それを人は幻や嘘と呼ぶかもしれないけれど。

作者 宮塚恵一

逃げ続けた道の先、子供らしい夢の時間の終わり

  • ★★★ Excellent!!!

 逃避行の果て、いよいよ覚悟を定めた「私」の、「彼」との対話の物語。

 現代ファンタジー、あるいは「少し不思議」のある現代ドラマ、といった風合いの掌編です。
 わずか2,000文字強と非常にコンパクトながらも、ピシッと綺麗にまとまった作品。
 全編にわたって漂う雰囲気、ほっとするような寂しいような手触りがとても沁みました。「彼」の穏やかさと、でも対話の内容が完全に何かを観念したものであること。

 逃避の行く末、旅の終わりの物語なのですが、それが彼女の見る「不思議なもの」と絡めて、子供らしい夢の時間からの卒業のお話となっているところが好きです。
 これ以上は逃げられないと観念し、現実へと向き合うのはいわゆる成長であり、そこは確かに物語の魅力には違いないのですけれど。しかしタイトルの示す通り、そこにあくまでも抵抗していく「私」の姿勢が、なお魅力的だったりするところが本当にすごい。

 ただの駄々ではなく、「いつまでも逃げ続けることはできない」と悟った上のそれであれば、なるほどただの逃避とは言い切れない。
 過ぎ去った何かを手放さず大事にする、「私」のその意地みたいなものが嬉しい作品でした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

和田島イサキさんの他のおすすめレビュー 715