第8話 呪殺
住職の言葉に立ち上がった羽矢さんは、本堂を後にする。
僕も蓮は、羽矢さんの後を追った。
「羽矢」
足を進めながら、蓮は羽矢さんを呼んだ。
羽矢さんの歩く速度が速かったからだろう。羽矢さんが抱えた怒りも責任も、とても大きなものだ。
だからこそ、心配も大きくなる。
「心配は無用だ、蓮。お前も分かっている通り、俺にも分かっている。だけどさ……思うよ……」
「羽矢……」
苦笑しながら羽矢さんは言う。
「感情に境界を持つ方が……馬鹿なのかってな……」
「……それは……俺もそう思う事はないとは言えないが……それでも……」
「……ああ」
蓮と羽矢さんの言葉が同じに重なった。
「「侵してはならない境界があるんだよ」」
向かうところは決まっていた。
あの呪いの神社だ。
考えてみれば住職は、僕たちが戻って来るのを待っていたのだろう。
時を見計らうような言葉だと気づいた。
時は丑の刻。
あれ程の数の
あの神社に怨念が集まるのも、怨念を叶える神社だからこそであり、そこに足を踏み入れる者は当然、呪殺を企んでいる。
呪殺が叶ったとして、呪殺した側の者の怨念は消えたとしても、呪殺された側の者は怨念を抱える。連鎖が続くという事だ。
鳥居を抜け、中へと入る。
参道の灯籠には明かりが灯り、手水舎には水が流れていた。
この神社は本当に、怨念を抱えた者たちを迎え入れているのだろうか。
そんな疑問が浮かぶのも、人を呪い殺そうと死を望み、その思いを神に託す……それ自体がおかしな事だ。
そもそも神道は、死を穢れとしている。だから神社内に墓はない。
だが、この神社はまるで死を呼び込んでいるようだ。
神木を前に足を止めるが、釘を打ち込む音は聞こえなかった。
蓮が神木へと近づく。
その瞬間。
バリッと音を立てて、神木の幹が口を開けると、無数の人形が飛び出して来た。
「羽矢っ! 狩れ!」
「任せろ!」
羽矢さんの手に握られた大鎌が大きく振られると、人形を狩り取っていく。
勢いをなくした人形が、ボトボトと地に落ちていくが、羽矢さんの大鎌に青白い光を纏っていた。
羽矢さんが指を弾くと、大蛇の形を作った使い魔が現れ、大きく口を開ける。
羽矢さんが再度、大鎌を振ると、大鎌に宿った青白い光が使い魔に飲み込まれた。
使い魔は光を飲み込むと身を捻り、神木の周りをぐるりと囲んだ。
「返して貰うぞ」
羽矢さんはそう言うと、数珠を握り誦経を始めた。
数秒
互いの力が押し合うようだった。
口を開けた神木の幹から、赤黒い闇を吐き出してくる。
空間を広げようと吐き出される闇は、広げる事が出来ずに幹の中へと押し戻されていった。
「行くぞ」
羽矢さんの言葉に、頷く僕と蓮。
先に羽矢さんが幹の中に飛び込んだ。
「依」
「はい」
蓮に手を取られて、僕たちも幹の中へと入った。
坂を下り、先行く羽矢さんを追う。
……この感覚……似ている。
坂を下り終えた時に感じた、熱気と寒気が中和されたような生温い感覚。
そして、水の音がする。
「蓮、依」
羽矢さんの呼び声に、羽矢さんの元へと向かった。
羽矢さんの目線を追うと、地から水が湧き上がっているのが見えた。
……泉だ。
じゃあ……さっきの坂は……。
僕は、来た方向を振り向いた。
蓮の声に、僕は泉へと視線を戻した。
「
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