魔術を習おう!④
私は家を飛び出した。
どこかへ行ってしまいたかったが、この村は今レインの作った堀で囲まれているため、遠くへは行くことができない。
私は堀に腰かけ、これまでのことを思い出していた。
私は伯爵家に生まれた。
私の家は王国でも名の知れた武家で多くの有名な魔術師を世に送り出してきた。
私も小さいころから魔道具に触れ、魔術の訓練をしてきた。
だが、私は初歩の初歩である『身体強化』の魔術をいつまでたっても発動することができなかった。
魔道具を使うことは小さいころからできていたのに10歳を過ぎても15歳になっても結局使うことができなかったのだ。
そして、去年。
15歳になったとき、父親から追放を言い渡された。
幸い、伯母であり、この辺りを治める領主でもある辺境伯に拾ってもらい、なんとか開拓村の村長にしてもらうことができた。
実家からの妨害があり、これが精一杯だったらしい。
普通村長は平民がなるものだ。
それも、まだできてもいない村の村長なんて平民だってなりたがる者はいない。
それどころか、ほとんどの場合が数年以内には村と一緒にこの世からなくなってしまう。
父もそれならいいと思ったのだろう。
不幸中の幸いでこの開拓村を含む土地を治める辺境伯様は私の境遇に同情してくださりいろいろな支援をしてくださった。
だが、実家を追放されたという事実。
魔術師として失格の烙印を押された事実は私に重くのしかかっていた。
(それが、魔術の教え方が悪かっただけだったなんて)
私がうつむいていると誰かに肩をたたかれる。
「アリア」
「……キーリ」
「隣、座ってもいい?」
私がうなずくと、キーリは私の隣に座る。
「……」
「……」
「……ごめんね。アリア」
「……どうしてキーリが謝るの?」
「だって、リノが魔術を教えてほしいなんて言い出さなかったらこんなことにはならなかったから」
「……リノのせいじゃないよ」
実際、リノは何も悪いことをしていない。
「これ、つかってみる?」
そういってキーリが取り出したものは昨日からリノたちが使っている魔道具だった。
恐る恐る手を触れて、魔力を流してみる。
――――――――――
火:1
風:0
水:0
土:1
光:0
闇:0
無:0
――――――――――
やはり、私の無属性の魔力は0だった。
「どうする? レイン君に魔術を習って実家に戻る?」
キーリは心配そうに私を見上げてくる。
彼女たちは両親が他界していてこの村が失くなると行く場所がなくなってしまう。
私がいなくなると困るだろう。
「いいえ。この村から去るつもりはないわ」
「そうなの? 応援するわよ?」
私は立ち上がり、不安そうに、でも私を心配するような瞳で見上げてくるキーリをまっすぐと見返して宣言した。
「いいえ。今は実家の人たちよりずっとすごい魔術師になってあいつらを見返してやりたいの!」
すごい魔術師になって私を追い出した奴らを見返してやる。
それが私の今の偽らざる気持ちだ。
***
「レイン。私にも魔術を教えて!」
家に戻ってきたアリアは吹っ切れたような明るい顔をしていた。
そして、帰ってきてすぐに俺に魔術を教えるように言ってきた。
「お? おぉ。いいぞ」
俺としてはすでにアリアにも魔術を教えてるつもりだったので、断る理由はなかった。
ミーリアの話ではアリアは昔魔術でいやな思いをしたことがあるらしい。
どうやら、その思いは吹っ切れたらしい。
ミーリアもキーリもやる気満々でテーブルにつくアリアを微笑ましい表情で見ているのでよくはわからんがこれでよかったのだろう。
「じゃあ、アリアの魔力の属性を教えてくれるか?」
「火と土が1よ」
「じゃあ、『着火』の魔術が一番やりやすいかな」
「着火?」
「そう。火をつける魔術。ちょっとやってみようか」
そういって、俺はコップの中にいらなくなった紙を入れる。
アリアは俺の横に来てコップをのぞき込んでくる。
「『着火』」
俺が魔術を使うとコップの中の紙に火が付き、あっと言う間に燃え尽きた。
「燃えやすいものしか燃やせないけど、藁くらいなら燃やせるかな」
「うそ。すごく便利」
そう声を漏らしたのはキーリだった。
まあ、開拓村に着火用の魔道具もないだろうし、火は火打石とかでつける必要がある。
この魔術があれば生活は便利にはなるだろう。
「キーリも魔術を使えるようになれば『着火』の魔術くらいはすぐに使えるようになるよ」
「ほんと!? じゃあ、早く魔術を使えるようにならなきゃ」
そういって、キーリは魔道具を使って真剣に練習を始めた。
「こんな魔術を使える流派があったなんて知りませんでした」
「流派? あぁ。魔術の流派のことか?」
ミーリアがいきなりそんなことを言い出してきたので、何のことか一瞬わからなかった。
現代魔術には流派というものがあって、それぞれ使う魔術が違うらしい。
「まあ、流派っていうか、古代魔術師文明の本を読んで知った魔術なんだけどな」
「!! レインさんは古代魔術の使い手だったんですか?」
ミーリアはぎょっとした表情で俺のほうを見る。
アリアも驚いた顔で俺のほうを見ている。
古代魔術の使い手というのはこの国でも少ないようだ。
「まあ、今風に言うとそういうことになるかな」
「あれ? でも、さっきレインは『風刃』の魔術を使ってなかった? あれは現代の魔術よね?」
アリアがそう聞いてくる。
スイとキーリも興味深そうに俺のほうを見ている。
リノだけは一人で必死に魔道具と悪戦苦闘していたが。
まあ、こういう原理的な話をしてもいいか。
「実は古代魔術と現代の魔術っていうのは一緒のものなんだよね」
「嘘」
「嘘じゃないよ。古代魔術の魔導書には現代使われている魔術が全部載ってる。むしろ、現代使ってる魔術が古代魔術の一部のちゃんと伝えられた奴だけなんだよ」
俺は魔術の原理について話し始めた。
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