第100話「白山神社」

私達は白山神社の総本宮のある地にやって来た。

この地は加賀百万石と有名らしい。

https://www.club-t.com/ct/kanko/guide/kokunai/info/k_016/

藩主の前田家は徳川家との結びつきが深まるにつれて、京都通いが増して美術工芸に興味を持つようになったと言われる。

そのため藩をあげて、京都より多くの名工達を招き、美術工芸奨励を推し進める事になった。

その努力も実り、豊かな食文化と料理の美味しさが有名になって行った歴史があるそうだ。

近年では、食通で有名な『北大路魯山人』のゆかりの地でもあると言う。



「へー、この国は何処でも御馳走があるんだねぇ」


「白海老とか有名なんですよ」


「桜エビとは違うんだ、あれも美味しかったなぁ」


「こちらは日本海の海鮮が楽しめそうですよ」



白山神社は石川、福井、岐阜の3県にわたり高くそびえる白山にあるらしい。

その霊峰白山は富士山・立山は日本三霊山の一つに数えられているそうだ。

白山そのものを御神体として、頂上が奥宮になるというのは他の山も一緒だね。


加賀一ノ宮、白山比咩神社の御祭神は白山比咩大神様、‎伊邪那岐尊様、‎伊弉冉尊様となっている。

http://www.shirayama.or.jp/hakusan/info.html


主祭神の白山比咩大神は菊理媛命とも言われている。

しかし本当の主祭神は瀬織津姫なのである。


瀬織津姫は清らかなる水の女神で、祓戸四神の一柱にして祓い浄めのを司っている。

水と言っても、海の水と違って地上の清水の方で清らかなる川、所謂いわゆる瀬下り津姫。

古事記・日本書紀には記されていないけど、神道の大祓詞に登場する女神様だ。

天照大神の皇后で、天照大神の名代として活躍された事があるそうだ。



「結構な上級神なんだ」


「何で白山比咩大神様を菊理媛命と言っているんでしょうね」



菊理媛命は不思議な女神で、『黄泉比良坂で、伊耶那美いざなみと口論になった伊耶那岐いざなぎに意見を述べた』とそれ位しか記述が無い。

ただ単に通りすがりの者に過ぎないばかりか、何者なのかも知られていない。

繋がりが見つからないし、解らないにも拘らず、何故か人気がある。

九頭竜や十一面観音と同一視される事もあるのだとか。



「何ともあやふやと言うか、どっちだろ」


「この国では大事な事ほど隠される事が多いようですね」


「つまり、瀬織津姫様の影武者が菊理媛命って事?

