ?」
「え? 合計値ですか? 33ですけど」
「そうだな。アリアも多分そんな感じだ。で、グレイウルフが10くらいになる」
「それがどうかしたんですか?」
「魔の森で修行しなかったら一年で魔力値は1くらいしか上がらないから他の参加者の魔力値は3か4。多くて5くらいなんだぞ?」
「あ……」
魔の森での鍛錬をしなければちゃんと訓練しても1年で1くらいしか上がらない。
実際、アリアもミーリアも訓練前は魔力値が3だったし、キーリやスイ、リノなんかは2しかなかった。
「今更グレイウルフの半分の強さのやつに負けると思うか?」
「で、でも、武闘会は外部での闇討ちなんかの恐れもあって」
「一回戦で負けるならその辺の危険はないだろ」
「そ、それは。そうかもしれませんが……」
ミーリアはそれでも不安そうだ。
「そんなに心配なら、一緒に行ってくればいいのに」
「レインは知らないかもしれませんが、平民が貴族領から出るためにはその領地を治める貴族の許可が必要なんです」
「あー」
そういえば、俺の国にもあったな。そういうの。
ほとんど移動しなかったから忘れてた。
「まあ、俺が昔使ってた使い捨ての魔道具とかをお守りとして持たせるから、よっぽどのことがない限り大丈夫だよ」
「……そうですか」
まあ、俺も不安が全くないわけではない。
いろいろとお守りを持たせて、万全の状態で送り出すつもりだ。
本人には言わないが。
調子に乗って危険なことに頭を突っ込まれても困るし。
俺たちはアリアに何を持たせるべきか検討しながらアリアが準備を終えるのを待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます