第98話「横須賀」

横須賀はかつては海軍施設があった一つ。

今は在日アメリカ海軍の基地があると言う軍港だね。

時と場合によっては巨大な空母 潜水艦、イージス艦を見る事が出来る様だ。



「ヒルトさんは結構軍事関係が好きなんですね」


「まぁ、仕事柄かなぁ」



海賊と言われるヴァイキングって、この世界風に見れば『海軍陸戦隊』とか『海兵隊』とも言えるんじゃないかなと思う。

元々は農民や木こりだから斧を武器にする。

村で海賊をするから有名な女戦士だっていた

そんなヴァイキング達が今もいて、こういう近代兵器を手にしたらと夢想しちゃうんだよね。



「しっかし、空母って実際に見ると本当にでっかいね」


「そうですね、島が動くと言うか、街そのものが船になっていると言うか。

 それを言うなら、豪華客船の方が当て嵌まってると言うか」


「豪華客船?」


「洋上に浮かび動くホテルですね」


「ふーん、一度乗ってみたいものだねぇ」


「金持ち用の船ですから、乗船料が凄く高額らしいですよ」


「そんなにー???」



空母は日本が世界初と言われている。

だだっ広い太平洋の敵地で戦闘機を使い戦うには、距離的に人も航空機燃料も持たない。

ならいっそ敵地まで、滑走路付きで航空機を運んじゃえば良んじゃね?