 女神は武者じゃないけど、まぁそういう立場って事で」



これは都市伝説になるだろうけど、菊理媛命はシュメールで『クババ』と呼ばれていたという見方もある。

『クババ』事、『ク・バウ』は実在の人物で、シュメール王名表によれば彼女はキシュ第3王朝のただ一人の女王だ。

紀元前2千年紀にヒッタイト人およびフリ人の間で『クババ』の名は知られるようになった。

『クババ』は、アナトリア半島のフリギアで『キュベレー』の名で崇拝され、古代ギリシアや古代ローマにも信仰が広がった。



「うーん、何だかあっちこっち移動していて訳が判らないよ」


「ジブリールだって、どういう経緯いきさつがあったのか解りませんけど、中東の大天使になってましたからね」



どんな経緯いきさつがあったのか、聞こうにも今のジブリールは先のジブリールとは違う。

どちらも豊宇気姫様の分御霊ではあるけど、別者だから性格も違えば、記憶も受け継いでいない。

だから聞こうにも聞く事が出来ないのよ。


神代の時代から今でも神々は世界中を渡り歩いている。

地域や時代によって方言が出来るように、伝わる神命が訛ったりして伝わったりする。

『菊理媛』→『ククリ姫』→『クババ』『ク・バウ』→『キュベレー』というように。

キュベレーの名前の意味は『知識の保護者』とされているらしい。


キュベレーはキューブの語源となったそうだ。

何となくだけど、キューブは人類を進化させるモノリスを彷彿させる。

映画の監督の名がキューブリックだからキューブなんて関係は決して無い。



「うーん、語感が似てるけど、こじつけという気もしないでもないけど」


「本に聞けば、全ての謎は氷解しますよ、きっと」



何だかモヤモヤした気分で麓の白山比咩神社に向かった。

この神社が全国白山神社の総本宮で霊峰白山を御神体とする。



「ごめんくださーい」


「はい、どちら様でしょう?」


「観光旅行で立ち寄ったんですけど、ご挨拶をと思いまして」


「ご挨拶ですか、外国の方がわざわざすみませんね」



対応に出て来た巫女さんは報告のために社殿の奥に向かう。

やがて戻ってきた巫女さんは奥宮の祈祷殿である参籠殿に案内してくれるという。



「まさか、この方が菊理媛様じゃないよね?」


「菊理媛様は参籠殿におられますので」


「そうですか」



表宮はあくまでも参拝者向けの会見の場でしかなく、実務は奥宮で行っている様だ。

祭事が無い限り、普段、祭神は奥宮で仕事を続けている。

私達は延々と続く山道を登って行く事になった。



「ヘアピンカーブの連続だねぇ」


「ヒルトさんは走り屋なんですか?」


「いえ、違うけど」


「ふふふ、冗談ですよ。

 このような道を九十九折つづらおりと言うのですよ」


九十九折つづらおりねぇ」


「それくらい幾重にも折り畳まれた道なんですね」



山道ともなれば、山頂まで一直線に道が引ける訳じゃない。

車両には登れる傾斜度に限度があるし、土砂崩れ対策の意味もある。

だから横方向に逃がさなければ、緩やかな傾斜が稼げない。

そういう理由で折り返しを頻繁に造らなければならなくなる。


私達は景色を楽しみながら山頂の参籠殿を目指す。


山頂を目指しながら私は色々と思いを馳せる。

山は麓の漁場を潤す恩恵をもたらす。

昔は山の恵みで暮らす人々がいた。

やまとの国の人達は元々山人やまとだったのかも。


人が増え平地に下り、畑作や稲作が盛んになるまでは、山で暮らす方が恵があっただろう、

食物の関係を考えれば、山か海が最適な生活の場となる。


神々は山と関係が深いのもその辺りにあったに違いない。

そして神々の世界は高い所にあるという共通認識がある。

オリンポス山の神々、山王ヒマーラヤのデーヴァ神族の神々、そして高千穂の峰に降臨した神々。

考えてみれば皆、天空の神々じゃないの。


