第10話 折伏
天より下されし宣託。
舞い降りた符は意向を示し、その意向を掴み取る。
地に眠る魂は、拠り所となる力を得て、目覚めを遂げる。
それが……成就というのだろう。
風が重圧を掛けてくる。
まるで、舞い上がる符を押さえつけるようだ。
バラバラに舞い散った符が、整然と一箇所に集まり始める。
……重い。
だが、この重さは位置を示している。
まるで……強制的にも正しく導くようだ。
地から強く吹き上がった風は、天から地へと向きを変え、符を押さえ付けるように重圧を掛け続けていた。
見上げれば、頭上一面に符が広がっていた。
「行けっ……! 羽矢! 回向!」
蓮の声が大きく響いた。
「「任せておけ!」」
同時に声が返り、二人が動きを見せる。
羽矢さんの持つ数珠が空を切り、回向の持つ錫杖が音を響かせた。
回向は、羽矢さんの後方に回ると、背中合わせに立った。
羽矢さんは、大きく息をつくと、口を開く。
「開示」
羽矢さんの言葉の後に、回向が続く。
「
そして、二人の声が同じに重なり、強く弾けるように響いた。
「「願……!! 」」
二人の声が空間を震わし、頭上に張り巡る符をゆらりと小さく揺らした。
羽矢さんと回向が顔を見合わせ、眉を顰める。
二人の様子が変わると、僕たちへと目線が向いた。
その目線が緊迫感を伝えてくる。
「え……?」
どうしたのかと彼らを見る僕。
二人の様子がおかしい。
少しの戸惑いが、次の瞬間に大きな驚きへと変わった。
「伏せろーっ……!!」
回向が僕たちへと飛び込んでくる。
羽矢さんも方向を変え、回向の後を追って僕たちへと走った。
回向の腕に押され、蓮と共に地に伏せる。
穏やかならぬ状況に、蓮は直ぐ様、半身を起こした。
「柊!」
蓮の声が響くが、返りがない。
それどころか、あれ程、光が弾けて明るかった空間に闇が落ちた。
……何故……。
まさか……切断された……?
そう不安を抱えたと同時に、カッと弾けた光を見る。
明るく辺りを照らした光に、思い違いかと安堵を取り戻そうとした瞬間。
バリバリと耳を貫く程の轟音が響き、ドオンッと地を震わせた。
金色であったはずの辺りが真っ赤に染まった。
目に映るものは、確かに辺りを照らしてはいたが、それは……。
「燃えてる……」
僕のその声は震えていた。
……燃えている。あの時と同じ……光景……。
投げ出された仏の像に矢を放ち……火をつけた……。
この場所で……この場所が……また……。
「あ……あ……」
目に焼き付けるように映る真っ赤な火が、体を硬直させて、声まで奪う。
混乱を始める僕だったが、蓮の声にハッとする。
「羽矢っ……!!」
……違う。違う。
「羽矢っ……!!」
回向が羽矢さんへと歩を急いだ。
相手は……死神をも倒せる者……。
うつ伏せに地に倒れている羽矢さんが目に映る。
羽矢さんはピクリとも動かない。
「羽……!」
驚きと恐怖で声が続かず、僕は息を詰まらせた。
違う。違う。
バリバリと空間を裂く稲光。重く地に落とす轟音が、激しく辺りを赤く、赤く、真っ赤に燃やす。
羽矢さんへと急ぐ僕たちの前を阻む声が、界を裂くようだった。
「道を繋ぎ、導きを与え、説き伏せて私を従わせるつもりだったか? 従うのはお前たちの方だ。私に従わなければ、即刻、焼き殺す」
仏が主で神が従。
神が主で仏が従。
仏は祟らないが。
……神は祟る。
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