休日の過ごし方③

「こら、リノ。釣りに来たんだから、それの片付けをちゃんとしないとダメでしょ」

「あ! そうだった」


 釣りには釣った後も釣った魚の処理とか、いろいろとやることがある。

 終わったらすぐに次に行けるわけではないのだ。

 最低でも締めることはしておかないと鮮度がどんどん落ちていく。


「しょうがないわね。私も手伝うわ。すぐに終わらせて雪苺狩りにいきましょ」

「え? でも」


 リノがしょんぼりとした顔をしたので、キーリはそう提案する。


「いいのよ。どうしても雪苺が食べたかったわけじゃないし」

「半分は私が〆て持って帰りましょう。残り半分は生かしておいてここで昼食にすればいいんじゃないですか?」


 キーリは手を止めてミーリアの方を見ると、ミーリアは優しくキーリに微笑みかける。


「そうすればすぐに雪苺狩りに行けますよね」

「いいの?」

「私もお魚を食べさせてもらえることになってますけど、ここで見ていただけだったのでそれくらいは手伝わせてください」

「私も、〆るの、手伝う」


 スイとミーリアは荷物の中から包丁を取り出す。

 もともとここである程度調理する予定だったようだ。


「俺もちゃんとやるよ!」

「うーん。困りました。包丁は一本しか持ってきてませんからね~。じゃあ、リノちゃんはあとで昼食にする分の魚を〆てくれますか?」

「で、でも」

「そうだ。雪苺もたくさん採れたら私たちにも分けてください。私では見つけられる気がしないので、リノちゃんがたくさん採ってきてくれるととても助かります」

「! わかった! たくさん採ってくる。キーリねぇ! 行こう!!」

「わ。ちょっと待って。ミーリア、ありがとう。私も後で手伝うわ」


 キーリはリノに引っ張られるように雪苺探しに出かける。

 アリアも二人についていった。


「レインも行ってくれていいんですよ?」

「俺はこの生簀のふたでも作ってるよ。村に帰ってる途中に魚を鳥にでも持っていかれたら困るからな」


 俺は土魔術で簡単なふたを作って生簀にかぶせる。

 そうしているうちに、ミーリアは手早く五匹の魚を〆終わっていた。


「じゃあ、私はこれをもって一度村に帰ります。一人でも大丈夫ですからスイは雪苺狩りに行ってください」

「わかった」


 スイはそういってリノたちのほうへと駆けていく。


「よいしょ」

「重そうだし、俺が運ぶよ。ミーリアは釣りの道具の方をお願い」


 俺はミーリアの持っている分も含めて五匹の魚を抱える。

 ミーリアは少し迷った後、まとめてあった釣りの道具を持ち上げた。


「レインも雪苺狩りに行ってくれていいんですよ?」

「女の子に荷物持ちを任せるわけにはいかないよ。それに、雪苺狩りはアリアとキーリの仕事を止めるために言い出したことだし。どうせ午後もやるだろ」

「……そうですか。じゃあ、お手伝いをお願いします」


 ミーリアは俺の瞳をじーっと見た後、嘘はないと判断したのか、荷物の半分を俺に渡す。


***


「……もしかして、何か後悔してますか?」

「え? どうして?」


 村へ帰る途中にミーリアが話しかけてくる。


「さっき、リノちゃんをじーっと見てましたから」

「あぁ。あんな風に全力で遊ぶリノは初めて見たからさ」


 俺はさっきみたいに全力で遊ぶリノは初めて見た。

 今までも元気に修行をしたり、探索をしたりしていたが、今日みたいに遊んでる姿が一番似合っている気がする。


「俺が来なければ魔術の修行に追われることもなかったし、もっと自由に遊べたんじゃないかなと思ってな」

「そんなことありませんよ」

「ミーリア?」


 ミーリアは立ち止まって強い口調で言う。

 普段の彼女ならこんな声を出すことはない。


「リノちゃんが……。いえ、私も含めて村のみんなが今明るく過ごせているのはレインのおかげです。レインが力をくれたから、安心をくれたからこうして楽しく過ごせているんです」

「ミーリア」

「レインが来る前は、襲い来る魔物におびえて、暗い未来におびえて、みんなで寄り集まって何とか生きてきていたんです。それを変えてくれたのがレインです。みんな口にはしてませんがレインにはとても感謝しています。それをいないほうが良かったなんて……悲しいこと言わないでください」


 ミーリアが少し息を荒げながら言う。


 ミーリアがそんな風に思っていたなんて知らなかった。


「……ごめん」

「謝らないでください。私も、変なことで熱くなってしまってごめんなさい。でも、今言ったことは嘘じゃありませんから。レインにはほんとに感謝しているんです。それを忘れないでください」

「わかった。覚えておくよ。ありがとう。ミーリア」

「……はい」


 その後、村に戻るまでの間、ミーリアとの間に会話はなかった。

 だが、気まずい空気ではなく、どこか居心地のいい空気が二人の間に漂っていた。

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