アース神族の住まうアスガルズが階層の上にあるとはいえ、平地にある。

という事は、割と新しい神界なのかも。







やがて白山頂上の奥宮祈祷殿『参籠殿』に到着した。

ここも場所が場所だけに麓の社殿より、外見はこじんまりしているね。

社殿の中は外界と違い神界にあるから、様相は全く変わる。



「初めまして、瀬織津姫様?」


「いえ、私は菊理くくりです。

 瀬織津姫様はただいま出張中でして」



何でも河川の整備に出払っているのだとか。

その御陰で台風で洪水が起こる事が少なくなっているそうだ。



「うーん、瀬織津姫様は治水管理局なのかぁ」


「まぁ、当たらずとも遠からずですね」



菊理媛くくりひめ様は私の感想に苦笑した。


神々は皆龍神の姿をとれるし、龍神も人の姿をとれる。

それがドラゴニュートとドラゴノイドの違いかな。

そもそも龍神とは何ぞやと言えば、流れの神という一面もある。

水も大気も大海も大地の気も普段から流れ、巡回している。

それらの流動を管理する神が龍神であり、龍神がいなければ対流は起こらないと言って良い。



「私も龍に変化出来るんですかね」


「ヒルトさんは北欧の方ですよね。

 龍をイメージ出来るかどうかに関わります」


「そうですかぁ」



考えてみれば北欧にあんな細長いドラゴンはいない。

いくらみんな龍神の末裔と言われても、上級神のオーディン様にも無理かもしれない。

神界からも龍神の記憶が忘れ去られているのだろう。



「皆様、中へどうぞ、おもてなしを致しますね」


「あ、はい、ありがとうございます」



私達は白山がどのように霊山として拓かれたかを説明を受けた。


養老元年717年に役行者に次ぐ修験道界の巨頭・泰澄大師によって白山に登って開山、禅定道の拠点になった。

白山山頂には火山の噴火で出来た緑碧池翠ヶ池があり、白山比咩はまずこの池から九頭竜王という九つの頭を持つ龍神の姿で出現した。泰澄がその姿に満足せず、さらに祈念すると、それはやがて真の姿である十一面観音に変身したという。

これが白山権現のルーツとなったそうだ。



「うーん、神も仏もごっちゃごちゃだねぇ」


「そうですね、みなさんは仏教の何たるかを知らないのですから、神の別称になっていますね」


「ところで、菊理媛くくりひめ様は『キュベレー』なんですか?」


「そうですよ、良く御存じで」



『キュベレー』は『知識の保護者』だから、隠された知識を教えてくれるかもしれないと思った。



「貴女は何を知りたいのです?」


「あー、いえ、何を知りたいのか判らないし」


「なら、数魂の説明でも宜しいですかね」


「お願いします」



菊理媛くくりひめ様の講義が始まった。


物事には数字に意味を託す場合が多いと言う。

それが数魂の根本だ。


先の伝承を例にとると、『白山の翠ヶ池から九頭竜が現れた』とあった。

この際、鯉が龍になる諺に『六六変じて九九鱗と成る』というのがある。



九九鱗くくりんとククリの語呂が似ていると感じませんか?」


「似てますね。

 愛称ニックネームが『くくりん』なら可愛いかと。

 クリリンにも似てると言うか」


「いえ、愛称ニックネームじゃなくて『数霊かずたま』のお話です」



坂道が九十九折になっている山道を私達は上って来た。

ここに99という数字が隠されている。

99は100ー1、漢字で書けば百→白となる。

⑨頭龍×⑪面観音で応えは99ククになる。



「何だか都合良く合致しますね」


「何かをくくる意味もあるのです」



二つの意味の円が合わさる神聖幾何学ヴェシカパイシスでは、そこに生命誕生を象徴する。

そればかりか円が重なった所は、キリスト教初期の頃の魚のシンボルにもなっていた。円のそれぞれを男性原理(陽)と女性原理(陰)が合わさる所に子が生じる表徴に龍として表わされる。