そんな発想から出来たのが、航空母艦という訳。


ジェット機は速度は出るけど、長く滑走路が必要になる。

だから今の空母は大きくならざるを得ないし、それでも足りなくてカタパルトで押し出す必要がある。

身近な例だと、紙飛行機をゴムで打ち出すのと同じ原理だ。

船が大きい程、航空機も多く搭載する事が出来る。

巨大な空母の中は、一つの軍事施設である街が入っているのと同じ。



「それにしても、こんなに大きいと敵から的になり易いと思うんだよね」


「それは正解ですね」



巨大な空母は無敵の象徴にはなり得ない。

航空機が離発着できる大型輸送船に過ぎないのだから。

戦場に出るなら、空母を護る攻撃能力のある船も同行する船団を組むのは当たり前の事。


護衛艦は大砲の代わりに、ミサイルが主流になっている。

砲弾より遠くの的を狙うには、より遠くまで飛翔出来、精密破壊が出来るミサイルという事になっている。


この時代、大砲の需要が無くなった訳じゃなく、次の世代の大砲として電磁砲が考えられている。

ミサイルのような高価な兵器より、安価な質量弾を遠くの標的に打ち込めれば何よりだから。

だけど火薬を使わない電磁砲は大電力が必要なんだよね。

だから、原子炉を積む空母じゃないと装備は難しいという話になる。

電磁カタパルトが実用化されてるなら、電磁砲まで遠い話じゃないと思うんだよね。



「ミサイルと電磁砲かぁ、ロマン兵器だねぇ、後で資料も買い込んでおこ」


「武蔵くんは再現出来るんですか?」


「はい、それらが何なのか勉強出来たからイメージ出来るようになりました」


「仙道で物質生成が出来れば、実現出来そうですね」


「そうですね」



現象の世界だと何仙姑かせんこの言う通りだと思う。

でも、想念だけで存在出来る世界なら難しくないだろうね。

神界・仙人界・霊界・冥界がその世界に当たる。

ここ現象世界は冥界と近いから、幽霊が云々という話がある。


私達が気配を消したりするのは、現象世界と冥界を跨いでいるから出来る事。

霊感がある人には視えちゃうけどね。



「あの黒いのが潜水艦かぁ」


「鯨みたいにノッペリしていますね」


「水の抵抗を極力減らしてるからかな」



資料で見た帝国日本海軍には、イ400系という潜水空母があったらしい。

潜水空母と言う割には三機しか積めなかったようだ。

でも、当時は驚異的な潜水艦だったんだろうね。


何処に沈められたのか知っておいた方が良いかな。

でもイ400系の潜水艦って深深度まで潜れないだろうね。

潜水艦は、より深く潜れる方が有利だと思うけど違うかな。



「武蔵くんは潜水艦にもなれる?」


「なれません」


「そっかぁ、いや、無理を言うつもりは無いんだよ、

 だから武蔵くん、気にしないで、君は十分過ぎるほど凄いんだから、ほんとに」



私達は三笠公園に向かった。

ここには武蔵くんの祖父格の戦艦三笠がある。

『三笠』は海に浮かんでいるのではなく、コンクリートで埋め立てられて陸上に固定されていた。


応急修理のままであった破損部位から大浸水を起こし、そのまま着底したらしい。

そこで舳先を皇居に向けた後、船体の外周部に大量の砂が投入されると共に、下甲板にコンクリートが注入される。

そんな経緯で現在『三笠』は海に浮かんでいるのではなく、海底に固定されて世界の三大記念艦の一つとされているという。



「人で言うなら、寝たきりの退役軍人といった所かなぁ」



まるで神界アスガルズで要介護のエインヘリヤルを見てるような気がしてきた。

今は過去を物語る遺産になり果てているのが物悲しい。


取り敢えずは乗艦して当時の面影を見て回る事にする。

https://www.youtube.com/watch?v=nKs-2uJ1nbY


旋回砲塔の壁は本物らしいけどベコベコと何か頼りない。

船縁の機銃は壊れたまま飾られている。

明治時代のの雰囲気を持つ備え付けの家具や机は当時の雰囲気を物語る。

操舵輪を回すと船乗りの気分を味わえる。



「ヴァイキング船に比べると、とんでもない進化だよねぇ」


「はぁ、そうですか」



この国にも織田信長の時代、安宅船あたけぶねに鉄板を張り前方に大砲を備えた鉄甲船が造られたという。

いくら先進的でも、外洋に出られなかったのが残念な所だね。

ヴァイキング達にもそんな船が有ればと夢想しちゃう。


艦長室に日露戦争時の英霊『三笠』の舟魂はいた。

どう見ても往時を思い出しながら余生を送る退役軍人といった風体だ。



「おや、海軍士官服を着た少年も舟魂かね」


「はい、僕は『武蔵』です」


「君は戦艦武蔵だったのか、噂は聞いておるよ。

 終戦も近い時期に苦戦だったようだの、お疲れ様じゃった」


「僕には無念しか残りませんでしたよ」



『三笠』爺は自分の戦いを思い出しながら語りだす。

話は無敵艦隊と評判のバルチック艦隊を打ち破った時の自慢話になる。



……T字戦法って帆船時代の戦列艦の戦い方なんじゃ?

  やっぱり漢は衝角ラムアタックと白兵戦が華だよねぇ。



「お嬢さんは船が好きそうだねぇ」


「まぁ、ワルキューレだから船には無関係でもないかな」



この国は昔倭寇わこうが有名だったりする海洋民族だった

その血統は海部氏に引き継がれる。

時代と共に消えてしまった倭寇わこうは北欧のヴァイキングと同じだ。

でもいまだに神界アスガルズのグラズヘイムにある『戦士の館』ではエインヘリヤル達はいる。

神界と現象界はリンクし合ってるというのにねぇ。



少し北欧の国の事を話すと、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーの北欧三国が有名だ。

デンが付く国は元々デーン人の国という事になる。

イギリス初代国王はバイキングだったんだよね。

当時はそれくらい勢力圏が広かった。


ノルウェーは同じ北ゲルマン語群に入る国なんだけど、北欧神話に登場する運命の女神ノルンに関りがある。

運命を司る女神ノルン三姉妹を複数形でノルニルという。

ノルニルはアース神族に組み込まれてるけど元来、女神ではなく女巨人ヨトゥンだったらしい。

その事は『巫女の予言』と『ヴァフスルーズニルの言葉』に示されている。


三姉妹の一柱ひとりスクルドはワルキューレでもあった。

ワルキューレ隊司令官フレイヤ様と違って、スクルド様がワルキューレと思われていなかったのは輜重輸卒部だったから。

私の先輩と言える女神様なんだよね。

地味な部署で働く者には脚光が浴びる事は無いに等しいのだ。

だからノルニル三姉妹の方で知名度が高い。



「この国って何で国旗が二種類あるんですかね」



何仙姑かせんこの疑問に武蔵くんと三笠爺が答えてくれる。



「日の丸と旭日旗の事ですか?

 旭日旗は今、準国旗とされているんですよ。

 歴史的に鎌倉時代から一般的だった日の丸日章旗を薩摩軍が採用した。

 それを明治維新で幕府陸軍が軍旗として採用したんです」


「陸軍に反目し合っていた海軍が、旭日旗を採用したのですよ」


「へぇー、そんな訳で国旗が二種類もあるんだぁ」



一通りの会見が終わった後、私達は噂の『海軍カレー』とやらを食べに行く事にする。

カレーライス等の洋食を『脚気予防策』として、海軍の給食に取り入れたのが始めらしい。


今では広い海上で過ごしていると、曜日の感覚が無くなって来るらしい。

そのために金曜にカレーを食べるのは、長期間の海上行動時でも曜日を忘れないようにするそうだ。

店を回ってみたら結構種類が多いし、味も微妙に違う。



「うん、これはこれで結構美味しい」


「そうでしょ」


何仙姑かせんこさんはラーメン専門じゃなかったんだ」


「今回の旅行目的はグルメ旅行のつもりなんですよ」


「だって、いつもラーメンラーメンって拘ってるし」


「アイヤー、美味しいんだから良いじゃないですか」


「カレーって確かチャンディードゥルガー様の国の料理だったんじゃ?」


「魔改造されまくって別な料理になっているらしいですよ」


「考えてみれば、インドでこういうカレーを食べなかったですね」



丸藻まるもも含め、武蔵くんとジブリールver.2のチビッ子組もカレーライスが美味しいと見えて夢中で食べている。

ここでもカレールウやレトルトを大量買いをしておく事にした。

インスタントラーメンにしろ、カレーにしろ、アスガルズの同僚に受けるに違いない。

誰が言ったか、この国は美味し国ぞって、その通りだったよ。



「じゃぁ、次は諏訪大社がある地だね」


「では、移動用の竜を用意しますね」



私達は何仙姑かせんこの竜に乗って空路で諏訪に向かう。

結構軍用機を見る事が出来るなぁ。

ひょっとして私達、未確認飛行物体UFOだと思われてる?




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BGMにどうぞ

https://www.youtube.com/watch?v=FwD8m0xqFC0

日本海軍演奏

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