遺跡に行ってみよう!③

「あそこにあるものを全部持ってきてみたけど、ほとんどガラクタだな」


 あのあと俺たちはまっすぐに村へと帰った。

 遺跡の中は家具からゴミみたいな小物、扉にいたるまですべて俺が空間魔法で回収した。


 まるで建てたばかりの家のように何もなくなった遺跡を見てアリアたちはポカーンとしていたが、『魔女教』の隠れ家となればいったい何があるかわかったものじゃない。

 とりあえずすべて攫っておく方がいいだろうという俺の判断だ。


 空間魔法は初めてアリアたちに見せることになったが、表に出てきてしまっている俺の『呪い』のこともあるし、できるだけ早く帰りたかった。

 みんなの前では平気そうな風を装っていたが、正直結構きつかったからな。


「……レイン。大丈夫?」

「あぁ。スイか。大丈夫だよ」


 毎度のごとく夕飯の支度から追い出されて工房でさっきの遺跡の拾得物を整理していると、スイが部屋の中に入ってきた。

 その手にはさっき手に入れた魔導書が握られている。


 魔導書はスイしか触れないので、基本的にスイが持ち運ぶことになった。

 どこかに置いておいて暴走されても困るしな。


「うそ。さっき、レイン、辛そうだった」

「……ばれてたか」

「この子が教えてくれた」


 そういってスイは手の中にあった魔導書を撫でる。

 魔導書は魔術より長い歴史を持つ魔法の産物だ。

 俺がわからないような機能がついていてもおかしくはない。


(魔導書に精神を乗っ取られるとかはほとんどないらしいけど、注意してみておかないといけないかもしれないな)


 俺がスイのことをじーっと見ていると、スイはゆっくりと俺のそばまでやってくる。


「座って」

「? こうか?」


 俺がスイの前にしゃがむと、スイは魔導書を開く。


「〜〜『アクアキュア』」

「なぁ!?」


 スイが俺には理解できない言葉で長い詠唱をした後、呪文を唱えると、俺の体が輝きだす。

 これは間違いなく魔法だ。


「スイ! お前、魔法が……」

「魔導書が、教えてくれた。大まかには、魔術と変わらない」

「いや、全然違うだろ」


 魔導書に選ばれたからといってすぐに魔法が使えるようになるわけではない。

 それどころか対魔貴族の一族で魔法が使えたと言う記録はなかった。

 実際、俺は呪いを与えた魔導書に選ばれているが、その魔導書を使って魔法はまだ発動できていない。


 スイの才能はすごいと思っていたが、まさか魔法まで使えるようになるとは……。


「それより、呪いは、どう?」

「呪い?」


 そういえば、呪いを抑えるのに使っている魔力が明らかに少なくなっている。

 さっきから感じていた体のだるさも今はほとんどない。


「今の、まさか解呪の魔法か?」

「うん。でも、完全じゃない。今の私では、これで精いっぱい」


 スイは悔しそうに顔を下げる。

 俺はそんなスイをギュッと抱きしめる。


「ありがとう、スイ! ほんとに助かるよ!」

「……私、ちゃんと、レインの、役に立った?」

「無茶苦茶役に立ったよ。今、羽が生えたように体が軽いんだから」


 羽が生えたようには言い過ぎにしても、体が軽い。

 その上、魔導書を紐解けば解呪に至れるという確かな手ごたえをつかんだのだ。

 これはめちゃくちゃ大きい。


 今まで呪いを解くことは半分あきらめていたのでこれは大きな成果だ。


「なら、よかった」


 スイは安心したようにニコリと笑う。

 彼女も俺に呪いをかぶせてしまったことをだいぶ気にしていたようだから、これでだいぶ気が晴れたのだろう。


「それから、レイン」

「? どうした?」

「苦しい」

「おっとすまん」


 さっきからずっと抱きしめたままだった。

 スイはこう、抱きしめやすいサイズなのでついつい抱きしめてしまうのだ。


 俺がスイを放すと、スイはよろよろと危なっかしい足取りで下がる。


「うわ!」

「!」


 そして、そのまま後ろに向かって倒れてしまったので、今度はお姫様抱っこの形でスイを抱きとめた。


「だ、大丈夫か?」

「大丈夫。少しふらふらするだけ」

「……もしかしたら、魔法を使った副作用かもしれないな」


 スイは俺の腕の中から抜け出して自分の足で立ったが、いまだに少しふらふらしている。

 俺は魔法を使ったことがないが、魔力のほかに精神力もかなり使うと何かの本に書かれていた。


「念のため、夕飯まで横になっておいた方がいい」

「……わかった」


 スイは危なっかしい足取りで工房から出ていく。

 俺もスイを追うように廊下に出る。


 今のスイは危なっかしくて一人にはできない。

 一緒に部屋までついていく。


「……心配しなくて、大丈夫なのに」


 スイは自分のベッドに横になり、俺のほうを見上げてくる。


「心配位させてくれよ。俺のためにそんな風になってるんだから」


 俺がそんな彼女に布団をかけながらそういうと、少し不満そうな顔をする。

 しかし、その瞳はすぐにまどろみ、スイはスヤスヤと眠りだした。


「おやすみ……」


 俺はスイが眠ったことを確認してから一番端にぽつんと置かれている自分のベッドへと向かう。

 そして、自分の魔導書を取り出した。


 中にもしかしたら解呪の魔法が描かれているかもしれない。


「魔導書を調べれば解呪できそうとわかったのはいいが、俺の魔導書にもちゃんと解呪の魔法は載っているのだろうか」


 俺の魔導書はスイのように透き通った青色ではなく、どす黒い色をしている。

 その表紙には血管が這うようにぼこぼことしている。


 中身をパラパラと見てみるが、読める部分はない。

 これは地道に解読していくしかないかもしれないな。


 まあ、そこまで気合いを入れて調べるほどのことでもないが。


「いまさらそんなことわかってもなー」


 俺は魔導書の表紙を撫でながら必死で解呪の方法を探していたころのことを思い出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る