または二つの円が重なった所に誕生の円を現すと『目』の形になる。

神聖幾何学は形に意味を持たせる『形魂』とも言えるだろうと説明された。



伊耶那岐いざなぎ様と伊耶那美いざなみ様を括った龍が菊理媛くくりひめ様とも見る事が出来ませんか?」


「括ってないと思いますけど」


「そうですね、しかし事象と数字の関係性は感じますでしょう?」


「そう言われればそうかも」



解ったような、解らないような。


数字に意味合いを持たせる事は解ったけど、憶測やこじつけの感じも抜けいない。

様々な物事で数字に暗号のように意味合いを持たせる事が多々ある。

意味付けは良いけど、ノーヒントで『数霊かずたま』を読み間違える可能性は高いだろう。『数霊かずたま』は何かと物事の暗喩として意味を持たせられ活きて来るという。


因みに悪魔の好む数字は『3』忌み数の『13』、『18』『666』がある。

聖書で語られる獣の数字『666』は『弥勒みろく』とも受け取れる。

大般涅槃経だいはつねはんぎょうで言われる、『釈迦入滅後、56億7千万年に現れる』と言われる弥勒菩薩を指す。

この弥勒の逸話は本来の仏教の教義を貶め、隠すために言われているデマだけなんだけど。そして人を表す数字は『000』、つまり『みすまるのたま』だ。


音にも魂は込められ『音魂』となる。

耳で受け入れられるだけに、音楽は魂の共時性を起こし、人の魂を揺さぶれる。

この様は『言霊』に近いと言えるだろう。



「何にでも魂は宿るんですね」


「その通りです」



この後も菊理媛くくりひめ様の講義は続き、歴史を絡めた世界の構造を聞かされた。


神々の高天原の頂きは精神性を現す事。

豊葦原中津国は豊かなる物質の現世界を指す。

黄泉の国は更なる密度の波動の世界を現という。



菊理媛くくりひめ様はキュベレーとして、シュメールやギリシャにいたんですよね?」


「その通りです」



神々の祖はシュメールから戻り、天津神として国津神と政権を交代した。

豊葦原瑞穂の国の最高権力者は神祇官でもあり、天皇として血脈が今でも続いているという。


ヤコブの宗教の神祇官で、最高権力者がローマ教皇と系統は続く。

時代的に天皇の方が古くから神にに仕え、神事を行っていた事になる。

テラフォーマーの神々直系の末裔が、豊葦原瑞穂の国の民で竜神のDNAを色濃く継ぐ者なのだとか。



「他の国々と違い、この国の神話には人類創造の逸話が無いのですよ」


「人類創造の逸話が無いんですかぁ」


「人は皆、神々の子孫であって、アヌンナキが創った奴隷ではないのです」



地政学的に当時文明の中心地がシュメールにあったから、神々の末裔が集まってシュメール文明が興った。

やがて文明の中心地が移動したために、シュメールの神官は豊葦原瑞穂の国に戻り天津神と称されたという。


アヌンナキの神々は、大地の女神キと天空神のアヌの子孫であると神話は残す。

ティアマトの子孫『アヌ』と『キ』が結婚して生み出したのが、神々の集団『アヌンナキ』。

天空神の『アヌ』こそが当時、テラフォーマーの神々のリーダーであり、大地の女神『キ』の子孫は現地人の事なのだとか。


実際には噂されている惑星二ビルは存在しないし、黄金採掘の逸話も関係無い。

神々は世界を創り、地を収めるために受肉して降臨して人の祖先となった。



「何でゼカリアシッチンは人類はアヌンナキの労働力として造ったって言うんですかねぇ」


「あちらの文化圏の人だから、考えの根底に『聖書』があるのですよ」



聖書では人類の支配者として創造主の存在が置かれている。

その思想の根底には、砂漠気候の物質主体主義が在って、人々を統率するのに欠かせなかったようだと説明された。

結果として体主霊従になってしまっている。



「本来は霊主体従であるのが、理想的な在り方なのです」



物事は先に精神があり、次に思考があり、言葉があり、言葉が力を与えられ、物事に反映して行く。

この工程は唯一神ともいえる世界の全てなるものの工程の追体験であり、同じ法則に則っている事になる。



「なるほど、『言霊』の位置付けが解った気がします」


「次元的に上位の階層に在る神々も、同じ法則に則っています。

 ですから、世界の全てなるもの以外に、唯一の人格神などいないのです」


「そうだったんですかぁ」



今子孫は白色人と混ざっているけど、私達アース神族は青色人の祖神という事になる。

太古には神々の血流の一つで元のテラフォーマーの神々に近かった巨人種がいた。

地上界では環境に合わなくなり撤退したり絶滅したりしたけど、ムスペルヘイムやニヴルヘイムに生きている。



「世界中のみんなは古くにさかのぼると繋がっているんですね」


「そうです。

 それが解れば『八紘一宇はっこういちう』の精神も理解出来るかと思いますよ」


「なるほどー

 流石、菊理媛くくりひめ様は『知識の保護者キュベレー』ですね」



世界の皆はいにしえの知識を忘れたか、時の権力者達に歪められ抹殺されているのが理解出来る。

人は利権や権力欲で神々の精神から遠ざかって行くのだろう。

やがては人の浅知恵で対処出来なくなる時が来る。

そうならないために、人は神の奴隷ではなく、神と共にあれば良いのだ。

共に在る神々を認識できれば、何も無理に信じる必要も無い。



菊理媛くくりひめ様のお陰で色々知り、悟る事が出来ました」


「それは良うございました」

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