辺境伯が村にやってきた!③
「なに? 深い堀と高い塀があった?」
「は? はい。深い堀と高い塀に守られた守りやすそうな村でした」
「そうか、ありがとう。下がって良い」
「はっ!」
先触れにやった男の背中を見ながら彼の言っていた村の様子について考える。
彼は村には堀と塀があると言っていた。
妙だ。
徴税の際にはそんなものがあったという話は聞いていない。
「これは何かあるかもしれないな」
「そうでございますね」
執事長は真剣な口調で私の一人ごとに答える。
「……我らに反旗を翻す可能性もあるやもしれませぬ」
「なぁ! そんなはずは……」
「ですが、姪御様は不当な理由で家を追われたのでしょう? アリシア様も開拓村を与えたとはいえ、そこまで優遇したわけではないでしょう」
「むぅ」
たしかに、そう言われると反論し切れない。
だが、アリアはそんな子ではないと思っていたが、私の見当外れだったか?
私は気を引き締めなおして村に向かって移動を再開した。
***
少し進むと、開拓村が見えてくる。
高い塀にぐるりと囲まれ、中央には一際高い建物が立っているのが見える。
だが、見た感じあまり防衛力は高くなさそうだ。
壁も石製ではあるが、本当に壁で上から攻撃できるようには見えない。
高さもそこまで高くはない。
あの高さであれば足場などを使わずとも作ることができるだろう。
攻めるときも大群で押し寄せればそれほどくもなく攻め滅せるな。
人の手で積んだのであれば簡単に突き崩せるだろう。
(おっと。なにを考えているんだ、私は)
おそらく魔物対策で作ったであろう塀のある村を攻め滅ぼす方法を考えるなど。
魔物に多くのものが殺されたと聞いたから、何とかして防衛を強化しようと壁を作ったのだろう。
これも執事長がいらないことを言ったせいだ。
ちらりと執事長の方を見ると、先ほどはかなり緊張していたようだったが、今はそれほどの緊張を感じ取れない。
彼にもあれが対魔物用の防備に見えたのだろう。
村に近づいていくと、たしかに堀が掘られていて、堀のこちら側には二人の女性が立っているのが見える。
一人はアリアで、もう一人は開拓村の住民だろう。
どうやら、出迎えに出てきてくれていたらしい。
私たちが近づくと、アリアと脇に控える女は頭を下げる。
私は一団の前に立ってアリアのすぐ近くまで寄っていく。
「出迎えご苦労。息災か? アリア」
「ご無沙汰しております。フローリア辺境伯様のおかげで、皆元気に過ごせています」
「世辞はよせ。それに、昔のようにアリシアおばさんと呼んでくれていいんだぞ?」
「いえ。すでに私は家を追われた身。そのように気安く呼ぶわけにはいきません」
「うむ。そうか。まあ、仕方ないな」
少し寂しいが、仕方ない部分でもある。
この開拓村が成功すればこの一帯を領地として我が家の分家としてむかえようかと思っていたが、今ではそれも難しいかもしれないな。
今この村には男性がいない。
この国では土地を維持するのも難しいだろう。
「では、フローリア辺境伯様。私たちの家にお越しください。大したおもてなしはできませんが」
「そうだな。この村の現状も聞きたい。案内してくれるか」
「かしこまりました」
私たちはアリアの案内に従ってアリアが住んでいる家に向かう。
アリアが住んでいるという家は遠めにも見えたあの石造りの家のようだ。
私が家に向かって歩いていると、執事長がすっと寄ってきてアリアに聞こえない程度の小声で私に耳打ちする。
「アリシア様。この村、やはり少し妙です」
「? どういうことだ?」
「あの塀もそうですが、あの家も、材料の石がきれいすぎます。もしかしたら魔術師の力を借りたのかもしれません」
「なに?」
そういわれてみると、塀も家もきれいに形のそろった石が積み上げられて作られている。
これほど均一な石を買いそろえるのは相当な金がかかる。
ということは、魔術師の力を借りたかもしれないというのは十分に考えられる。
(少し聞いてみるか)
逃げ場のない家の中より、塀に囲われているとはいえ広い街の中のほうが奇襲もされにくいし数の利も生かしやすい。
まあ、私も魔術には少し自信がある。
奇襲さえされなければ火の魔術を使って相手を消し炭にするくらいはワケないだろう。
「時に、アリア、なかなか立派な家と塀だったがどうやって作ったんだ?」
「え? あ、流れの魔術師が移住してくれたので、彼に作ってもらいました。報告が遅くなり申し訳ありません。魔の森の動きが活発になっているので、彼には春になるまでは私たちのためにも村にいてほしかったので春に移住の登録に行こうと思っています」
「なるほど。魔術師か……」
やはり魔術師が作ったらしい。
移住したとは予想外だったが、最悪の事態ではないようだ。
いや、もしかしたら、アリアが体を使って引き留めているのかもしれない。
もしそうであるならば、何かしら別の報酬で手を打つように提案するべきかもしれない。
なんにしてもあってみないことには話にならない。
「登録はこちらでしておこう。その魔術師には少し興味があるな。会うことはできるか?」
「あ、はい。では呼んできます」
話をしているうちにアリアの家についた。
私が会いたいというとアリアは家の奥に向かっていく。
どうやら、一緒に住んでいるらしい。
「アリシア様、よろしいのですか?」
執事長が少し困ったような顔で聞いてくる。
「私も魔術の腕には自信がある。もし本当に魔術師であるなら、目に見えないところに居られるより、目の前にいたほうがずっと対処しやすい」
「……なるほど。確かにそうかもしれませんな」
「呼んでまいりました」
すぐにアリアは戻ってくる。
アリアの後ろから、一人の少年が出てきた。
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